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助成対象詳細

Details

2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research) ]

戦後東アジア・東南アジアの社会変動によるエスニック・マイノリティ形成の社会的メカニズムと「多文化共生」の可能性についての社会学的考察 ―「琉球華僑」を事例に
A Sociological Analysis of the Social Mechanisms to Produce Ethnic Minorities in Post-WWII East and Southeast Asia and the Possibility of their Multicultural Symbiosis: A Case Study of Overseas Taiwanese in the Ryukyu Islands

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

  沖縄の台湾系移民(以下、琉球華僑と記す)は、アメリカ人を除くと、沖縄で最大のエスニック・マイノリティである。琉球華僑は地域の中で決して無視できる規模ではないにも関わらず、さまざまな問題が顕在化せず、解決されないままとなっている。問題の核心は、 琉球華僑が抱える問題は、個人の問題として矮小化されるべきものでは決してなく、地域で共有し、解決にむけて取り組むべき問題であるにも関わらず、琉球華僑自身にすら個人の自助努力によって解決されるべき問題として認識されてしまい、結果として地域社会で共有されないことにある。
このような問題を解決するために、琉球華僑が地域に流入し現地化する過程において、琉球華僑として単純には一括りにはできないくらい分断化される社会的メカニズムを実証的にマクロ・メゾ・ミクロレベルの分析から解明し、地域における多文化共生を可能にする条件をさぐることが本研究のめざすところである。なお、本研究は、将来的には日本のエスニック・マイノリティにとどまらず、 戦前の日本帝国の崩壊と戦後の冷戦体制への編入という東アジア・東南アジア全域に及ぶ社会変動によって形成・再編されたエスニック・マイノリティとの比較研究へと発展させたい。
 Migrant Taiwanese, except for stationing American military personnel, is the largest ethnic minority group in Okinawa. Despite their unignorable size, a number of problems in their daily life have been left unattended and unsolved. Why have these problems been not visible? The main reason is that these problems are understood, by migrant Taiwanese themselves as well as host Okinawans, as problems of individual Taiwanese, and hence never as those which should be shared and tried to be solved by the local community as a whole.
 The present research project empirically examines at various levels the social mechanisms how migrant Taiwanese, upon their arrival and through their localization thereafter, were forced to be fragmented by the demand of host Okinawan society. This project, upon its successful completion, is expected to develop into a comparative study of those ethnic minority groups that were produced or reshaped by social changes in post-WWII East Asia.

実施報告書・概要

Summary of Final Report


(1)    研究課題と背景について
本研究の目的は、沖縄の台湾系移民(以下、琉球華僑・華人と記す。ただし、華僑・華人を厳密に区別する必要がない場合には琉球華僑とのみ記す)を対象に「マイノリティのマイノリティ」が地域社会の中で多文化共生を実現するために解決すべき課題を、マクロ・メゾ・ミクロレベルでの社会構造の分析をもとにしつつ、当事者の観点・立場から提示することにある。
琉球華僑・華人は、2014年現在、沖縄でアメリカ人に次ぐ規模のエスニック・マイノリティである。彼らは地域の中で決して無視できる規模ではないにも関わらず、地域の中で顔の見えない存在にとどまり続けており、琉球華僑が何らかの問題を生活上抱えているとしてもそのことは個人の問題として彼ら自身が認識し、地域のなかで問題が共有されないでいる。
本研究の課題は、琉球華僑が抱える問題が、個人の問題として還元すべきものでは決してなく、地域で共有し、解決にむけて取り組むべき問題であることを明らかにすることにある。この課題を解決するために、まず、琉球華僑の問題が結果として地域社会で共有されないという社会的メカニズムをマクロ・メゾ・ミクロレベルで実証的に検証することを試みた。
(2)    研究方法
本研究の研究方法は、大きく理論面と実証面とに分けられる。
まず、理論面については新制度論などの知見からマクロ・メゾ・ミクロの三者関係を原理的に捉えることで研究枠組みを構築する際の参考とした。
次に、実証面については史資料の収集および当事者・関係者への聞き取り調査を行った。史資料については沖縄・台湾・アメリカの図書館・公文書館等に収蔵されている戦後の沖縄・台湾関係についての公文書、新聞・雑誌記事、社史、統計といった一次史料を収集した。一方で聞き取り調査は、当事者には約20世帯・40名程度に対して行った。なお、聞き取りは可能であれば同世帯の1世および2世に対して行い、できる限り世帯間の連続性と非連続性を捉えられるように努めた。当事者に加えて、戦後の沖縄・台湾関係を知る引揚者・実務家・留学生などからも必要に応じて適宜聞き取りを行った。
(3)    研究から得られた知見
1.    琉球華僑の多様性と沖縄の社会構造との関わり
無視できない規模であるにも関わらず、琉球華僑がこれまで地域のなかでそれほど目立つことがなかった要因のひとつとして琉球華僑たちのもつ社会的背景の多様性が挙げられる。これは華僑がそもそもで多様であるから当然と捉えるべきではなく、細分化された需要をもつ沖縄の労働市場に吸収された結果としての側面がより重要である。また、1972年の日華断交後の国籍選択の際にも米軍基地の存在が琉球華僑に影響するなど、日本本土での華僑の国籍選択とは異なる沖縄独自の社会構造に規定された側面も浮かび上がった。
2.    東アジアの社会変動が琉球華僑にもたらしたもの
沖縄返還・日華断交以前は、琉球華僑は米軍を中心に生業を営む人びととパインやサトウキビなどの農業に従事する人びとに大別できた。沖縄返還後、沖縄では米軍基地関連の事業は先細りする一方で、あらたに観光産業が拡大するという構造転換が起きた。この構造転換は琉球華僑社会において観光産業に流入する者が比較的多かった台湾本省人の台頭・社会上昇をうながした。ただし、農業・観光業の違いはあるものの、琉球華僑がより大きな資本のもとに組み込まれ、産業全体をリードする立場には至らなかった点では変化はなかったとも言える。
その一方で史料から沖縄の人びとの琉球華僑観をたどると60年代は「かつての自分をみるよう」、80年代の観光業への流入時は「モグリ観光業者」、90年代には「苦しい生活をなさっている」といった記述がなされ、琉球華僑の多くはマジョリティと変わらない生活を送る地域住民であるという生活実態とはずれが生じていることが確認された。
3.    「顔をもたない」マイノリティであることの両義性
琉球華僑の多くは地域のマジョリティと同様の生活をしているものの、そうした実態とは異なるイメージが持たれている。これは「顔をもたない」ことで地域の一員として溶け込むことを琉球華僑の一世が個々に選択した結果であることが示唆されている。ただし、「顔をもたない」ことを主体的に選択したことで彼らの歴史が埋もれるという結果にもつながっている。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-0889
題目(Project Title)
戦後東アジア・東南アジアの社会変動によるエスニック・マイノリティ形成の社会的メカニズムと「多文化共生」の可能性についての社会学的考察 ―「琉球華僑」を事例に
A Sociological Analysis of the Social Mechanisms to Produce Ethnic Minorities in Post-WWII East and Southeast Asia and the Possibility of their Multicultural Symbiosis: A Case Study of Overseas Taiwanese in the Ryukyu Islands
代表者名(Representative)
八尾 祥平 / Shohei Yao
代表者所属(Organization)
早稲田大学アジア研究機構
Organization for Asian Studies, Waseda University
助成金額(Grant Amount)
1,400,000
リンク(Link)
活動地域(Area)