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助成対象詳細(Details)

   

2013 研究助成 Research Grant Program  /  共同研究助成A2  
助成番号
(Grant Number)
D13-R-0015
題目
(Project Title)
ライフレビューによるハンセン病回復者の語りの保存と看護師のエンド·オブ·ライフケア能力向上の試み
Using Life Reviews to Preserve the Narratives of Hansen's Disease Survivors and Improve Nurses' End-of-life Care Skills
代表者名
(Representative)
近藤真紀子
Makiko Kondo
代表者所属
(Organization)
岡山大学大学院保健学研究科
Graduate School of Health Sciences, Okayama University
助成金額
(Grant Amount)
 3,400,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

わが国のハンセン病回復者(以下、回復者)の平均年齢は82.1歳であり、今後10年以内に殆どが寿命を迎える。高齢化の進展により、(1)療養所は、ハンセン病由来の問題をもつ高齢者を、短期間に多数、看取らなければならない、(2)看護師は、親戚縁者との関係が断絶した回復者の、疑似家族としての役割を担わなければならない、(3)回復者は、生きた証を残す最期のチャンスにあるが、多くは特別な表現手段を持たない等、前例のない問題に直面している。本研究では、回復者らの死が差し迫る危急の事態において、速効性・最大効果の期待できる『ライフレビュー(語り手=回復者、聴き手=療養所の看護師)』を解決策として選択し、以下の目的達成を目指す。目的1:エンド・オブ・ライフケアとしての、ライフレビューの効果を検証する。目的2:ハンセン病を患い生きた人生の普遍的意味を概念化する。目的3:回復者の語りをライフレビューブックとして出版する。目的1、2は、回復者のその人らしさを尊重したエンド・オブ・ライフケアの実現に貢献し、且つ、良き聴き手を媒介に、回復者が主観的体験としての人生を語ることで、人生の意味づけの再構築・カタルシス効果を促す。目的2、3は、回復者が生きた証を残すことを支援する。共に、辛酸を極めた回復者の最期の時を積極的に支援するものである。

 In Japan, the average age of Hansen's disease survivors is 82.1 years, and approximately 141 of these survivors die every year. Almost all these survivors are likely to die within 5-10 years from 2013. Their aging has led to unprecedented problems such as the following: (1) sanatoriums for Hansen's disease have to care for many succumbing to death in a short period of time, (2) nurses at these sanatoriums must take on the role of surrogate family to these survivors because these survivors have severed relations with their families, and (3) aging survivors have now only little chance for leaving their history as a whole while still alive, but they do not have the means to do so. In this project, in order to provide a solution to these problems, we conducted life reviews of Hansen's disease survivors, as told to a nurse at a sanatorium, to accomplish three objectives: (1) validating the effect of life reviews in end-of-life care, (2) conceptualizing the universal meaning of life in persons with Hansen's disease, and (3) publishing a book of narratives based on the life reviews of Hansen's disease survivors. The first two objectives aid in the realization of end-of-life care that values the dignity of Hansen's disease survivors and promote reconstruction of meaning of life and catharsis in these survivors by narrating their life as a subjective experience to a good listener. The second and third objectives help to preserve their life history. Both the objectives can be viewed as a form of support for survivors of Hansen's disease who have suffered much discrimination and many hardships throughout their lives at the final, yet important, stage of their lives.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

