助成対象詳細 | 公益財団法人トヨタ財団

公益財団法人トヨタ財団

助成対象詳細

Details

2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research) ]

民族の聖山と政府の保護区が併存する地域での資源管理に関する考察 ―中国広西大瑤山を事例に
Natural Resource Management in Mount Dayao, Guangxi Prefecture, China

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

本研究の調査地である中国広西壮族自治区大瑤山は、森林資源が豊富な水源地であり、希少な薬草や香辛料となる植物も生息する動植物の宝庫である。地域住民の瑤族は、大瑤山を伝統的に聖山(神の山)と呼び、資源を管理・保全してきた。一方で政府は、近年、この地域を保護区として封鎖する政策を展開し始めた。これは、集団所有地の使用権を制限することによって環境再生・保全をめざす中国の国家プロジェクトの一環である。現在、政府の入山禁止規制によって住民には補助金が支払われているが、その額は少なく、入山の禁止に対する住民の不満は表面化している。民族の慣習と政府の制度には、いずれも資源管理・環境保全という共通目標が存在するが、そこでの意義、実際の管理方法、保全による効果、誰を対象とした保全かという多くの差異が考えられる。これらの課題に関して、この対立構造のなかで、単に補償金の額を上げることが解決策となるのか、住民と政府双方へのインタビューと参与観察によって、民族の伝統的ルールと政府の新ルールが一つの地域内でせめぎ合う構造を明らかにし、住民生活と国家政策の乖離を打開する可能性を模索する。
  Yao people have been religious life through protect of natural resources in mount Dayao, Guangxi Prefecture of China. There are the rich in natural resources. This is why Yao people called mount Dayao "Sacred mountain" for over 800 years. Sacred mountains are central to certain religions and are the subjects of many legends.On the other hand, In recent years, government decided a mountain nature reserve established, local people were forbidden to enter the mountain, and local people got the ecological benefit.
 The compensation of ecological benefit is an important ecological project that was implemented at the beginning of this century in different regions in China. Yet, various problems emerged during its implementation. Majority of the local could not get enough subsidies because of the incomplete compensation system. The objective of this study is to investigate the ecological compensation of the grazing forbidden project and draw up criteria for the life-style of the farmers in the areas covered by this project. A questionnaire survey and follow up interviews were conducted in Mount Dayao, Guangxi Prefecture, China.
 With the example of Mount Dayao, this study discuss about the gap between local traditional conservation of natural resources and the governmental policy of natural resources protection, and establishes a way of new sustainable development in Mount Dayao.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

政府が自然保護区を新たに制定する際には、これまでその土地を所有、あるいは使用してきた地域住民との土地利用、資源利用をめぐる問題が往々にして発生する。これに関して、中国国家林業局野生動植物保護司は、「国外の大多数の国家は、土地の私有制を実施しており、自然保護区は、一般的に国有地にしか制定することができない。しかし、国家が多くの国有地・公有地を有する場合、保護区の制定は容易である。」と述べ、さらに、「中国は社会主義国家であり、土地が公有制である。土地所有権が国家あるいは集団所有によるものであるため、国家が保護区を制定する過程で焦点となるのは、保護の必要性と保護区の区画線引き、また保護区の自然資源と景観の有効な保護、生態系システムへの配慮、保護区面積と境界の確保である。」と論じている。
 ここで述べられているように、中国特有の土地所有制度は、保護区政策を行ううえで、政府が政策を施行しやすく、その強制力を発揮しやすい形態になっている。しかし、一方で、地域住民生活への影響や彼らの不満を生み出す事態は、中国国内の多くの地域でみられている。この問題に関して、森林和野生動物類型自然保護区管理辧法(1985年林業部公布・執行)第7条には、「自然保護区の制定には、明確な保護対象と最も適切な範囲の決定をして、当該地経済と住民の生産・生活の需要を考慮する。」、「国家の関連規定に基づき、住民の生産・生活に関わる問題を合理的に解決する。」と明記されている。しかし、この理想を実現することは、容易ではなく、中国の様々な地域において、自然資源管理に関する政府と住民の衝突の事例が存在している。
 本研究の調査地である中国広西壮族自治区大瑶山は、森林資源が豊富な水源地であり、希少な薬草や香辛料となる植物も生息する動植物の宝庫である。地域住民の瑤族は、大瑶山を伝統的に聖山(神の山)と呼び、資源を管理・保全してきた。一方で政府は、近年、この地域を保護区として封鎖する政策を展開し始めた。これは、集団所有地の使用権を制限することによって環境再生・保全を目指す中国の国家プロジェクトの一環である。現在、政府の入山禁止規制によって住民には補助金が支払われているが、その額は少なく、入山の禁止に対する住民の不満は表面化している。民族の慣習と政府の制度には、いずれも資源管理・環境保全という共通目標が存在するが、そこでの意義、実際の管理方法、保全による効果、誰を対象とした保全かという多くの差異が考えられる。これらの課題に関して、この対立構造のなかで、単に補償金の額を上げることが解決策となるのか、住民と政府双方へのインタビューと参与観察によって、民族の伝統的ルールと政府の新ルールが1つの地域内でせめぎ合う構造を明らかにし、住民生活と国家政策の乖離を打開する可能性を模索した。
 したがって、本研究の目的は、(1)保護区制定前(民族の伝統的資源利用)と保護区制定後(政府による資源保全)の差異を明らかにする。(2)保護区制定後の住民生活変化の内容と不満を明らかにする。(3)政府からの補償金と住民の資源保護へのインセンティブを明らかにする。(4)今後の保護区政策に対する住民の考え・希望を明らかにする。 という4つの項目に分けられる。
 研究調査期間は、2012年10月~2013年11月(1年間)であり、前期半年において、先行文献研究(中国の自然資源管理に関する官民の対立)、2013年2月には、現地調査として、大瑶山国家級自然保護区管理局、瑶族民族資料館でのインタビューを行った。さらに、後期半年には、2013年8月に大瑶山自然保護区の保護区内に唯一存在する集落である龍安屯の16戸全戸を対象にインタビューを行い、また広西政府でのインタビューを行った。
 ここから明らかになったことは、大瑶山の自然資源をめぐるポリティクスは、これまでの歴史のなかで、同じ瑶族という民族内部での特権の有無による対立、また民と官の対立が繰り返され、特に、新中国建国後には、政府の政策の失敗により、破壊的な自然資源の破壊が招かれたことである。それを受け、強制的な入山禁止による自然保護区政策が展開され約30年が経過した今日、森林被覆率は96.3%にまで回復をし、多くの動植物の保護がなされている。しかし、一方で、これまで伝統的に山の資源を活用してきた保護区周辺地域の極貧化は深刻である。現地調査を行った地域では、「政府の政策には逆らえない」という理由を自然保護へのインセンティブとしている。また政府からの補償金の額に不満を募らせ、これまで政府への陳情も行っている。瑶族の祖先崇拝のなかで神として存在する大瑶山への信仰や祭事は現在も継承されているが、山の資源を利用する機会もなく、村外への出稼ぎ増加により山岳信仰の伝統文化も弱まり始めている。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-0106
題目(Project Title)
民族の聖山と政府の保護区が併存する地域での資源管理に関する考察 ―中国広西大瑤山を事例に
Natural Resource Management in Mount Dayao, Guangxi Prefecture, China
代表者名(Representative)
菊池 真純 / Masumi Kikuchi
代表者所属(Organization)
早稲田大学国際教養学部
School of International Liberal Studies, Waseda University
助成金額(Grant Amount)
700,000
リンク(Link)
活動地域(Area)