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助成対象詳細

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2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーA: 共同研究2  Category A: Joint Research (2) ]

海外へ再移住する「脱北者」たちの理想と現実 ―トランスナショナル・ネットワークの活用とボーダー・コントロールの視点から
The Ideal and the Reality of Overseas North Korean Defectors: From the Perspective of Transnational Networks and Border Controls

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

今まで「脱北者」の多くは、韓国を定着地として選ぶ人がほとんどであった。しかし、最近は、そのような「脱北者」たちが再び韓国を離れ(「脱南」し)、欧米やオーストラリア、日本などへの再移住を試みたり、最初から韓国行きを希望せずに欧米などへの移住を求めるパターンが増加している。時には難民として、また時には移民や留学、不法滞在まで多様な形態を帯びる。移住と定着の際に活用されるのが世界各地に分散しつつある「脱北者ネットワーク」と、すでに全世界に広がる韓国系移住者の「コリアン・ネットワーク」である。
 なぜ、彼らは韓国ではなく第三国へ移住するのだろうか。そして、その際、彼らはどのようなトランスナショナル・ネットワークのメカニズムを活用しつつ、情報を収集し、定住地を選び、新天地で生活を展開するのだろうか。多くは北米や欧州への再移住を希望するが、アジア地域であるオーストラリアや日本へ移住するパターンも増えている。そのため、オーストラリアと日本に暮らす「脱北者」たちを事例としつつ、アジア地域の人の移動と国境管理の新たな展開に関する分析・提言と、人びとの度重なる移住の模様を記録する。
 Until recently, South Korea has been the final destinations for most North Korean defectors. However, the situation is changing in that an increasing number of North Korean defectors who have settled in the South are now leaving the country and heading for North America, Europe and Asia-Pacific including Australia and Japan, or seeking to directly go to overseas countries without initially arriving/settling in South Korea at all. Sometimes as asylum seekers/refugees, mostly as overseas students, migrants whether legal or not, the forms and patterns which their migration take are varied and diverse. When migrating and settling from one place to another, they often make use of "Korean networks" already formed by overseas Koreans, and especially "North Korean defector networks" around the world.
 Why do they migrate to overseas countries without arriving/staying in South Korea? Moreover, how do they utilize the mechanism of transnational networks as their social capital, collecting information, selecting their destinations, and building their new lives? Many of them select North America and European countries seeking to fulfil their dreams and better lives, but as well as those regions, Asia-Pacific countries such as Australia and Japan are rising as some of the top choices for re-migration if possible. This research project, accordingly, will explore the patterns of re-migration of North Korean defectors across Asia, analyze and advocate at a policy level especially in relation to border control issues, and take life records/histories of defectors' complex life patterns.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

(1)研究課題

 ◆北朝鮮を離脱した住民(「脱北者」)たちが定住地である韓国を離れ第3国へ移住する際に活用するトランスナショナルなネットワークのメカニズム(家族の離散と集合、解体、同胞間の助け合いと軋轢の複雑な関係)を分析する。→ トランスナショナル・ネットワークのメカニズムには様々な空間、さまざまなアクターが介在する。北朝鮮、中国、東南アジア、韓国、そして再移住先の北米、日本、オーストラリアなどが関係する。また、家族、知人、脱北を手助けする専門業者(エージェントまたは「ブローカー」)、NGO、宗教者、地域コミュニティ、そして各国に不本意に離散・分散している当事者と家族の複雑な関係性が明らかにされる必要がある。

 ◆「脱北者」たちのトランスナショナルな移住のプロセスを通じて、アジア地域の人の移動をめぐるボーダー・コントロール(出入国管理や在留資格制度)の違いについて日豪(+韓)で比較する。→ たとえば豪州の場合、韓国を経由しなければ難民として認定されやすい。韓国を経由したことを報告せずに虚偽の陳述を難民申請時に行なうと強制退去の対象となる。そして強制退去に応ぜずに不法滞在者として残る場合もある。日本の場合、正式には「帰国者」とその家族に滞在が認められる一方、韓国や中国経由の人びとについてはまったく把握されていない。

