助成対象詳細 | 公益財団法人トヨタ財団

公益財団法人トヨタ財団

助成対象詳細

Details

2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research) ]

日本における野生動物の分布域の歴史的変遷とその要因 ―考古動物学の確立をめざして
The Primary Factors of Historical Changes to the Distribution of Wild Animals in Japan: Aiming for the Establishment of Archaeozoology

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

遺跡から出土する動物遺存体は「考古学」だけのものではない。遺跡出土の動物遺存体は過去の遺物であるが、野生動物の保全や管理を考える上で、現在にも、そして将来にも貢献できる資料である。本研究では、考古学で得られる情報から、野生動物の分布域の歴史的形成過程を明らかにし、その分布域の拡大や縮小に影響を与えた要因を環境・人為の両面から検討して「動物学」に貢献することを目的としている。
 これまで遺跡出土の動物遺存体は、当時の狩猟や漁撈など「人間活動の歴史」の研究に大きく貢献してきた。それに対して「人間活動の影響を受けた動物の歴史」の研究はほとんどおこなわれていないのが現状である。これは、遺跡出土の動物遺存体を扱う研究者が考古学や歴史学などの研究分野に偏っているために、研究目的が人文科学的な興味・関心に集中して「考古動物学」という視点自体が希薄であることが要因と考えられる。
 本研究による研究成果は、文化財の活用という面においても、既存の枠組みにとらわれない連携が期待できる。これまで考古学の研究成果は歴史系博物館の展示が中心であったが、自然史系博物館においても歴史と自然を総合させた展示や教育活動に貢献できるものと考えられる。
  The animal remains recovered from excavations at archaeological sites are not only for "archeology". These remains are relics from the past but they are also materials that can contribute to the present and future preservation and management of wild animals. Our research aims to use archaeological data to make clear the historical distribution of wild animals. Through the study of the environmental and human causes of the the expansions and contractions of these distributions, we aim to contribute to "zoology".
 The archaeological excavations so far have contributed greatly to the history of human activity through the study of hunting and fishing methods used at that time. Presently, there is no research being done on the history of animals that were affected by human activity. Due to the fact that the scientists who handle the excavated animal remains are likely to be inclined toward historical and archaeological study, their interest lies with the social sciences and they are indifferent toward archaeozoology.
 Our research results, even when applied to cultural properties, is anticipated to find new links that are unobtainable in the present research methods. So far, archaeological research results have been focused on history museum exhibits but these results can also contribute to natural history museums with displays and educational activities featuring a synthesis of history and nature.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

現在の動物の分布域は「自然環境」とともに「人間活動」の影響を受けながら形成されたものである。本プロジェクトの研究課題は、遺跡から出土した動物骨から、自然環境の影響だけでなく人為的な撹乱も受けながら形成されてきた野生動物分布域の歴史的変遷とその要因を明らかにすることである。

 遺跡出土の動物骨から、動物を利用した人間の歴史を研究する分野を「動物考古学(Zoo-archaeology)」、人間活動の影響を受けた動物の歴史を研究する分野を「考古動物学(Archaeo-zoology)」という。これまで遺跡出土の動物骨は、当時の狩猟や漁撈などの「人間活動の歴史」に関する研究に大きく貢献してきた。それに対して「人間活動の影響を受けた動物の歴史」に関する研究はほとんどおこなわれていないのが現状である。これは遺跡から出土する動物骨を扱う研究者が考古学や歴史学などの研究分野に偏っているために、研究目的が人文科学的な興味・関心に集中してしまい、「考古動物学」という視点自体が希薄であることが要因と考えられる。

 そこで本プロジェクトでは、まず①遺跡出土の動物骨を集成して分布域の歴史的変遷を検討した。次に、②当時の生息環境に関する基礎的データもあわせて集成して分布域形成の環境的要因を評価し、③当時の狩猟圧や採集圧を検討して分布域形成の人為的要因を評価した。

 その結果、以下の点を明らかにした。①の分布域の歴史的変遷では、海岸部の貝塚出土骨だけでなく内陸部の焼骨も集成することにより、現在の特別豪雪地帯にあたる地域でもイノシシやニホンジカが出土することを明らかにした。②の分布域形成の環境的要因では、積雪量との関連性が指摘されるブナ属やササ類を検討して、現在の特別豪雪地帯にイノシシやニホンジカが出土した時期の気候や積雪量は現在と大きく変わっていない可能性が高いことを指摘した。③の分布域形成の人為的要因では、歯の萌出交換とともに、骨端癒合状況による年齢査定もあわせて実施したところ、イノシシやニホンジカに対する高い狩猟圧は確認できなかった。

 従来、イノシシは積雪深30cm以上、ニホンジカは積雪深50cm以上の地域には分布しておらず、積雪が分布制限要因と考えられてきた。しかし、本プロジェクトで明らかにしたように、積雪と分布の関係は過去には成立しない可能性が高い。これは近年、積雪量の多い地域にもイノシシやニホンジカの分布域が拡大している事実とも合致している。生息数の増加や分布域の拡大により農林水産業への被害が深刻になるなど、野生動物の適正な保護管理の推進には社会的に大きな関心が持たれている。遺跡出土の動物骨は、当時の人々によって狩猟された動物であるため、人為的撹乱を含めた「人と動物の関わりあい」の歴史を示す資料でもある。本プロジェクトは、過去を明らかにするだけでなく、今後の野生動物の保全や管理を考える上でも重要な材料を提供できるものといえる。

 なお、こうした研究成果の一部は、日本哺乳類学会や動物考古学研究会で発表するとともに、学術雑誌『動物考古学』に論文を投稿した。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-0241
題目(Project Title)
日本における野生動物の分布域の歴史的変遷とその要因 ―考古動物学の確立をめざして
The Primary Factors of Historical Changes to the Distribution of Wild Animals in Japan: Aiming for the Establishment of Archaeozoology
代表者名(Representative)
山崎  健 / Takeshi Yamazaki
代表者所属(Organization)
奈良文化財研究所
Nara National Research Institute for Cultural Properties
助成金額(Grant Amount)
1,600,000
リンク(Link)
活動地域(Area)