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助成対象詳細

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2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーA: 共同研究1  Category A: Joint Research (1) ]

革命後イランにおける映画と社会の学際的研究 ―権威主義体制下の娯楽と抵抗の文化
Interdisciplinary Research on Post-Revolutionary Iranian Cinema and Society: Culture of Entertainment and Resistance under the Authoritarian Regime

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

1979年の革命後、イラン政府が欧米諸国と敵対する一方で、イラン映画はキアロスタミやマフマルバーフなど巨匠を多数輩出し、世界的に高い評価を得てきた。日本にも多くのイラン映画ファンが存在し、両国の映画交流も拡大しつつある。しかし、一般のイラン映画への高い関心にも係わらず、映画政策や映画を取り巻く社会状況を紹介する本格的な学術研究は、日本では皆無に等しい。本研究は「革命後イランにおける映画と社会」を、経済学、歴史学、社会学、ジェンダー論といった多角的な視点から、日本とイランの研究者による学際的な共同研究の実施を目的とする。革命後、イランは世俗的な王制から、一転して政治・社会・文化のすべてがイスラーム的価値観によって規定されるイスラーム共和制に移行し、映画産業も大きな変革を余儀なくされた。革命から30年を経て、グローバル化の中で急速に変化しつつあるイラン社会を映画というレンズを通して分析する。
 The Iranian Islamist government has maintained an antagonistic relationship with American and European states since the revolution in 1979. Inspite of this, post-revolutionary Iran has been internationaly reknown for its films, turning out a galaxy of distinguished film directors, including Abbas Kiarostami and Mohsen Mahmalbaf. There are many Iranian Cinema fans among the Japanese. In addition, jointly produced or collaborated movies between Iran and Japan are increasing. However, the academic study to introduce the film policy and social change surounding Iranian films has not yet appeared in Japan despite growing interests among the Japanese audiences. This research project aims to conduct an interdisciplinary Iran-Japan collaborative study to understand 'Post-revolutionary Iranian Cinema and Society' from various aspects, such as history, sociology, economics, gender studies, literatures, and comparative cultural studies. Post-revolutionary Iran has experienced dramatic change from a secular monarchy to the Islamic Republic, where Islamic values have regulated an entire system of politics, society and culture. This study will analyze rapidly changing Iranian society in the globalization in three decades after the revolution through Iranian Cinema.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

