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助成対象詳細

Details

2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research) ]

社会的弱者の服薬アドヒアランスを向上させる要因に関する研究
A Study on Factors Promoting Adherence to Medications in Vulnerable Groups

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

多くの感染症に対して有効な薬剤が開発されているにも関わらず、感染症の蔓延を防ぐことができない理由のひとつに、治療薬が適切に服用されないという問題がある。良好な服薬アドヒアランス(治療薬の適切な服用)は、患者の健康を維持するだけではなく、新たな感染の発生を予防する。
 本研究の目的は、アフリカと日本の地域社会において、高齢者の適切な服薬を支える要因に関する調査を行うことで、貧困者や高齢者を含む社会的弱者をターゲットとした効果的な感染症対策の実施に寄与することである。アフリカ諸国では一般に、質の高い治療へのアクセスが困難であるにもかかわらず、患者の健康に高い関心を持つ家族や地域住民からの日常的な働きかけによって、高い服薬アドヒアランスが達成されている場合がある。これに対して日本では、単身で生活する低所得の高齢者において、服薬アドヒアランスの維持が困難であるために、結核対策の効果が得られにくいという問題が指摘されている。本研究では、ザンビア東部州の村と大阪市西成区において、それぞれフィールド調査を行い、患者の社会関係が服薬アドヒアランスに与える影響について分析する。また研究者やNPO団体等との対話を通じて、感染症対策としての服薬アドヒアランスの向上につながる具体的な取り組みを検討する。
  Adherence has been defined as the active, voluntary, and collaborative involvement of the patient to establish treatment goals and the medical regimen. In case of infectious disease treatment, medication adherence success is not only for helping patient's health, but also one of the essential points of the prevention of new infections in the population.
 The purpose of this study is intended as an investigation of factors for promoting adequate drug taking behavior of elderly persons in some local communities in Africa and in Japan. The goal of this study is to contribute to the practice of effective infectious disease control targeting the vulnerable groups including the poor and the elderly.
 High levels of drug adherence have been reported in studies conducted in sub-Saharan Africa, despite the fact that quality of health service in the region is often limited. This can be explained in terms of daily encouragements by the patient's family and the community members who are considerably concerned about the patient's health. In contrast, health experts in Japan often face difficulty in maintaining the adherence of tuberculosis control in the single and poor elderly population.
 In this study, I would like to analyze adherence of elderly people by examining patient's social relations by using the medical-anthropological methods. The fieldwork will be accomplished in a village of the Eastern province of Zambia, and in Nishinari area of Osaka city, Japan. At the end of this study, I intend to hold a dissemination seminar and discussions with NGOs and medical staff working on issues related to infection control and health of the aging.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

