助成対象詳細 | 公益財団法人トヨタ財団

公益財団法人トヨタ財団

助成対象詳細

Details

2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research) ]

分離独立紛争後の治安再構築にむけた「正義」の形成 ―フィリピン南部ミンダナオ紛争を事例に
Formative Justice for Rebuilding Security in Post Separatist Conflict: the Case of Mindanao in the Southern Philippines

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

「正義」は、民族・宗教の多様性から決して一つの価値観には収束しえない多民族的紛争状況下で、あらゆる人が合意可能な枠組みとして現場で実践的に形成されるものである。本研究は、分離独立紛争が長期化するミンダナオにおいて、集落レベルの争議の発生を起点に、より多くの人を合意に導ける地域再建型「正義」の形成過程を明らかにする。
 このため、従来のガバナンス研究で行われてきた政治・経済的要因の分析だけでなく、個別のコミュニティで対話や調停を通じて下から構築される合意形成の現場に参与観察を実施する。また、このような調査に並行して、申請者自身が企画・立案した参加型ワークショップを現地に持ち込み、その実施を通じた現地への波及効果についても検討を進める。
 紛争地の国際平和活動に豊富な経験を有する申請者が上記のような参画型研究活動を進めることで、「情報収集のみで地元還元を志向しない」と批判されてきた研究者と住民側との溝を埋め、研究者がより積極的に現地主導の紛争解決に携わる可能性を示すことができる。またこのことは、歴史的経緯からアジア諸国での国際平和協力に困難を抱える日本の今後の国際支援にも一定の指針を提起する。
 "Formative Justice" could be practically identified through an agreeable mechanism by various people who live multiple values based on their colorful ethnicities and religions in conflict affected society. This research illustrates how to build a mechanism to lead agreement and form justice among conflicting parties as well as various related actors by focusing on community dispute resolution in Mindanao, prolonged separatist conflict in the southern Philippines.
 For this research, not only political and economical elements like regular governance research but also dialogue and/or mediation processes in community will be analyzed. In addition, an original participative workshop for capacity development will be organized in observing communities and research its multiplied efforts as well.
 This participative workshop, organized by this applicant who has rich peacebuilding experiences in war-tone areas, will also mutually contribute to both a researcher and local people. At the same time, this provides a way how a researcher can possibly corroborate locally initiated conflict resolution. This research also propounds a Japanese guideline for humbling international peace cooperation in Asia.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

「正義」は、民族・宗教の多様性から決して一つの価値観には収束しえない他民族的な紛争状況で、あらゆる人が合意可能な枠組みとして現場で実践的に形成されるものである。本研究は、分離独立紛争が長期化するフィリピン南部ミンダナオにおいて、集落レベルの争議の発生を起点に、より多くの人を合意に導ける地域再生型「正義」のメカニズムを分析した。

そして、比社会の高い武器普及率に加え、複数の政府・反政府の武装集団が存在し、民族・宗教的にも社会が分断された紛争影響地域で、分離独立紛争後の治安再構築に、どのような地域再生型「正義」形成メカニズムが、住民が正義を感じられる制度・環境づくりを促進させられるのか。民主化、持続的経済開発や治安部門改革など、ボトムアップ・アプローチで包括的に実施されてきた「国家再生型」平和構築ではなく、「地域再生型」の新平和構築論を提示し、日本の移行期の治安再構築に向けた「地域再生」支援戦略を探究した。

本プロジェクトで実施した研究の方法は、従来のガバナンス研究で行われてきた政治・経済的要因の分析だけでなく、個別のコミュニティで対話や調停を通じて下から構築される合意形成の現場に参与観察を実施した。また、このような調査に並行して、執筆者自身が企画・立案した参加型ワークショップを現地に持ち込み、その実施を通じた現地への波及効果についても検討を進め、「地域再生型」平和構築支援を試験的に試みた。

加え、紛争地の国際平和活動に豊富な経験を有する執筆者が上記のような参加型の研究活動を進めることで、「情報収取のみで地元還元を志向しない」と批判されてきた研究者と住民側との溝を埋め、研究者がより積極的に現地主導の紛争解決にかかわる可能性を示すことに試みた。またこのことは、歴史的経緯からアジア諸国での国際平和協力に困難を抱える日本の今後の国際平和支援にも一定の指針に提起を試みた。

プロジェクト期間中に、南部ミンダナオでは、フィリピン政府とモロ・イスラーム解放戦線(MILF)が、包括和平合意に署名し、2015年に現存するムスリム地域自治区(ARMM)が廃止され、MILFが移行暫定政府をリードし、2016年にARMMよりも自治権が強いバンサモロ自治政府が設立されることとなった。そのため、MILFが、様々なアクターと連携し、どのようにコミュニティレベルの武力衝突に発展した紛争をローカルな停戦に導き、問題を解決しているか現場にて参与観察をした。

現場研究では、4年間通い詰めてようやく真実を知ることとなった。安全が確保されていない紛争影響コミュニティ、特に、MILFコミュニティでは、「部外者=信用が低い人」には、真実を喋らないのが通常である。援助慣れしている長期紛争地では、何かと引き換えに限られた当たり障りのない情報から出す。以下の4つのケースに関しても、彼らに粘り強く寄り添い、ワークショップなどで平和構築のお手伝いなどをしながらも、執筆者からトラウマを呼び起こさないように配慮し、信用を構築していった。一番辛い身近なコミュニティでの紛争については、現地コミュニティの住民がヒントを話してくれ、こちらが的確な質問をし、的確な解答を得るまで時間を要した。また、MILF用語を理解しヒントを聞き分けられるようになるまで、時間がかかった。

紛争解決ケースとして、1)MILF内、2)MILFとクリスチャン、3)MILFと地元有力政治家(地方自治体の調停班)、4)MILF、MNLF(モロ民族解放運動、MILFの母体であり1996年に最終和平合意に署名)、BIFF(バンサモロ・イスラム自由戦線、MILFの分派)が同居するエリアを調査した。プロセスはどのケースも両者から尊敬されている長老などが調停をし、和平合意書には、避難民の帰宅、停戦、紛争当事者たちの問題解決が書かれており似ている。また、ムスリム間の紛争解決では、和平合意後、カンドゥリ(感謝祭)がコミュニティで開催され、コミュニティ住人の皆が招待され、合意書内容が読み上げられる。

一方、治安が安定し、住民の安定した日常生活が長く続いているケース(2年以上)は、合意書にある問題解決事項が紛争当事者以外のコミュニティの人達にも直接恩恵を受けたか、調停者の力(社会的な地位や兵力)で押さえつける停戦合意だけでなく、問題解決が具体的に述べられているかに比例していた。

このことから、公共度の高い正義が形成され、具体的なコミュニティの課題分析が反映された支援事業が安定した治安につながる。移行期の平和構築支援には、MILFやステークホルダーの内政を分析する必要がある支援団体も現地受益社会のダイナミズムに考慮することで、汚職や横領による不公平な平和構築を抑止でき、正義の形成につながる。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-0919
題目(Project Title)
分離独立紛争後の治安再構築にむけた「正義」の形成 ―フィリピン南部ミンダナオ紛争を事例に
Formative Justice for Rebuilding Security in Post Separatist Conflict: the Case of Mindanao in the Southern Philippines
代表者名(Representative)
香川めぐみ / Meg Kagawa
代表者所属(Organization)
大阪大学大学院国際公共政策研究科
Osaka School of International Public Policy, Osaka University
助成金額(Grant Amount)
2,000,000
リンク(Link)
活動地域(Area)