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助成対象詳細

Details

2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research) ]

大学病院に勤務する臨床研究コーディネーターのレジリエンスに関する研究 ―臨床研究コーディネーターはどのように精神的な回復力を身につけたのか

Resilience of Clinical Research Coordinators: How Have They Gained Mental Recovery?

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

我が国では、安心・安全で高度な医療の提供が急務の課題となっており、ドラックラグの問題もその一つである。質の高い治験の実施に向け、治験業務を支援する役割を担うのが、臨床研究コ-ディネ-タ-(以下、CRC)である。
治験は、未承認の薬剤を被験者として治験に参加する患者に投与するため、薬剤や疾患に関する知識のみならず、幅広い知識と経験が必要とさるため、業務の特殊性に大きなストレスを感じ、その多くが離職している。しかし、職種の特殊性に適応できず離職する者がいる一方で、一時的に精神的に強いダメージを受けながらも、状況に適応し精神的な回復力を身につけ、職務を継続する者もいる。このような、精神的に回復する力をレジリエンスと呼び、教育や精神医学などの領域における先行研究では、介入および発達が可能であるとされている。本研究では、CRCのレジリエンスに着目し、大学病院に勤務するCRCを対象に個別の面接による質的調査を実施し、そのインタビューを元に、CRCが、精神的に強いダメージを受けながらも、どのように乗り越え、精神的な回復に至るまでのプロセスにおける体験と、その体験から自己がどのように変化したのかを明らかにすることを目的とする。
In today's medical care in Japan, the provision of safe and advanced medical treatment has been an urgent need, including measures for drug lag. Clinical research coordinators (CRCs) play the role of supporting clinical trials so that high-quality trials can be conducted. In order to medicate a patient who participates in a clinical trial as a subject with an unrecognized medicine, not only the knowledge about a particular medicine or disease but broad knowledge and experience are required for CRCs. CRCs may feel so stressed from the peculiarity of their work, and many of them resign.
Some CRCs resign due to their poor adaptability to medical front, however, others continue their duties by adjusting to circumstances and acquiring mental recovery while they temporarily receive strong mental damage. This ability to recover mentally is called resilience, which is proven possible to be intervened and developed, according to previous studies in education and psychiatry. This study focuses on the resilience of CRCs. Individual interviews with CRCs who work at a university hospital are conducted to look back on their experience. This paper attempts to clarify, based on these interviews, how CRCs experience the process of receiving strong mental damage, overcoming them and recovering mentally, and how their self changed with these experiences.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

平成24年3月厚生労働省と文部科学省は、日本の医療水準の向上と日本発のエビデンスを世界に発信していくことを目指すことを目的に、「臨床研究・治験活性化5カ年計画2012」を策定した。臨床研究コーディネーター(Clinical Research Coordinator:CRC)は、看護師、薬剤師、臨床検査技師など複数の職種で構成される臨床試験の支援者であり、臨床研究の補足説明や、スケジュール調整、データの収集・管理など、業務は多岐に渡る。職務ストレスなどを理由に多くのCRCが離職する一方で、状況に適応して勤務を継続する者もいる。逆境から精神的に回復する力をレジリエンスと呼び 、1940年代より、心理学や教育分野で研究が始まった。我が国でも、がん患者や新人看護師のレジリエンスに関する研究が行われているが、CRCのレジリエンスに関する研究は見当たらない。本研究では先行研究を参考に、レジリエンスを「予期せぬ出来事や人間関係、職務的プレッシャーなどストレスに直面し、一時的に精神的に強いダメージを受けながらも、柔軟に適応するプロセスであり、学び発展する特性」と定義した。
 研究の目的は、大学病院に勤務する看護師CRCを対象に面接調査を行い、看護師CRCのレジリエンスを質的記述的に明らかにすることである。対象者は、職業的背景よるバイアスを排除するために最も多い看護師CRCと限定し、専任のCRCとして勤務を2年以上の実務経験を有する者とした。また国際共同治験を含む複数の治験を同時に担当するという点で、職務ストレスが高いとされる大学病院を対象施設とした。
 研究の方法は、A大学病院に勤務する看護師CRCに、個別の半構成的面接を行い、面接内容を録音し逐語録を作成した。データは、ストラウス・コービン版グランデッド・セオリー・アプローチにて行った。群馬大学医学部疫学研究に関する倫理審査にて承認を得て、面接内容の録音および倫理的配慮に関して、文書にて対象者の同意を得た。
対象者は、看護師CRC4名(CRC経験:平均9.3年、女性、非常勤、看護師歴:平均3年半)、面接時間は平均67.6分であり、逐語録は合計 43,296字であった。見出しは516個、2次コードは119個、サブカテゴリは34個、カテゴリは9個が生成された。
 面接内容を分析した結果、対象者たちは、結婚や子育てを機に看護師を退職した経験を有していた。子育てがひと段落し再就職するが、与えられた業務は、繰り返しの作業が多く合わなさなどを感じ退職している。この経験から、看護師時代のように、患者のために働く喜びを求めていることに気がつく。本研究では、これを【わたしらしく働きたいことへの気づき】と名付けた。私らしく働きたいことへの気づきから、自己成長を求め、大学病院にてCRCとして働くことを決意していた。CRCに期待を抱き業務を開始したが、CRCとしての重責に負担を感じることとなる。しかし、被験者や新薬を待ち望む患者のために働きたいという他者志向性を再び獲得する。看護師CRCは、他者志向性の獲得、即応する力や気持ちを切り替える術など個人的要因、周囲の人の支えや業務環境の改善など環境的要因を得て、困難な事象や揺れ動く勤務継続への思いを乗り越えていた。また、新たな困難な事象に直面しても順応し、看護師CRCおよび、人として、らせん状に成長を続けCRCとして勤務継続を決意するプロセスが明らかとなった。
 対象者は、豊富な看護師経験や転職経験を持ちながら、未知なるCRCとして業務実践のため知識や技術を獲得し、CRCの職業的アイデンティティの形成という内的な変化を遂げていること。そして、看護師とCRCを自らの中で統合し看護師CRCとして職業的アイデンティティを確立し専門職者として成長すると共に、人としても成長を遂げていることが明らかとなった。また、CRCを通して人として成長すること、多くの困難を乗り越えてきた経験が自信となり、新たなる困難にも対応しうるレジリエンスを強化する力となっているという新たな知見を得ることができたと考える。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-0949
題目(Project Title)
大学病院に勤務する臨床研究コーディネーターのレジリエンスに関する研究 ―臨床研究コーディネーターはどのように精神的な回復力を身につけたのか

Resilience of Clinical Research Coordinators: How Have They Gained Mental Recovery?
代表者名(Representative)
温井 智美 / Tomomi Nukui
代表者所属(Organization)
群馬大学医学部附属病院 臨床試験部
Gunma University Hospital
助成金額(Grant Amount)
700,000
リンク(Link)
活動地域(Area)