背景と課題:多くの感染症に対して有効な薬剤が開発されているにも関わらず、感染症の蔓延を防ぐことができない理由のひとつに、治療薬が適切に服用されないという問題がある。良好な服薬アドヒアランス(治療薬の適切な服用)は、患者の健康を維持するだけではなく、新たな感染の発生を予防する。このような背景のもとで、感染症患者の服薬アドヒアランスの重要性が議論されてきた。服薬アドヒアランスとは、患者が治療の意義を理解し積極的に服薬を行うことを指す。日本ではとりわけ、単身で生活する低所得の高齢者において、服薬アドヒアランスの維持が困難であるために、結核対策の効果が得られにくい。アフリカ諸国では一般に、質の高い医療へのアクセスは困難である。しかし近年の研究では、アフリカのHIV陽性者における服薬アドヒアランスが概して良好であると報告された。また報告者はこれまでのザンビアにおけるフィールド調査によって、障害や疾患を抱える高齢者が、自身の持つ社会関係の豊かさによって健康や生計を維持していることを明らかにしてきた。つまり患者の健康に関心を持つ家族や地域住民の日常的な働きかけによって、高い服薬アドヒアランスが維持されると考えられる。そこで、本研究では、日本とアフリカの状況を分析することで、感染症対策としての服薬アドヒアランスを高める要因について考察することを試みた。特に(1) アフリカにおいて、患者の持つ社会関係がどのように服薬アドヒアランスの高さに貢献しているか理解するとともに、(2) 日本社会で生活する所得の低い高齢者の服薬状況について、その社会関係に注目して分析した。
 研究方法:医療人類学的なフィールドワークの手法を用いて、次の調査を行った。(1) ザンビア共和国東部州の村において、高齢者の服薬行動を観察した。申請者のこれまでの調査で、この村では単身で暮らす高齢者が多いが、近隣住民との社会関係をもとに、健康と生計を維持していることが明らかになっている。本研究では、高齢者の健康に関心を持つ周囲の住民からの働きかけに注目して、服薬アドヒアランスの達成度にかかわる要因を検討した。また、近年はじまったアドヒアランス・サポーター制度について、聞き取り調査と参与観察をおこなった。(2) 大阪市西成区の釜ヶ崎と呼ばれる地域において、単身で生活する高齢者の服薬に関する調査を実施した。同区には、かつて日雇い労働に従事していた高齢男性が多く生活している。その多くは家族や親族とのつながりを持たず、近隣住民との交流もほとんどない。そこで、結核治療の支援現場、訪問看護をおこなう医療NPO、および高齢者の生活支援を行う共同住宅施設の協力のもと、高齢者の服薬状況や問題点について調査することを試みた。(3) NPO関係者、研究者らと調査結果をふまえた研究会を開催し、服薬アドヒアランスを高める具体的な取り組みについて協議した。
得られた知見など:大阪西成区の調査では、多様な社会・医療資源が存在するも、連携や情報提供の基盤は整っておらず、その制度上の複雑さが問題を隠し改善をより困難にすることがあり、アドヒアランスの低下を引き起こす原因となっていた。また、多剤が投与されている患者も多くみられるが、そのことにより薬識の低下や医療不信が生じ、服薬に対する意識低下をひきおこしていた。他方、訪問看護師といった草の根で働く医療者が、利用者に対峙し、多様な社会資源のなかから適切なものを取捨選択し、新しい社会関係を構築できる環境を整える動きもみられた。この地域の住民の多くが単身の高齢男性であり野宿経験者も少なからずいる。医療者が、そのような周囲との関係性を築くことに困難さを抱きがちな住民の社会関係の一つとなり、さらなる扉を開き、服薬アドヒアランスを含めた健康維持に重要な役割として存在していた。
 ザンビア農村部においては、質の高い医療にアクセスする基盤は整っていないが、障害や疾患をもつ高齢者が近隣に暮らす住民との間に築いてきた社会関係が、健康維持に寄与していた。また、簡便な服薬が行われていることが、薬剤の重要性を認識させることにもつながった。近年、調査地では治療へのアクセス困難といった医療問題を軽減させ、住民の健康を維持するために、村人たちで構成される「アドヒアランス・サポーター」制度が始められた。未だその役割は未知数であり、改善点も浮かび上がった。他方、近隣病院との連携も強く、また村民のことをよく知る者がメンバーであるため、人びとの信頼も厚い。ザンビアの限られた資源のなかから有効に村人の健康維持に働く新しい資源を創造している様子が見られた。ザンビアでは、家族や近隣住民による親密な社会関係が、服薬アドヒアランス維持に役立っている。一方、釜ヶ崎に暮らす社会関係の構築を苦手とする人たちにとっても、医療者の真摯な働きかけにより創出される、社会資本を介した新規な社会関係が服薬アドヒアランス向上のための一要因となりうると考えられた。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-0632
題目(Project Title)
社会的弱者の服薬アドヒアランスを向上させる要因に関する研究
A Study on Factors Promoting Adherence to Medications in Vulnerable Groups
代表者名(Representative)
姜  明江 / Akie Kyo
代表者所属(Organization)
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
Graduate School of Asian and African Area Studies, Kyoto University
助成金額(Grant Amount)
1,500,000
リンク(Link)
活動地域(Area)