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助成対象詳細

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2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research) ]

非体験世代のための新しい死生観の創出 ―紛争後の東アジア島嶼地域から
Creating New Views on Death and Life for Non-experienced Generations: From the Case Studies of Islands in East Asia Region in the Post-conflict Era

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

本研究の目的は、二十世紀中葉、東アジアにおいて日本、中国、韓国という国家の関与によって発生した大量の死をそれぞれの社会及び個人がいかに解釈し、いかに意味づけてきたかという過程を検証することにある。そのために、沖縄戦と台湾二二八事件、済州島四・三事件をとりあげる。
 これらの死への対処をめぐって、各地域には、様々な社会修復策や被害者救済策が適用されてきたが、こうした法律と政策に基づいた大量死の意味づけ、いわゆる「死者の犠牲者化」は、つねに「(否定的)ナショナリズムへの回収」という批判に直面してきた。本研究は、大量死の意味づけという事象を、単なるナショナリズム批判から救い出し、死を(国家や民族のためという)「公」と(個人にしかわからない)「私」という二項対立図式ではなく、生者たちの経験と実感に基づいて、その意味化作用を読み解いていく。
 こうした研究は、東アジア社会の負の歴史の傷痕がどのように取り扱われ社会の癒しや和解に寄与してきたのかについて検証することを通じて、非体験世代のための新しい死生観の可能性を模索し、二十一世紀の東アジア社会に和解と相互理解を創りだすための基礎作業でもある。
 This study aims at verifying how each societies and individuals interpret and add meanings to the mass-killings in which the nations in East Asia (such as Japan, China, and South Korea) had involved in the middle of twentieth century. To achieve this, I will focus on Battle of Okinawa, 228 Events of Taiwan, and Jeju April 3rd Events of South Korea as case studies.
 Each nation-state has applied various restoration plans or relief measures in coping with the deaths from the massacres. However, the ascription of meaning to mass-killing based on those laws and measures, that is to say 'victimization of the dead', has already encountered criticism that it is being incorporated into the nationalism. This study does not stop at criticizing the ascription of meaning to mass-killing simply as a negative nationalism and, by extension, intends to interpret it based on what they had experienced and felt free from the binary system of official and private matters.
 While investigating how the scars of the negative histories in East Asian societies have been dealt with and then how it have been contributing to the reconciliation and healing of the societies, this study is also a ground work to look for the possibility of new viewson death and lifefor non-experienced generationsand to generate the reconciliation and mutual understanding in East Asian Society of twenty-first century.

