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助成対象詳細

Details

2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research) ]

アメリカにおける原爆の意味と被爆者による語り部活動 ―暴力の意味/社会/被害者の人類学的研究
Memories of Atomic Bombing and Story-telling Activities by Atomic Bomb Survivors in the U.S.: An Anthropological Study on Violence, Society, and Victims

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

本研究の目的は、アメリカに居住する原子爆弾の被爆者(在米被爆者)を対象として、彼らによる体験を語る活動の形成とその実態を明らかにすることにある。アメリカでは、政府を中心として多くの人びとが、1945年8月に広島と長崎に投下された原子爆弾を肯定的に評価している。一方、アメリカにおいて展開される反核平和運動においては、「ヒロシマ・ナガサキ」は反核のシンボルの一つとして扱われている。広島と長崎で原爆に遭い、その後アメリカに移住した被爆者は、こうした政府や反核運動が示す価値や言説と交錯しながら生きてきた。本研究は、現地での資料収集や面接調査及び参与観察を通じて、(1) アメリカ政府や反核平和運動による原爆投下に関する言説の形成と展開、(2) 在米被爆者の社会運動史および個人の生活史、(3) 語り部活動の形成と個々の被爆者の関わりを明らかにしていく。これらを探ることを通じて、本研究は、在米被爆者が自らの体験を語ることの社会的・個人的なメカニズムについて検討する。
 This project aims to examine the formation and dynamics of story-telling activities by atomic bomb survivors living in the U.S. There are survivors who experienced atomic bomb in Hiroshima or Nagasaki in August 1945 and migrated to the U.S. after the World War 2. Today, some of these survivors are involved with story-telling activities where they try to share with others their experiences of the suffering from atomic bomb. However, social situations surrounding these survivors are quite ambivalent. On the one hand, just as the U.S. government does, many people keep justifying the atomic bombing of Hiroshima and Nagasaki. On the other hand, some people such as anti-nuclear activists deny the justification and consider the sufferings of Hiroshima and Nagasaki as their reason to protest against nuclear arsenals. Living out their lives under those difficult situations, A-bomb survivorsin the U.S. have interacted with such socially and politically constructed discourses on A-bombing. This project will explore the interactions between A-bomb survivors, especially ones engaged in story-telling activities, and the socially created discourses on A-bomb in the U.S. In order to achieve this purpose, I will conduct fieldworks including collecting documents, interviews, and participant observations, focusing on the followings:
(1) Discourses of the U.S. government and anti-nuclear disarmament movements on A-bomb dropping
(2) Life histories of atomic bomb survivors living in the U.S. and history of their collective actions
(3) History of story-telling activities by A-bomb survivors in the U.S.
(4) The relationships between A-bomb survivors and story-telling activities
 By investigating the above, this project will examine social and personal factors by which atomic bomb survivors living in the U.S. become involved in sharing their experiences with others.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

【プロジェクトの目的】
 本研究の目的は、アメリカに居住する原子爆弾の被爆者(在米被爆者)を対象として、彼らによる体験を語る活動の形成とその実態を明らかにすることにあった。
 目的の背景には、戦争や紛争といった暴力の被害者が体験を語ることへの関心があった。より良い社会を築くために、暴力の被害者の体験とその語りは社会の中でしばしば求められている。だが、暴力の被害者が自らの体験と向き合い、体験を語ることは並大抵の作業ではない。そのこともあり、これまで原子爆弾の被爆者が語るという営みに対しては、個人の動機といった被爆者個人や集団の心理的な要素のみが重視される傾向にあった。しかし、本プロジェクト代表者は、広島県広島市で調査を重ねる中で、被爆者が体験を語る活動(語り部活動)の形成と展開が被爆者個人の内的な要因だけではなく、彼らの置かれた時代的状況や周囲の社会関係と密接に関連し、それらに促されていると考えるようになった。そこで、本研究では、「原爆」に対して広島とは異なる文脈を持つアメリカという国に焦点を当て、被爆者がどのように語り始めるのか、その諸要因を探ることにした。そして、広島の事例と比較検討することで、暴力の被害者が自らの体験を語ることのメカニズムを明らかにすることを試みた。
【研究の方法】
 上記の目的を達成するため、本研究は以下の3つの課題に具体的に取り組むことにした。
(1)アメリカ政府や反核平和運動による原爆投下に関する言説の形成と展開を探る
 本研究の背景としてアメリカにおける原爆投下の出来事の位置づけを理解するために、アメリカ政府や反核平和運動による原爆投下に関する言説の形成と展開を探ることにした。具体的には、東海岸を中心とした資料収集、博物館の展示についての観察、関係者への聞きとりといった調査を実施した。
(2)在米原爆被爆者の社会運動史および個人の生活史を明らかにする
 アメリカでは広島や長崎で原爆を体験した被爆者たちが居住している。彼らの中には、戦後に留学や仕事のために渡米した者もいれば、アメリカで日系二世として生まれ、日本に滞在した時に原爆に遭い、戦後にアメリカへ戻ったものもいる。これらの在米原爆被爆者は、1970年代前半に西海岸を中心に被爆者団体を結成し、アメリカ政府や日本政府に対して運動を行ってきた。本研究では、在米原爆被爆者の実態を探るため、在米被爆者の社会運動史および個人の生活史について資料調査と聞き取り調査を実施した。対象地域には、被爆者が多く住み、被爆者団体が存在するサンフランシスコとその周辺地域を選んだ。一か所を重点的に調査することで、調査の効率化を図り、その密度を高めるためである。
(3)アメリカにおける語り部活動の形成と個々の被爆者の関わりを探る
 サンフランシスコ周辺地域に焦点を当て、語り部活動に関与した被爆者や活動を斡旋する団体への聞きとり調査を行った。
【プロジェクトの結果】
 本研究において中心的に調査を実施したサンフランシスコでは、近年、被爆者による体験を語る活動はほとんど組織的に行われていないことがわかった。ただし、人数や回数は少ないものの、被爆者を招く学校やイベントは存在し、体験を語る被爆者も存在していた。こうした事実から理解できるのは、被爆者による語り部活動には、体験を語る被爆者はもとより、彼らに関心を抱き、体験を聞こうとする人びとの存在が不可欠だということであろう。
 だが、被爆者と日系人が多く住むサンフランシスコという大都市においても、原爆被爆者による語り部活動は盛んであるとは言えない。そこには、言語の問題といった被爆者の個人的要因が関係している一方で、原爆投下を正当化し、その意義を強調するアメリカ政府の公的な言説も歴史的・社会的要因として影響しているように思われた。というのも、アメリカにおいて原爆被爆者の語り部活動は、実施されるにしても、「核兵器と人類」あるいは「(世界に溢れている)大規模暴力の被害者」という視点から人類(あるいはアメリカ)のより良い未来の建設に向けて行われ、日米の太平洋戦争というナショナルな文脈を強調したり過去の語りとして行われることはほとんどなかったからである。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-0761
題目(Project Title)
アメリカにおける原爆の意味と被爆者による語り部活動 ―暴力の意味/社会/被害者の人類学的研究
Memories of Atomic Bombing and Story-telling Activities by Atomic Bomb Survivors in the U.S.: An Anthropological Study on Violence, Society, and Victims
代表者名(Representative)
根本 雅也 / Masaya Nemoto
代表者所属(Organization)
一橋大学大学院社会学研究科
Graduate School of Social Sciences, Hitotsubashi University
助成金額(Grant Amount)
1,400,000
リンク(Link)
活動地域(Area)