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助成対象詳細

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2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research) ]

パレスチナにおけるイスラーム系NGOの活動・効果に関する基礎研究 ―日本の市民社会とイスラーム系NGOの連携に関するヴィジョン・方策の作成に向けて
Baseline Study on the Activities and Impacts of Islamic NGOs in Palestine: Toward the Formulation of Visions and Methods for the Cooperation between the Japanese Civil Society and Islamic NGOs.

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

日本は、天然資源の確保、市場開拓、安全保障といった点で中東地域に大きな国益を有する。そのため、中東諸国との相互理解を深める試みが長年なされてきた。
他方、中東地域では、イスラーム主義運動が社会に広く浸透し、2011年末の民主化運動「アラブの春」の開始以降は合法的な政治参加を進める。アラブ世界の外でも、トルコでは1995年以降、イスラーム主義政党が与党である。さらに、中東問題の根幹であるパレスチナでは、2006年選挙でムスリム同胞団系ハマースが第一党に選出され、現在はガザ地区を実質的に統治する。ヨルダン川西岸地区でもハマースへの民衆の支持は根強い。
このような現状に鑑みて、日本はイスラーム主義運動との対話・相互理解・協調の必要性に迫られている。だが、市民社会を代表する日本のNGOが主体的にイスラーム系NGOと連携を深め、共同事業を立ち上げることはこれまでなかった。その可能性を評価する実地調査も不足している。そこで本研究では、ガザ地区とヨルダン川西岸地区でイスラーム系NGOの活動実態とニーズを調査し、日本のNGOとイスラーム系NGOの連携および共同事業の可能性と方策を検討する。
  Japan has a significant national interest in the Middle East from both economic and security viewpoints, because this region covers oil and natural gas exporting countries and is a great potential market for the Japanese products. In addition to these economic and political interests, the cultural curiosity toward the Middle East and the religious and psychological attachment among Japanese Muslims and Christians to the region is quite strong. As a result, there have been great efforts in Japan for deepening the mutual understanding and strengthening relations with the Middle Eastern countries at intergovernmental and grass-root levels.
 On the other side of the map, the Islamic movements are growing, spreading and penetrating into the societies in the Middle East. In Arab countries, Islamic movements started to participate legally and more actively in a political sphere, especially since the beginning of the "Arab Spring" in the end of 2011. In Turkey, a political party linked with Islamism has been a leading national party since 1995. The various Islamic movements are also gaining a popular support and becoming strong and influential actors in Palestine, the region which has been a focal point in the relations between Israel and Arab countries as well as between the Western countries and the Middle Eastern countries for long time. Among them, Hamas, the local branch of the Muslim Brotherhood is now the biggest and strongest Islamic party in Palestine. It defeated a secular nationalist party, Fatah, in the 2006 election of the Palestinian Legislative Council, and governs the Gaza Strip de-facto. The grass-root support to Hamas is also persistent and strong in the West Bank.
 Facing this situation in the Middle East, the Japanese government and civil society may now need to seek more dialogues, mutual understandings and cooperation with the Islamic movements. However, the Japanese non-governmental organizations (NGOs), which represent the civil society, are not playing important and valuable roles in this respect and have implemented few joint projects with the Islamic NGOs including community-based organizations (CBOs). Even the field surveys have not been done enough, to evaluate possibilities and methods available for the cooperation between the Japanese NGOs and the Islamic NGOs and CBOs. In this light, this research will focus on activities, values and motivations of the Islamic NGOs in the Gaza Strip and the West Bank, evaluating needs of those organizations and their beneficiaries. Then, it will examine possibilities and methods available for the cooperation between the Japanese NGOs and the Islamic NGOs.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