実施報告書・概要

Summary of Final Report


 20世紀中葉、東アジアの島嶼地域民は、植民地支配と戦争、虐殺といった諸紛争に巻き込まれ夥しい人命損失と人権蹂躙、共同体の分裂を強いられた。第2次大戦における沖縄戦と日本の植民地支配からの解放後における台湾二二八事件、大韓民国誕生期に起きた済州島4・3事件が代表的な事例といえよう。紛争が終わった後、これらの地域には、関係修復の流れのもと「戦傷病者戦没者遺族等援護法」(日本)と「二二八事件処理及び賠償条例」(台湾)、「済州4・3事件真相糾明及び犠牲者名誉回復に関する特別法」(韓国)が適用され、様々な救済措置が取られてきた。そして、こうした過去克服のプログラムの一環として、各々の公的領域における「大量の死」(mass killing)の意味づけが試みられてきた。その結果、「戦没者」と「受難者」、「4・3犠牲者」として公式化された死者群が創りだされ、かつての紛争を表象・代弁するものとして、過去との主な媒介項としての役割を担っている。さらに、今日においては、紛争後社会の産物ともいえるこうした「犠牲者」の社会的意義が非体験世代に継承される傾向にある。こうした大量死の公的な意味づけは、「死者の犠牲者化」ともいえるように、近代国家が自らの正統性を事後的に主張し国民共同体を維持するために死の意味を独占的・教条的に回収してきたと、歴史学や政治学、社会学などの諸分野から批判されてきた(副田 2001、高橋 2005、表 2005、石原 2007など)。
 本研究の立場は、こうした「死者の犠牲者化」についての批判を評価しつつ、「それにもかかわらずそこに参入した」生者たちの思いを基点とし、それを再検討する点にある。それは、国家の「正当性」に回収させようとする強制力と秩序に、時に順応し、時に抵抗しながら、「転倒されない生活者の便宜、必要、それに有用性」(松田 2009)によって自分と関わりのある死者を再定位しようとする生者たちの実践的な振る舞いを解明することである。このように非常事態で発生した大量の異常死を社会及び個人がいかに解釈し、いかに位置づけ意味づけてきたかについて検証することを通して、従来の「死者の犠牲者化」についての批判的な立場からは看取できなかった紛争後社会の和解の可能性を展望し、さらに非体験世代のための新しい死生観を創出する可能性を模索することに本研究のねらいがある。
 本研究の課題は、大量死の意味づけという事象を、たんなるナショナリズム批判から救い出し、死を(国家や民族のためという)「公」と(個人にしかわからない)「私」という二項対立図式ではなく、生者たちの実感にもとづいて、そのあいだを行き交う彼/彼女たちの「双方向的な実践」を解明することである。具体的には、第一に、公的領域で「死者の犠牲者化」として位置づけられていくプロセスを検証し、第二に、国家が主導するこうした圧倒的に強大な側面とは別の次元において、これらの死が生活世界のなかでいかに意味づけられてきたのかについて考察する。その上で、第三には、国家による死の意味づけを生活世界の論理で捉え返そうとする生者たちの営みを射程に入れる。これらを達成するために、次の三点を重点的に解明する。1)申請主義にもとづく「死者の犠牲者化」において要求される、体験の立証と記述にアプローチできる史料として「<援護法>による申立書」と「<二二八賠償条例>による申立書」、「<済州4・3事件特別法>による申立書」を収集し分析する。2)史実をめぐって相葛藤する記憶が存在する局面において、生者たちの私的記憶の変容をダイナミックに分析するために、以上の「申立書」の作成経験を持っている人びとを主な対象として聞き取り調査を実施する。3)国家の枠組みの中で執り行われている公的な慰霊・顕彰(public commemoration)への参与観察とともに、体験者グループによって創案され今日まで続いている弔いの諸実践(祭祀、クッ、墓回りなど)を参与観察する。また、それらが国家主導のコメモレイションと葛藤・折衷・融合する様相も射程に入れる。
 本研究プロジェクトから得られた成果は、おおむね以下の2点である。第一に、「犠牲者」がもたらすであろう新たな歴史認識上の困難を乗り越えるために、非体験世代のための新しい死生観をより鮮明に浮かび上がることに寄与できたと考える。第二に、東アジアの島々をつなぐ国際比較研究を通じて、ネットワークを構築し、定期的に共同研究会を開催することを通して相互のコミュニケーションの活性化ができたと考える。

*参考文献:石原昌家,2007,「<援護法>によって捏造された<沖縄戦認識>」、松田素二,2009,『日常人類学宣言』、表仁柱,2005,「韓国戦争犠牲者たちの死の処理方式と意味化過程」、副田義也,2001,「死者とのつながり」、高橋哲哉,2005,『国家と犠牲』

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-0281
題目(Project Title)
非体験世代のための新しい死生観の創出 ―紛争後の東アジア島嶼地域から
Creating New Views on Death and Life for Non-experienced Generations: From the Case Studies of Islands in East Asia Region in the Post-conflict Era
代表者名(Representative)
高  誠晩 / Sungman Koh
代表者所属(Organization)
京都大学大学院文学研究科
Graduate School of Letters, Kyoto University
助成金額(Grant Amount)
1,500,000
リンク(Link)
活動地域(Area)