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助成対象詳細

Details

2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research) ]

旧産炭地の課題にアプローチする子育てネットワーク形成の研究 ―「筑豊子育てネットワーク」15年間の活動記録を中心に
Establishing Childcare Networks Approaching Issues in Closed Mine Area: Focusing on the 15 years' Activity of "Chikuhou Kosodate Network"

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

子育て支援施策の状況をみると国庫補助金事業以外においては、財政力や子どもの数、また首長や担当者の意識など、自治体裁量に委ねられ、格差が生じている地域実態がある(2011佐賀県教育委員会調査)。それらの状況において、虐待や貧困、在日外国人の問題など深刻な地域課題を抱える旧産炭地においては、さらに困難な状況に陥り、ますます子どもや子育ての環境の悪循環が生じている。そんな地域課題を持つ筑豊地域において、子育て中の親自らが主体となり、15年に渡って子どもや子育てしやすい環境づくりに取り組んでいる「筑豊子育てネットワーク」という活動がある。その活動は、行政に要望するだけでなく「なければ創ろう!」という考え方で市民主体の活動を展開し、長きにわたって地域の子育て環境づくりの役割を担ってきた。そこで、その会が15年間に渡って綴り続けてきた通信や「子育てカレンダー」記録、またこれまで関わってきたメンバーのインタビュー調査を行い、この子育てネットワークの15年のあゆみから、地域の中でどのように関係をつくり、地域課題へのアプローチする子育てネットワークを形成したのかをあきらかにしていきたい。
 Besides projects supported by state subsidy, there has been a regional gap regarding the implementation of childcare policy according to the local governments' discretion determined by factors such as their fiscal strength, child population and the consciousness of their head or persons in charge of the issue (2011 research by Saga Prefectural Board of Education). Under such circumstances, aggravation of child care environment has become a serious problem for closed mine areas that already face much difficulties concerning child abuse, poverty and foreign residents. However, in the Chikuhou area, Fukuoka Prefecture, a challenge by "Chikuhou Kosodate Network" led by parents raising their children has been continuing for 15 years. Not only just by raising their demands to the local government, but with a positive attitude to support itself, it has demonstrated the role of the civil society to create a better childcare environment in the region. The research will be made on the written materials of the movement, such as its newsletters and "Childcare Calendars", as well as from the interviews of its members. It will focus on how people's relationships were formed and spread, and how the problems within the region were approached.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