1.プロジェクトの概要
  国立療養所大島青松園は、高松市沖の瀬戸内海の島(大島)に所在し、高松港から官用船で島に渡 る。ハンセン病回復者の方々の高齢化の進展は著しく、療養所は、短期間に多数のハンセン病回復者 を看取るという課題に直面している。また、ハンセン病回復者は、失明・四肢切断・知覚麻痺などの ハンセン病の後遺症、及び加齢に伴う心身の衰えに加え、苦楽を共にした仲間の死による心細さや喪失感を体験しており、コミュニティー崩壊による身体・精神・社会的な悪影響をいかに少なくして、日々、生きがいをもって過ごしていただくかが、課題の一つとなっている。また、強制収容あるいは 家族への差別を恐れ、故郷の親戚縁者との関係を断った(断たれた)方々も多く、また、ワゼクトミー により子どもを産み育てる機会を奪われ、配偶者以外の家族を持ち得ない。そのため、療養所看護師 が‘疑似家族’となって、暖かく尊厳ある死を看取らなければならない。さらに、高齢化した回復者 にとっては、今が生きた証を残す最後のチャンスであるが、文芸作品や芸術作品を発表する一部のハンセン病回復者を除き、回復者の多くはその表現手段を持っていない。また、自分達の死によって語 り部が失われ、ハンセン病の歴史が忘れ去られ風化するのではないかと危惧している。 
 このような問題に対して、我々は、療養所の看護師が聴き手となり、ハンセン病回復者が自己の人 生を振り返って語るライフレビューを行い、その回想録を生きた証として残す支援事業を行ってい る。この取り組みによって期待される効果は、まず、ハンセン病回復者にとっては、信頼関係のある 良き聴き手を相手に、自己の人生を語ることで、辛い体験が浄化され新たな意味が見出されるカタル シス効果が期待できることである。特に、老いと迫りくる死、仲間の激減とコミュニティーの崩壊に 直面するハンセン病回復者にとっては、看護師が全身全霊を込めて‘聴く’という行為が重要な支援 となる。また、看護師にとっては、聴く力と共感する能力を鍛え、ハンセン病回復者の半生に耳に傾 けることで対象理解が進み、これらの能力が、最期の瞬間までその人らしく生きることを支え、尊厳 ある死を看取るエンド・オブ・ライフケアの実現を支えることになる。最後の一人に至るまで、ハン セン病回復者を価値ある存在として尊重し生を支えることができるのは、大島青松園の職員であり、日常生活の支援の責任は看護師にある。専門職としての質の高い看護実践能力を発揮できるか否か が、ハンセン病回復者のQuality of lifeに直接的に影響を及ぼす。本プロジェクトは、ハンセン病 回復者のライフレビューの出版により生きた証を残すことを支援するハンセン病回復者への直接的 貢献と、質の高いエンド・オブ・ライフケアの実現に向けた貢献の2つを目指している。
2.ハンセン病回復者のライフレビューブックの出版 
 本プロジェクトの成果として、『近藤真紀子(監修),大島青松園(編):大島青松園で生きたハンセン病回復者の人生の語り.風間書房,2015』を出版した。17 名のハンセン病回復者の語りは、極限状態を生きてきた者にしか語れない人生の深みと重みに満ちたものであった。
 かつて、大島青松園に入所した患者は、亡くなった後に解剖され、解剖台の上で、湯灌と称してデ ッキブラシで身体を洗い、荼毘にふされたと言う。もちろん、解剖は医師の手によるが、その後の弔 いに至る全ての過程は患者の手で執り行われた。その後、誰かの手によって解剖台は瀬戸内海に打ち 捨てられたが、月日を経て大島の浜に打ち上げられた。本書の副題には、高木佳子歌人の「深くふか く目を瞑るなり、本当に吾らが見るべきものを見るため」を選んだ。スティグマを有する病に苦しむ 人々を社会全体がどのようにケアすべきか。医療倫理はどうあるべきか。17 名のハンセン病回復者 の語りに耳を傾け、過酷な人生を通して得た「英知」と「負の歴史」を学ぶ教訓の書として、次世代を担 う子どもたちや若者に広く読んでいただきたいと願っている。
3.看護師の変化
 本プロジェクトの取り組みにより、看護師は、‘聴くこと’‘一人一人の生きてきた歴史’を知る ことと大切さに改めて気づいたようで、確実に変化した。例えば、これまで、病状が悪くなると居住 区である不自由者棟を離れ、病棟に入院するのが慣わしであった。一般社会で言えば、在宅ではなく、医療設備の整った病院で看取ることに該当する。しかし、看護師から、住みなれた不自由者棟の自室 で看取ってあげたいとの声があがり、不自由者棟で看取るための様々な準備(医療設備の準備、看護 師・介護員の意思統一、他の入所者の理解を得るなど)を進め、実際に2名の方を自室で看取った。
 平成27年4月現在、入所者数69名・平均年齢82.4歳であり、過去10年間に約90名が、昨年(平 成 26 年度)1 年間だけでも11名が亡くなり、最も多かった時期(740 名,昭和 18 年)の10分の1以下にまで減少した。本プロジェクトの計画当初に予測していた事柄が現実のものとなり、入所者数の減少に伴う園内の維持管理体制の再構築を図らなければならない時期となった。このような中で、 看護師が確実に変化したことが、回復者の方々の支えとなっている。1.プロジェクトの概要
