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助成対象詳細

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2012 研究助成 Research Grant Program   [ カテゴリーA: 共同研究2  Category A: Joint Research (2) ]

戦争をめぐる日蘭関係の解決にむけて ―在蘭邦人による「他国史」の内在化と現地のニーズに対応した民間主導の日蘭歴史和解プログラム生成に向けた研究
Seeking a Solution to the Netherlands and Japan Relation over the Pacific War: Research Project of Internalization of "the Other's History" by Japanese Residents in the Netherlands and the Creation of a History Reconciliation Program from Private Sector Initiative that Responds to Local Needs

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

1949年のインドネシア独立後、旧蘭領東インド(旧蘭印)の植民地コミュニティ約35万人(元捕虜の軍人・民間人抑留者・混血オランダ人・日系オランダ人)は、過酷な日本占領期の後、「祖国」を喪失し、見知らぬ祖国オランダへの引揚者となった。彼らとその子孫は、オランダ国民の約10%にも及ぶ。引揚者第一世代が残した対日憎悪は、家族関係にとどまらずオランダ教育政策にも影を落とし次世代に持ち込まれている。戦争が招いた日蘭関係の諸問題は根深く、戦後の公的日蘭交流は、江戸時代に遡る平戸・長崎の文化交流史が中心で、戦争をめぐる問題を極力避けてきた。ゆえに在蘭邦人は旧蘭印引揚者が抱く「敵国たる日本人観」に直面してきた。その結果「他国史」を受け止めようとする一部が、日蘭の歴史和解をけん引している。本企画は、以上の在蘭邦人による民間主導の和解活動を、両国の政治社会的力学から歴史的に位置づけ、英米豪などとの同様の取り組みに共通する課題と、旧植民地人をめぐるオランダに特有の課題を学術的に整理し、具体的なニーズに根ざす歴史和解プログラムの生成をめざす。本課題は両国関係改善のみならず、歴史和解分野における日本の国際社会貢献に大きく寄与すると考えられる。
After the formal independence of the United States of Indonesian Republic in 1949, the colonial community of the former Netherlands East Indies, a population of about 350,000 (ex-POW, ex-civilian internees, Dutch-Indonesian Eurasians including Japanese-Eurasians), lost their "fatherland" after the cruel Japanese Occupation and repatriated to the unknown country, the Netherlands and beyond. These people and their descendants reach 10% of the Netherlands population. The animosity toward Japan, which the first generation held, stayed not only within their family but stretched to the next generations, which also cast shadows on the education policy in the Netherlands. Because the problems of two countries over the war is deeply rooted in society, the official cultural exchange of post war Netherlands-Japan tried to avoid touching the issues directly and tended to be focused on the cultural relations around Hirado and Nagasaki which go back to the Edo period. Therefore Japanese residents in the Netherlands face to be viewed as the "enemy side" by the repatriates from the former NEI. As a result of this, a part of those Japanese that try to accept "the Other's History" lead the initiative to seek reconciliation through the history of the war.
 This research project aims (1) to place those reconciliation activities led by the Japanese initiative within the social political history of Netherlands-Japan relations, (2) to identify and analyze the common issues among similar activities in the United Kingdom, United States and Australia which relate to the post war diaspora of the Netherlands colonial state from an academic point of view and (3) to create History Reconciliation Programs which reflect concrete needs in the Netherlands. This project will contribute not only to the improvement of relations between the two countries but also contribute to Japan's role in international society in the field of Reconciliation over the Pacific War.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