  日本は、天然資源の確保、市場開拓、安全保障といった点で中東地域に大きな国益を有する。そのため、中東諸国との相互理解を深める試みが長年なされてきた。他方、中東地域では、イスラーム主義運動が社会に広く浸透しており、中東問題の根幹であるパレスチナでも、2006年選挙でムスリム同胞団系ハマースが第一党に選出され、現在はガザ地区(以下、ガザ)を実質的に統治する。ヨルダン川西岸地区でもハマースへの民衆の支持は根強い。
 このような現状に鑑みて、日本はイスラーム主義運動との対話・相互理解・協調の必要性に迫られている。だが、市民社会を代表する日本のNGOが主体的にイスラーム系NGOと連携を深め、共同事業を立ち上げることはこれまでなく、その可能性を評価する調査も不足している。そこで本プロジェクトでは、ガザでイスラーム系NGOの活動実態やニーズを調査し、日本のNGOとイスラーム系NGOの連携および共同事業の可能性と方策を検討した。
 今回調査対象としたガザは、過去7年に渡って陸の境界、海域、空域を封鎖され、物資・人の移動は厳しく制限される。幾度もイスラエル軍の空爆や砲撃に晒され、甚大な被害をこうむってきた。ガザの産業、医療保健、教育は壊滅的状況にあり、人々はただ生きていくためだけに国際援助に頼らざるを得ない状態にある。
 調査期間中、ガザ戦争が勃発し、調査対象地が壊滅的被害を受けるといった困難に直面したが、最終的には、20ヶ所のイスラーム系および非イスラーム系NGO/CBOと3カ所の市役所で聞き取りと支援活動の調査を行うことができた。また、これらNGOから支援を受ける家庭も訪問し、生活状態を調査し、現地の国連職員からもパレスチナの援助の現状について聞き取りを行った。
 調査で分かったことは、まず、ガザのイスラーム系NGO/CBOは、孤児の支援や貧困家庭に物資を配布する支援が重視するが、それ以外では非イスラーム系NGO/CBOとの違いは明確ではなく、慈善活動とイスラームのつながりを強調する団体は多くはないということだった。イスラーム系と非イスラーム系の違いは、支援活動の内容や効果よりも、むしろ資金源の違いにより如実に現れていた。具体的には、パレスチナで最大のドナーであるUSAIDが、イスラーム主義運動の影響力を弱めるため、非イスラーム系の対抗勢力が運営するNGOに大量の資金を提供しており、これらの団体では「非イスラーム」であることが一つの売りとなっていた。他方、イスラーム系NGOやハマース政府とつながりを持たざるを得ない市役所は、封鎖と欧米・国連によるハマース政府ボイコットの開始以降、域外のムスリム社会との交流や国際支援が激減したため、いかに国際社会に正当な主体として認めてもらい、ボイコットの対象となることを回避し、あるいはボイコットの制約を迂回して資金を獲得するか、ということが大きな課題となっていた。また、自らの活動が普遍的価値にも基づいており、封鎖やボイコットが不当に住民に損害を与えていることを、外の世界に伝えたいと切望していた。
 第2に、政治思想・運動としてのイスラーム主義は、一般住民の間にある素朴な宗教心や社会奉仕の行動と必ずしも同一ではないということも、今回の調査から明らかとなった。「神のために他者に恵みを与え、他者を通じて神から恵みを受け取り、神に感謝する」というイスラームの教えは、社会奉仕や社会関係の在り方を表現した一形態に過ぎず、ムスリムの実生活においては、他の価値観(例えば市民社会や人権といった価値)との間に明確な線引きがあるわけではない。敬虔なムスリムでもNGOの活動に参加しない人がいる一方、家庭の事情を抱えていることがNGOに参加する契機となった人々や、唯一の収入源としてNGOを捉えている人々も数多くいる。
 日本のNGOとガザのイスラーム系NGOが連携する際に生じる問題としては、第1に、イスラエル政府とエジプト政府がガザ境界の管理を通じ、国際援助団体がどの地元NGOなら支援しても良いか決める権限を保持していることと、主に米国政府が「イスラーム系」と認定した団体をボイコットするよう各国・国連に圧力を掛け続けていることがある。よって日本の市民団体は、ガザ内での活動は諦めて状況の違法性・非人道性を訴える活動に特化するか、イスラーム系NGO、ハマース政府、市役所を完全に無視するか、あるいはそうした制約を迂回して間接的に支援する方法を模索するか、という選択肢のいずれかを選ばざるをえない。技術的レベルでは、イスラームの喜捨は孤児や貧者に与えることそのものに価値を置くため、欧米系の国際援助で一般的に重視される「持続性」「自立性」「フォローアップ」といった観点は問題とされにくく、この点で認識の差を埋めていく努力が必要である。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーB: 個人奨励研究  Category B (Individual Research)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-1126
題目(Project Title)
パレスチナにおけるイスラーム系NGOの活動・効果に関する基礎研究 ―日本の市民社会とイスラーム系NGOの連携に関するヴィジョン・方策の作成に向けて
Baseline Study on the Activities and Impacts of Islamic NGOs in Palestine: Toward the Formulation of Visions and Methods for the Cooperation between the Japanese Civil Society and Islamic NGOs.
代表者名(Representative)
今野 泰三 / Taizo Imano
代表者所属(Organization)
大阪市立大学大学院文学研究科
Graduate School of Literature and Human Sciences, Osaka City University
助成金額(Grant Amount)
1,500,000
リンク(Link)
活動地域(Area)