1979年の革命後、イラン政府が欧米諸国と敵対する一方で、イラン映画はアッバース・キアーロスタミーやモフセン・マフマルバーフなど巨匠を多数輩出し、世界的に高い評価を得てきた。日本にも多くのイラン映画ファンが存在し、両国の映画交流も拡大しつつある。しかし、一般のイラン映画への高い関心にも係わらず、映画政策や映画を取り巻く社会状況を紹介する本格的な学術研究は日本では皆無に等しい。本研究は「革命後イランにおける映画と社会」を、経済学、歴史学、社会学、ジェンダー論といった多角的な視点から、日本とイランの研究者による学際的な共同研究の実施を目的とした。革命後、イランは世俗的な王制から一転して政治・社会・文化の全てがイスラーム的価値観によって規定されるイスラーム共和制に移行し、欧米の文化は「腐敗堕落の象徴」とされ、欧米の音楽、映画、衛星放送は厳禁となった。イスラーム宗教指導者の中には映画を敵視する意見もあったが、1980年代にイラン・イラク戦争が深刻化する中、政府は新たな国民統合、そしてハリウッドに対抗するイスラーム文化発信の手段として、映画を国家的事業と位置付けて支援するようになった。政府の厳しい検閲制度と国際的な評価の中でイラン映画は独自の表現手法を発達させ、1997年以降の自由化政策の下、芸術作品から大衆娯楽映画、さらには政治風刺コメディや社会派映画まで多様な作品が登場した。本研究において、革命から30年を経てグローバル化の中で急速に変化しつつあるイラン社会を映画というレンズを通して分析した。
 本プロジェクトでは、「映画史」「映画政策」「映画産業」「映画と女性」「映像でみたイラン農村社会」「イランと日本の映画交流」というイラン映画と社会を理解するための重要なテーマを、プロジェクト参加者が各々の専門分野から議論し、研究を遂行した。イランで関係者へのインタビュー調査と文献・映像資料の収集を実施し、プロジェクトの成果として、研究報告書『革命後イランにおける映画と社会』(早稲田大学イスラーム地域研究機構、2014年)を出版した。同時に、イランで実施したインタビューや調査風景を撮影した映像を編集し、ドキュメンタリー映画を2本 『声なき声―イランにおける映画監督としての女性 Silent Voices : Women As Cinema Directors In Iran』(モナ・ザンディー監督、日英字幕、45分、2014年)と『聖木と井戸:イランの地方小都市調査から』(鈴木均監督、日本語字幕、70分、2014年)を制作した。2014年7月には、イランから研究協力者3名を招聘し、早稲田大学でシンポジウムを実施し、東京大学で映画上映会、鹿児島大学で脚本ワークショップと映画上映会を実施した。この企画に合わせて、できるだけ多くの聴衆に成果を還元することを目的に、『聖木と井戸』及び『金曜日の午後にAsr-e Jomueh』(モナ・ザンディー監督、70分、2006年)の日本語字幕作成、『声なき声』の日本語及び英語の映画字幕の作成を実施した。また、プロジェクトを実施する中で、報告書の執筆や編集作業、シンポジウムの運営や通訳や撮影、映画の字幕作成等の作業に、それぞれの分野に関心を持つ学生に依頼し、協力を得ることで、若手研究者の育成、機会の提供を試みた。今回のプロジェクトを機に、イランや中東で埋もれている素晴らしい映画作品を発見し、映画監督等関係者の了解を得ながら、日本語字幕を作成して日本で上映する方法を見出すことができた。それは、大手の映画会社では配給されることのない映像作品に吐露されている現地社会の現実や人々の思いを日本に届ける貴重な手段となる可能性がある。
 本プロジェクトを通して、イランと日本を越えた研究者と映像作家が、専門分野を越えて対話し、共同作業を実践する中で、新たな人々と出会い、多くの方々の温かい協力を得て、作品を完成することができた。イランが厳格な経済封鎖の下に置かれているために、プロジェクト遂行中にいくつもの壁に直面したり、計画変更を余儀なくされたりすることもあったが、そうした壁を乗り越えるための試行錯誤こそが、新たな人々との出会いや様々な工夫を実践する機会を提供してくれたともいえる。
 イランと日本は、グローバル化時代の中で、貧富の格差、地方と都市の格差、世代間の対立、女性の地位など、共通の課題を抱えていることが判明した。また、イランでは、イスラームの枠組みで女性を含めた弱者を保護し、活躍の機会を提供してきた側面が浮かび上がった。それは、経済効率を優先するグローバル化した市場主義社会とは異なるルールが働いている。それでもなお、グローバル化の影響は、1979年革命後、海外の情報や文化の流入阻止を試みてきたイラン・イスラーム共和国においても免れない浸透力を示している。しかし、イランの人々は、自らの歩んできた過去や伝統を大切にし、伝統と近代の中で葛藤し、社会や国家の進む方向を一つ一つ選びながら歩んでいる姿は、根源的なアイデンティティや思想的な問題を置き去りにして、近代化し、前進しようとしてきた日本社会へ強い警鐘・教訓を示しているといえる。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーA: 共同研究1  Category A: Joint Research (1)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-0736
題目(Project Title)
革命後イランにおける映画と社会の学際的研究 ―権威主義体制下の娯楽と抵抗の文化
Interdisciplinary Research on Post-Revolutionary Iranian Cinema and Society: Culture of Entertainment and Resistance under the Authoritarian Regime
代表者名(Representative)
貫井 万里 / Mari Nukii
代表者所属(Organization)
早稲田大学イスラーム地域研究機構
Organization of Islamic Area Studies, Waseda University
助成金額(Grant Amount)
5,700,000
リンク(Link)
活動地域(Area)