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助成対象詳細

Details

2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research) ]

中国黄海島嶼の社会と歴史 ―島嶼への人類学的試み
Society and History of the Chinese Yellow Sea Islands: An Anthropological Approach to the Islands

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

 中国辺境地域の島々は、一貫して軍事基地として利用されており、対外的には閉鎖または半閉鎖の政策が取られてきた。90年代改革開放以降、陸地農村の経済成長が一気に加速した状況の中で、島嶼地域は依然として国防上の理由で外資の進出には国務院の批准が必要なために、島嶼地域はその傍観者でしかなかったのである。たとえば、本研究が扱う中国遼寧省にある中国最北端の長山諸島では、90年代後半から漁業を主要産業とする「海洋牧場」と称する産業促進政策が進められ、それに続くかたちで2000年以降やっと島嶼の観光開発と対外開放が推進された。しかし現在そうした島の開発の進展は、現地社会の完全な合意の上で展開されているという訳ではない。
 本研究の目的は、中国黄海に浮かぶ長山諸島の事例から、文化人類学の手法をもって、「周縁」とされてきた島嶼に生きる人々が、内部の日常の生活世界でどのような関係性をもち、「島嶼」と呼ばれる特徴の社会を形成し、また外部環境である国や陸地本土との関係のなかで、歴史を構築してきたのかを明らかにしようとするものである。本研究は長山諸島をフィールドの中心としながら、他の辺境地域の島々も視野に入れて研究を行う。

 The islands in the frontier areas of China are all used as military compounds, and have been closed off or partially closed off to the outside through government measures. Since the reform and opening-up of the 90s, since State Council ratification is required for infusion of foreign capital into the island regions due to reasons of national defense, these islands have been nothing but passive observers while economic growth in rural lands has instantly accelerated. For example, in the Changshan Islands in the northernmost part of China in Liaoning Province, which is covered in this research, from the latter part of the 90s, industry-boosting government measures known as "marine ranches," with fishing as its main industry, have been advancing, and as a continuation of that, from the year 2000 the opening of the islands and island development for tourism has finally been implemented. However, currently it cannot be said that the progression of this island development has been advanced with the complete agreement of the local society.
 The purpose of this research is - using the example of the Changshan Islands in China's Yellow Sea - to use techniques of cultural anthropology to clarify what sort of relationships the people living on the islands known as the "peripheral border" have held in the world of their everyday lives, what sort of characteristic society they have formed in these so-called "islands," and what sort of history they have with the external environment of the country and military compounds surrounding them. Focusing on the Changshan Islands as our research field, we shall perform research looking at the islands of other frontier regions as well.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

中国では、2000年以降やっと島嶼の開発にかかわる政策文件『中国海洋21世紀議程』が政府で採択され、その一環として重視されてきた方策の一つが、科学技術をもって島興しを図ることであり、現在島嶼地域において、漁業と観光開発が試験的に行われている。しかし今日中国の島嶼漁村で大きな社会問題となっているのは、国が推し進める島の開発は、必ずしも島の持続的な経済発展には結びつかないということである。その背景には、今日政府が推し進めている生産組織、近代的漁法は漁業資源の乱獲をもたらし、漁業が急速に発展した一方で、同時に漁業の過剰漁獲で受けた資源枯渇の打撃を如何に調整しうるかという緊急の問題に直面していることがある。しかし現在まで長山諸島をはじめとする中国黄海島嶼地域に関する文化人類学や社会学的な研究は、中国研究者においても行われていない。中国社会における島嶼研究も、台湾、亀山島や海南島を除いて、島に関する研究は極めて少ない。現在中国の漁業活動と漁村に関する先行研究を概観すると、現在表面化している漁業資源の枯渇問題に対して持続可能な資源の利用や政府が実施している漁民の転業などの個別の問題への応急処置が述べられているだけであり、政府が提唱している「社会主義新農村建設」について呼応するのみで、島嶼に生きる人々の社会形成や歴史また生活実態、今日島の開発は島民にどのような問題を突き付けているのかについてまで論じられていない。

 そこで、本研究の目的は、中国黄海に浮かぶ長山諸島の事例から、文化人類学の手法をもって、「周縁」とされてきた島嶼に生きる人々が、内部の日常の生活世界でどのような関係性をもち、「島嶼」と呼ばれる特徴の社会を形成し、また現代中国の農村をめぐる住民自治組織である村民自治が、長山諸島においてどのように実施され、村落政治への参加に見られる社会関係の特徴を明らかにした。

 その結果、長山諸島の場合、政治参加において、陸地農村と明らかに異なるのは、海上に出ている男性に代わって村民代表会議に参加している女性と、島の様々な問題に対応している婦女主任と「婦代会」メンバーによって担われていることに特徴があり、村民委員会が島の社会関係を繋ぎとめる切り札でもある。「婦代会」の活動は疑似的な兄弟姉妹または地縁関係を発展させており、島民を相互に規制し合っている。これ故に、島の政治空間の一つの特徴として、海上にいる男性に代わり女性が村民会議代表として、「面子」という人格を保障にした信頼に基づく社会関係に配慮しながら、自身が感じる劣等感から村落政治に対する沈黙の合意をしていく政治システムがある一方で、婦女主任と「婦代会」メンバー等の女性たちによって、島民をめぐる諸問題が解決されるという二つの矛盾する方向性があった。ある意味、かような島の政治空間の特徴が、島の男たちの雑多な派閥争いや利害の均衡といった難事をうまく回避してきたのである。こうした中で村の政治運営において、村幹部であるリーダーは、郷鎮政府と自分と村民、三者間の利益を調整する立場に立たされており、調整することのできるリーダーになるためには、公的立場に立って、自身の経済的利益の最大化を目指ないことが主要な調整要素となっていた。

 また郷鎮政府が課している「招商外資」、「海域使用金」などは、郷鎮政府と村幹部との富の分配の政治的な道具でもあるが、結果として島民から利益を奪う試みにつながるものであり、特に外部企業を招き入れることは利害と打算に応じて関係を結ばなければならないことが明らかとなった。多くの中国研究者は、中国農村経済を発展させて貧困を解決するためには、政府が政策を上からの押しつけていくことが不可欠であると指摘しているが、村幹部が村民を束ねての協同協力をしていくことがほうが早道であることは言うまでもないが、その道中では常に上級幹部である郷鎮または県政府との関係性が重要になってくることは、長山諸島の事例で明らかである。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-0759
題目(Project Title)
中国黄海島嶼の社会と歴史 ―島嶼への人類学的試み
Society and History of the Chinese Yellow Sea Islands: An Anthropological Approach to the Islands
代表者名(Representative)
緒方 宏海 / Hiromi Ogata
代表者所属(Organization)
香川大学経済学部
助成金額(Grant Amount)
1,500,000
リンク(Link)
活動地域(Area)