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助成対象詳細

Details

2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research) ]

コンタクト・ゾーンとしての道場 ―日系カナダ移民の柔道を通じた共生への道のり
The Judo Dojo as a 'Contact Zone': Processes and Struggles of Japanese Immigrants Seeking Re-settlement through the Judo Gym

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

本研究では、日系カナダ移民が模索する共生の具体像を描き出す。この際、プラットの「コンタクト・ゾーン」概念を導入する。コンタクト・ゾーンとは、異なる文化が相互に接触する社会空間である。終戦後、強制収容所からカナダ各地への離散を余儀なくされた彼らは、その後の定住過程で幾多の困難に直面した。特にアングロサクソン系住民との共生はひとつの課題であった。これに対し、日系移民が開設した柔道道場は他エスニックグループとのコンタクト・ゾーンとして定位してきたと考えられる。柔道道場はいまやカナダ国内に400以上あり、指導者や生徒は日系移民に限らず多様化している。では、この柔道の普及過程で、日系移民の人びとは他のエスニックグループといかなる共生関係を作り出したのか。歴史的経緯を異にするカナダ東部、西部それぞれの道場を事例に、コンタクト・ゾーンとしての道場のありようを明らかにしていく。グローバル化に先駆けて移民と定住を経験した日系カナダ移民の共生は、現代の「平和構築」や「多文化共生」に多くの示唆を与えるだろう。また、昨今の第三者の介入による共生論に対して、人びと自らが模索する共生への視角を提示したい。
 This study aims to illustrate the process of Japanese immigrants in Canada seeking to coexist with the Canadian ethnic majorities after World War II. The 'Contact Zone' is a notion introduced by Anthropologist M. Platt, which focuses on social settings where multiple groups from different backgrounds are coming into contact.
 After the end of World War II, Japanese immigrants were forced to re-settle after being interned in concentration camps, a process which posed many difficulties. Coexistence with the majorities, especially the Anglo-Saxons was crucial for them. Judo Dojo (gyms) in Canada, most of which were opened by Japanese immigrants at the time, seemed to play a part in bringing both the Japanese and Anglo-Saxon majority together in a social space.
 Today, there are more than 400 Judo gyms in Canada, most of which have a diverse group of instructors and pupils. By revealing the process of the gaining popularity of the Judo gym in both western and eastern Canada, this study will demonstrate how the struggle of the Japanese immigrants eventually led to building relationships with the majorities.
 The attempts and experiences of Japanese immigrants from the beginning of the 20th century will bring a new perspective for 'peace building' and 'multiculturalism' in this globalized era. The results of this study will also bring a new approach of 'grass-rooted practice for coexistence' rather than 'intervention based programs' to peace building research.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

本プロジェクトは、移民集団が創出する社会空間を通じた人びとの接触(コンタクト)に焦点を当て、他者との共生とはいかなる実践かを再構成することを試みた。グローバル化がいつそう進む今日、人びとの共生は大きな課題である。そのための具体的な施策が様々な方向から模索されているが、それらが目指す「共生」とはそもそもいかなるものか、その実像への問いは暖昧さを残している。例えば多文化共生や紛争解決のために企図されるスポーツ論が注目を集める一方で、それらが依拠するコンタクトそのものをどうとらえるのか、質的調査が進んでいるとは言いがたい。それゆえに、共在の具体的な方策を考えるためにも、その鍵とも言うべきコンタクトの在り様そのものを問い直すことは学術的な課題である。この課題に向けて,本プロジェクトは日系カナダ移民が開設した柔道道場を対象とし、検証を行った。カナダヘの移民は20世紀初頭から進んだが、 第二次大戦時の強制収容と財産没収、その後のカナダ各地への離散など、差別や排斥の経験を伴つた。その一方で、日系移民がカナダにもたらした柔道道場は結果的に他集団とのコンタクトの場となり、独自の文化的な活動から他集団を巻き込むスポーツとしてカナダ全土に広がったという背景がある。これらをふまえ、柔道道場を介した人びとのコンタクトの内実を紐解くことで、共在につながる人びとの関係性構築の有り様を模索することを目指した。
研究のアプローチは個々のデータの検証から論点となるコンセプトを導きだすグランデッドセオリーに依つている。まずは日系カナダ移民と柔道の歴史を俯欧するために資料の収集と検討を行った。これと同時にいくつかの柔道道場でのフィールドワークを通じて対象を選び、道場での参与的観察、道場関係者および日系コミュニティでの間き取り、歴史資料の収集等を行った。これらを通じ、研究の対象をモントリオールのセイドウカン道場とした。開設から60年以上の歴史があり、特にその初期はケベックの柔道を牽引する道場であった。当初から日系移民に限らず多くの人びとを巻き込み、現在は道場を開設したオキムラ氏に教わった人びとが指導している。現在の参加者は昨今の移民の子どもが大半であり、日系人はいない。聞き取り調査などから、日系移民とその他の人びとの道場での垣根は当初から低かった反面、日系移民の定住への過程は全般的に他者としての差異化にさらされ続けたこと、日系移民の道場への参加者は減少の一途をたどつており、他集団との婚姻等から「日系」というカテゴリーそのものが揺らいでいること、特に初期のメンバー同士のつながりはなお密に保たれていること、等が明らかになった。
これらデータから、「Legacy」と「Legitimacy」とがキーコンセプトとして取り上げられた。彼らの実践においては、柔道道場の存続が一つの焦点となっている。存続のための努力は、彼らが「おそらくカナダでも一番古くから存続する道場というレガシーを継承している」という共通理解に依つている。道場での実践は競技力の向上よりも、彼ら指導者らが受けた柔道指導の体系を受け継ぎ、次世代へと引き渡すことと、道場の名前を存続させることに注がれている。ここから、以下大きく二つの理論的な視角が浮上した。
第一に、道場におけるコンタクトの結果、その経験はレガシーとして受け継がれ、次世代へと継承されるべく努力されている点である。これは、贈与のようにそれぞれ異なる想定される文化的な集団間のやり取りではなく、同じ集団の成員同士が世代をまたいで次世代へと振り向けられるという通時的な交換の仕組みを示唆しており、日系移民の歴史的な背景がそのレガシーとしての根拠に設定されている。第二に、このレガシーを正当化するロジックは、そのレガシー自体が他者集団を含めて既に認められている「資本」というよりも、むしろ彼ら自身による正当化それ自体によってレガシーとなっている、と考えられる。これは、ブルデューの資本と界の理論を批判的に検証するボルタンスキーのレジティマシーの理論に通じている。
これらから、集団同士のコンタクトと共在を検証するにあたり、<レガシーの共有と継続>が新たな切り口として見いだされた。ここでは、通時的な視角が重要となる。コンタクトによって編み出されるレガシーと、その継承を通じた人ぴとの実践を異文化間のやり取りとしてだけでなく、世代をまたいだ交換として見ることで、共在のダイナミズムがよりクリアになると考えられる。今後の課題として、特にレガシーの継承という実践がいかになされるのか、よりミクロなアプローチから検証することが残された。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-0644
題目(Project Title)
コンタクト・ゾーンとしての道場 ―日系カナダ移民の柔道を通じた共生への道のり
The Judo Dojo as a 'Contact Zone': Processes and Struggles of Japanese Immigrants Seeking Re-settlement through the Judo Gym
代表者名(Representative)
鷲谷 洋輔 / Yosuke Washiya
代表者所属(Organization)
トロント大学大学院エクササイズサイエンス研究科
Graduate School of Excercise Sciences, University of Toronto
助成金額(Grant Amount)
1,200,000
リンク(Link)
活動地域(Area)