国をあげての子育て支援が拡充されてはいるが、国からの国庫補助事業以外は、自治体における子どもや子育て支援施策の状況は、財政力や子どもの数、また首長や担当者の意識によって自治体裁量によって実施され、地方、または地域格差が生じている現状がある(2011佐賀県教育委員会調査)。その地域格差から、虐待や貧困、在日外国人の問題など深刻な地域課題を抱える旧産炭地などは、より一層の支援が必要にも関わらず、そこに公的支援が着手できていない悪循環が起こっている。
 そんな中、1990年半ばから、子育て当事者自らがネットワークを図りながら、子育て環境をよくしようとした「子育てネットワーク」活動が全国に相次いで誕生した。子育ての個人的な欲求を満たす活動を「子育てサークル」とするならば、子育ての社会的欲求を満たすための「子育てネットワーク」活動であり、特に子育て支援が充実していない自治体エリアで活発に行われている傾向がある。筑豊地域においては、子育て中の親自らが主体となって1997年に発足した「筑豊子育てネットワーク」という活動があり、行政の支援を待つのではなく、市民自らが「なければ創ろう!」という発想で、当事者自らによる公共的な子育て支援のしくみをつくっている。
 そこで、本研究では(1)旧産炭地筑豊地域が抱える子ども・子育ての課題とは何なのか、そして、(2)地域課題が根深いこの地域において、市民主体の旧産炭地の課題にアプローチしている「筑豊地域における子育てネットワーク形成」をとらえていくことを試みた。これらをあきらかにする意味は、国内旧産炭地の地域課題はもちろん、地域格差や地方格差、壊滅的な被害が相次ぐ自然災害問題など、現代社会において、限られた財源の中でも自治体再建を行うとともに、市民一人一人が力量を発揮し、ネットワークを形成することによって課題解決に向かうことができるのではないかと考えたからである。
 研究方法は、まず、先行研究と旧産炭地筑豊地域の子ども・子育て課題についての地域基盤研究を行った。そして、15年間に渡る「筑豊子育てネットワーク」事例の記録を足がかりに、特に旧産炭地の課題にアプローチしている2つ実践事例を抽出し、筑豊地域における旧産炭地の課題にアプローチする活動内容、そしてそこに至る子育てネットワーク形成をとらえていった。
 この研究で得られた知見は、旧産炭地筑豊地域(研究課題(1))は、負の三重構造が依然として存在し、子ども・子育て課題が根深く改善されにくい状況を続いていることである。三重構造とは、一つに炭坑全盛期、全国の半分の採炭量を誇る筑豊炭田は、大手資本が石炭産業の大半を支えていたため地域に工業が発展できなかった構造、二つに住民の暮らしを「納屋や炭住」によって炭坑企業が支えてきた、管理してきたことにより、ある意味、本来行政がやるべき役割までをも担ってきた構造、そして三つにその炭坑や炭坑企業によってつくられた暮らしの中で、人々は運命共同体としてのより強い人間関係やコミュニティを形成してきた構造である。この三つの構造は、いずれも炭坑で栄えるには最も効率的な「炭坑地域社会」の構造であったが、閉山後は「炭坑地域社会」の崩壊とともに、そこに残された人々は、産業のなさによる就労問題や貧困問題、企業依存から脱却できない行政体質、人口半減によるコミュニティの崩壊という、負の三重構造に転換されてしまったのである。
 それらを踏まえ現代の子ども・子育ての課題を考えると、(1)炭坑地域社会では、学童期くらいになると子どもも労働者としても位置づけられてきた歴史から、子どもの人権や教育を保障する権利が十分浸透していないこと、(2)大人(親)は暮らしを支えてもらう、すなわち保護やサービスを受けることが当たり前だと感じてしまい、自ら主体的に行動を起こす思考や意欲が回復していないこと、(3)炭坑会社に依存してきた体質を脱却できない自治体行政は、現代的課題である子ども・子育て問題に対して時代や課題のニーズに対応していくという発想が弱いこと、という旧産炭地筑豊ならではの課題が存在することがわかった。
 それらの旧産炭地の課題にアプローチしていた子育てネットワーク形成(研究課題(2))では、(1)子どもの人権や教育保障を認識できる活動や居場所を一つ一つ地域に広げていっていること、(2)親の地域不参加→客体的参加→主体的参加→主体的参画を支える段階的活動を丁寧に行い、依存から自立する市民を育てていたこと、(3)行政職員が子ども・子育て問題に対応するという発想から、活動を通して自立した市民が、子ども・子育て問題を解決する公共を担い始めていること、をとらえていった。以上のことから、旧産炭地筑豊の課題は、子育てネットワーク形成が広がり、深まることによって、アプローチが充実していることをとらえることができた。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-0586
題目(Project Title)
旧産炭地の課題にアプローチする子育てネットワーク形成の研究 ―「筑豊子育てネットワーク」15年間の活動記録を中心に
Establishing Childcare Networks Approaching Issues in Closed Mine Area: Focusing on the 15 years' Activity of "Chikuhou Kosodate Network"
代表者名(Representative)
相戸 晴子 / Haruko Aito
代表者所属(Organization)
(特活)子育て市民活動サポートWill
WILL: Support for Civil Society Groups in Childcare Activities
助成金額(Grant Amount)
790,000
リンク(Link)
活動地域(Area)