 ◆「脱北者」をとりまくトランスナショナルなネットワークに登場するさまざまなアクターの声や暮らしの模様をオーラル・ヒストリーや民族誌としての記録を「現場」の視点から作成する。

→スマート・フォーンやインターネットなどを通じて彼らは世界各地の「脱北者」情報に詳しい。そして、よりよいチャンスが与えられるのであれば再び移住を模索する。

 (2)実施内容

 ◆日本と豪州に暮らす「脱北者」のトランスナショナルなネットワークの調査:北朝鮮→中国→東南アジア→(韓国→)日本・豪州などの親族や知人との繋がり、移動と定住方法、経路分析を、韓・日・豪を軸に参与観察、フィールドワークなどの質的研究を実施し、計量分析の限界を補う。

 ◆日本と豪州(+韓国)の難民政策、移住政策の比較分析を試みつつ、アジア地域内における人の移動のメカニズムを政治・経済以外の社会的、文化的な側面から分析する。その際に「脱北者ネットワーク」や同胞としての韓国系移住者の「コリアン・ネットワーク」(韓人会、教会、エスニック・ビジネス、移民代行業者、法律事務所など)の「諸刃の剣」に着目する。

 ◆当事者の「語り」「声」「暮らしの模様」を一次資料として記録すると同時に、当事者側と受け入れ側の双方にとって望ましい社会の在り方を記録・提言する。

 (3)研究動向

 「脱北者」(北朝鮮離脱住民)をとりまく研究は、韓国における「統一研究」の分野で活発に行なわれてきている。南北の統一を韓国が準備する過程において、既に韓国に入国している「脱北者」の数が24,041人(2012年4月現在)という数字に達している。したがって、韓国では過去10年ほどの間、「脱北者」に関する政府系シンクタンクなどの助成に基づく政策研究が数多く刊行されるのみならず、毎年このテーマで修士論文ならびに博士論文が数十本も生まれている。その上で、先行研究は以下のような傾向と限界がある。

 一つには、南北コリアの統一を前提としている政策研究が多いため、国益や韓国の視点に基づく「統一論」の研究が多い。その結果、ナショナリズムや国家中心主義に基づく傾向が多く、(国際)政治学や安全保障問題が主流である。さらにその成果のほとんども韓国語のみで公開されている。

 もう一つには、「脱北者」のほとんどが今までは韓国に定住することを当然視してきたために、海外へ再移住する「脱北者」に関する先行研究は皆無に等しく、韓国内での適応や南北コリアの社会統合に関する研究がほとんどであった。けれども、南北コリアの分断が60年以上にたち両者の経済的、政治的、社会・文化的な格差は大きい。また、24,000人以上の「脱北者」が過去10年余りの間、急激に韓国社会に増えたため、韓国人による差別や「脱北者」の社会的不適応により、難民として、または韓国経由で海外への再移住を試みるパターンが増加しているがその研究をトランスナショナル・ネットワークやボーダー・コントロールの視点から扱う研究がない。特に、韓国に一度定住した元「脱北者」は韓国籍者になるため難民ではなくなるが、その過程で、その事実を隠したまま「難民申請」などを試みたりするために関係諸国間での滞在資格や出入国問題をはじめとする国境管理の問題や外交問題にもなっている。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーA: 共同研究2  Category A: Joint Research (2)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-0657
題目(Project Title)
海外へ再移住する「脱北者」たちの理想と現実 ―トランスナショナル・ネットワークの活用とボーダー・コントロールの視点から
The Ideal and the Reality of Overseas North Korean Defectors: From the Perspective of Transnational Networks and Border Controls
代表者名(Representative)
金  敬黙 / Kyungmook Kim
代表者所属(Organization)
中京大学国際教養学部
School of International Liberal Studies, Chukyo University
助成金額(Grant Amount)
5,300,000
リンク(Link)
活動地域(Area)