 国立療養所大島青松園は、高松市沖の瀬戸内海の島(大島)に所在し、高松港から官用船で島に渡 る。ハンセン病回復者の方々の高齢化の進展は著しく、療養所は、短期間に多数のハンセン病回復者 を看取るという課題に直面している。また、ハンセン病回復者は、失明・四肢切断・知覚麻痺などの ハンセン病の後遺症、及び加齢に伴う心身の衰えに加え、苦楽を共にした仲間の死による心細さや喪失感を体験しており、コミュニティー崩壊による身体・精神・社会的な悪影響をいかに少なくして、日々、生きがいをもって過ごしていただくかが、課題の一つとなっている。また、強制収容あるいは 家族への差別を恐れ、故郷の親戚縁者との関係を断った(断たれた)方々も多く、また、ワゼクトミー により子どもを産み育てる機会を奪われ、配偶者以外の家族を持ち得ない。そのため、療養所看護師 が‘疑似家族’となって、暖かく尊厳ある死を看取らなければならない。さらに、高齢化した回復者 にとっては、今が生きた証を残す最後のチャンスであるが、文芸作品や芸術作品を発表する一部のハンセン病回復者を除き、回復者の多くはその表現手段を持っていない。また、自分達の死によって語 り部が失われ、ハンセン病の歴史が忘れ去られ風化するのではないかと危惧している。 
 このような問題に対して、我々は、療養所の看護師が聴き手となり、ハンセン病回復者が自己の人 生を振り返って語るライフレビューを行い、その回想録を生きた証として残す支援事業を行ってい る。この取り組みによって期待される効果は、まず、ハンセン病回復者にとっては、信頼関係のある 良き聴き手を相手に、自己の人生を語ることで、辛い体験が浄化され新たな意味が見出されるカタル シス効果が期待できることである。特に、老いと迫りくる死、仲間の激減とコミュニティーの崩壊に 直面するハンセン病回復者にとっては、看護師が全身全霊を込めて‘聴く’という行為が重要な支援 となる。また、看護師にとっては、聴く力と共感する能力を鍛え、ハンセン病回復者の半生に耳に傾 けることで対象理解が進み、これらの能力が、最期の瞬間までその人らしく生きることを支え、尊厳 ある死を看取るエンド・オブ・ライフケアの実現を支えることになる。最後の一人に至るまで、ハン セン病回復者を価値ある存在として尊重し生を支えることができるのは、大島青松園の職員であり、日常生活の支援の責任は看護師にある。専門職としての質の高い看護実践能力を発揮できるか否か が、ハンセン病回復者のQuality of lifeに直接的に影響を及ぼす。本プロジェクトは、ハンセン病 回復者のライフレビューの出版により生きた証を残すことを支援するハンセン病回復者への直接的 貢献と、質の高いエンド・オブ・ライフケアの実現に向けた貢献の2つを目指している。
2.ハンセン病回復者のライフレビューブックの出版 
 本プロジェクトの成果として、『近藤真紀子(監修),大島青松園(編):大島青松園で生きたハンセン病回復者の人生の語り.風間書房,2015』を出版した。17 名のハンセン病回復者の語りは、極限状態を生きてきた者にしか語れない人生の深みと重みに満ちたものであった。
 かつて、大島青松園に入所した患者は、亡くなった後に解剖され、解剖台の上で、湯灌と称してデ ッキブラシで身体を洗い、荼毘にふされたと言う。もちろん、解剖は医師の手によるが、その後の弔 いに至る全ての過程は患者の手で執り行われた。その後、誰かの手によって解剖台は瀬戸内海に打ち 捨てられたが、月日を経て大島の浜に打ち上げられた。本書の副題には、高木佳子歌人の「深くふか く目を瞑るなり、本当に吾らが見るべきものを見るため」を選んだ。スティグマを有する病に苦しむ 人々を社会全体がどのようにケアすべきか。医療倫理はどうあるべきか。17 名のハンセン病回復者 の語りに耳を傾け、過酷な人生を通して得た「英知」と「負の歴史」を学ぶ教訓の書として、次世代を担 う子どもたちや若者に広く読んでいただきたいと願っている。
3.看護師の変化
 本プロジェクトの取り組みにより、看護師は、‘聴くこと’‘一人一人の生きてきた歴史’を知る ことと大切さに改めて気づいたようで、確実に変化した。例えば、これまで、病状が悪くなると居住 区である不自由者棟を離れ、病棟に入院するのが慣わしであった。一般社会で言えば、在宅ではなく、医療設備の整った病院で看取ることに該当する。しかし、看護師から、住みなれた不自由者棟の自室 で看取ってあげたいとの声があがり、不自由者棟で看取るための様々な準備(医療設備の準備、看護 師・介護員の意思統一、他の入所者の理解を得るなど)を進め、実際に2名の方を自室で看取った。
 平成27年4月現在、入所者数69名・平均年齢82.4歳であり、過去10年間に約90名が、昨年(平 成 26 年度)1 年間だけでも11名が亡くなり、最も多かった時期(740 名,昭和 18 年)の10分の1以下にまで減少した。本プロジェクトの計画当初に予測していた事柄が現実のものとなり、入所者数の減少に伴う園内の維持管理体制の再構築を図らなければならない時期となった。このような中で、 看護師が確実に変化したことが、回復者の方々の支えとなっている。

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