本企画は、在蘭邦人による民間主導の和解活動を、日・蘭両国の政治社会的力学から歴史的に位置づけ、英米豪などとの同様の取組みに共通する課題と、旧植民地人をめぐるオランダに特有の課題を学術的に整理し、具体的なニーズに根ざした歴史和解プログラムの生成を目的としている
 1949年のインドネシア独立後、旧蘭領東インド(旧蘭印)の植民地コミュニティ約30万人(元捕虜の軍人・民間人抑留者・混血オランダ人・日系オランダ人)は、過酷な日本占領期の後、「祖国」を喪失し、見知らぬ祖国オランダへの引揚者となった。彼らとその子孫は、オランダ国民の約20%にも及ぶ。引揚者第一世代が残した対日憎悪は、家族関係にとどまらずオランダ教育政策にも影を落とし次世代に持ち込まれている。戦争が招いた日蘭関係の諸問題は根深く多くの課題を抱えていたものの、戦後の日蘭交流は、江戸時代に遡る平戸・長崎の文化交流史が中心で、戦争をめぐる問題を極力避けてきた。ゆえに在蘭邦人は旧蘭印引揚者が抱く「敵国たる日本人観」に直面しつづけてきた。それゆえ「他国史」を内在化する必要が生まれ、在蘭邦人の歴史理解を深め啓蒙する活動が、日・蘭歴史和解をけん引してきたという背景が存在した。
 日本国内では、1950年代からインドネシア日本占領に関し研究が蓄積され、近年では連合軍捕虜や連合国被抑留民間人に関する歴史史料公開がなされてきた。しかしこれらの知見は日本国内のごく一部に情報がとどまり、日本語を解しない一般のオランダ戦争犠牲者には事実上知られていないという状況である。
 本プロジェクトでは、以下の3点の課題が明らかとなるよう研究をおこなった。
(1) 捕虜・民間人・混血者・日系オランダ人など旧蘭印引揚者は一様ではない。他の連合国とも共通する課題と蘭印引揚者が求める課題を明確にし、具体的なニーズを明らかにする。
(2) 在蘭邦人が生成した歴史和解に依拠するアイデンティティを分析し、英米豪など他の連合国とも共通する外務省・研究者・民間主導の歴史和解活動と比較を行い、在蘭邦人の役割の解明を行う。
(3) 捕虜や民間人に関する日本の層の厚い研究と基礎史料は、オランダで全くというほど知られていない。利用可能な情報を、ニーズと結びつけ、有効な歴史和解プログラムの生成を行う。
 (1)につき、日本軍に収容された連合国民間人の数と比率は、オランダが突出している。戦争捕虜に対する民間人抑留者の割合は英国27%、米国13.3%であり、対日戦争体験とは大半が捕虜体験であった。一方、オランダは戦争捕虜4.7万人に対し、約2倍の8.9万人が民間人被抑留者である点は特筆に値する。しかもオランダ系混血者16.5万人は抑留こそされなかったが、抑留・捕虜にとられた家族を持つ人が大多数であり、戦前の蘭印に居住したあらゆる社会階層・年齢のオランダ系住民が一様に過酷な日本占領下の抑留関連の体験をもつ。日蘭間の戦争和解活動には、学術交流を超えた全方位的なアプローチが必要である。
 オランダの戦争犠牲者は、抑留の政策根拠についてはむろん、歴史実証主義と歴史修正主義の長きにわたる戦後の相克について知らず、自らの体験から出られず行き場のない怨嗟のなかにとどまっている。まず上記(3)に関連し、本課題では、(a)日本占領期蘭領東インドに関する日本語書籍・論文・資料集・エッセイ・回想録の文献情報を集約し日・英語で目録を作成した。この先の展開として、日本軍の連合軍捕虜政策についての資料集、抑留者政策に関する資料集などを英語やオランダ語で刊行する新たなニーズも生まれた。今回は収録した文献情報が予想よりも膨大となり、公文書などのアーカイブズ史料までは含めなかった。日英目録はPDFだけでなく、将来的にはオンラインデータベースとして公開したい。さらに(3)-(b)として、陸軍省俘虜情報局作成の連合国俘虜銘々票につき、オランダ国立公文書館で既公開のオランダ海軍銘々票1802枚について翻訳データを作成した。本プロジェクトのデータベース公開は、2015年8月14日のオランダ側の戦後70年の慰霊式典(蘭海軍司令部デン・ヘルダー)にて行う。また、(1)と関連し、オランダに特有なニーズとして、旧蘭印引揚者のうち日本軍人・軍属を父親に持つオランダ日系二世の父親身元捜索がある。本研究課題では、フィリピン日系人法的支援団体PNLSCと著名な弁護士の協力を得、オランダ日系二世の体系的な支援体制を構築した。父親確定に不可欠な日本の公文書調査・収集・データ整備のほか、本課題期間中に依頼のあった34名のうち父親12名が判明、うち2名については日本側親族とコンタクトが成立し、本課題完了前後に依頼人1名来日による日本側親族との対面も実現した。
 (2)と関連し、在蘭邦人による対日戦争体験者支援活動は、主に日本人との同席ができる限られたオランダ側犠牲者に限られていた。本課題では、オランダ側コミュニティに積極的に入り、個々人に対応した細やかな支援、当事者・親族自らが自宅でアクセスできるデータベース情報基盤整備の双方からアプローチし一定の成果を上げることができた。一般向けの集会、オランダ機関との共催・主催国際シンポジウム、日・蘭両国における写真ポートレート展示も通じて、オランダ関係機関とも密接な連携ができ、両国関係改善のみならず、歴史和解分野における日本の国際社会貢献に貢献する大きな一歩を踏み出すことができたと考える。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2012 研究助成 Research Grant Program   【カテゴリーA: 共同研究2  Category A: Joint Research (2)】
助成番号(Grant Number)
D12-R-1133
題目(Project Title)
戦争をめぐる日蘭関係の解決にむけて ―在蘭邦人による「他国史」の内在化と現地のニーズに対応した民間主導の日蘭歴史和解プログラム生成に向けた研究
Seeking a Solution to the Netherlands and Japan Relation over the Pacific War: Research Project of Internalization of "the Other's History" by Japanese Residents in the Netherlands and the Creation of a History Reconciliation Program from Private Sector Initiative that Responds to Local Needs
代表者名(Representative)
前川佳遠理 / Kaori Maekawa
代表者所属(Organization)
アジア太平洋戦争日本関連史資料および学術連絡支援財団
Foundation for the People Affected by the War in the Pacific: with Japanese archives and contacts
助成金額(Grant Amount)
6,500,000
リンク(Link)
活動地域(Area)