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助成対象詳細(Details)

   

2013 研究助成 Research Grant Program  /  共同研究助成A2  
助成番号
(Grant Number)
D13-R-0055
題目
(Project Title)
インド北部ラダークの村落における「物産誌」の製作 ―山地村落からの顔の見える地域像の発信
"Product-based Ethnography" of a Ladakhi Village in Northern India: Challenges of Alternative Approaches to Research Aimed at Contributing to Local Societies
代表者名
(Representative)
月原 敏博
Toshihiro Tsukihara
代表者所属
(Organization)
福井大学教育地域科学部
Faculty of Education and Regional Studies, University of Fukui
助成金額
(Grant Amount)
 3,500,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

 山地の過疎化は深刻な課題である。インド北部の山岳地帯ラダークではその対策として、山岳トレッキングによる観光客誘致、アンズを特産品とした商品開発をおこなってきた。これらの試みは地域の特徴を象徴化して外部者に解り易く説明した反面、その恩恵は象徴化された事物を有する一部に集中し、更なる地域内格差を生み出した。また、解り易く象徴化された地域像は差別化が難しく、没個性化した側面も否めない。
 山地では、苛酷な環境での生存基盤安定のために多様な物産が生産されてきた。各々の集落や世帯には役割があり、それらの複合によって地域が形成されてきた。象徴化された物産はその一部に過ぎない。そういった多様性と複合システムを地域の魅力として発信できれば、単なる商品やトレッキングではなく、当該村落への関心を喚起して人びとを誘致できる。
 本課題では、1つの村落で「物産誌」を製作し、その背景にある山地の生態環境や伝統知識、社会システムも示す。これらを地域の魅力として発信することで新たな地域振興を試みる。本申請課題は、一次資料を抽象化して学術論文にする従来の研究表現に対して、個別性を有しながら地域像を伝える試みであり、地域貢献を目的とした新たな研究表現の構築を兼ねる。


 Depopulation and industrial decline of rural communities are critical issues in mountainous regions. Thus, in many mountain societies, including Ladakh, a steep mountainous region in northern India, people have made efforts to attract tourists by promoting mountain trekking and developing specialty products, using local crops and animals. By showing recognizable images of the region to outsiders, these approaches have been somewhat successful; however, their benefits seem to have accrued only to a limited number of people in areas surrounding popular sites, and to those selling popular local products. Moreover, as symbolic images of mountains are common to all mountainous regions, they can hardly serve to meaningfully differentiate one region from another.
 People living in harsh mountain conditions have traditionally utilized diversified crops, animals, and forest products for earning a stable livelihood. It is a complex system where each settlement and household takes up varied roles to emerge as traditional communities. In such a complex system, products that symbolize development play a very small part. We have considered only those systems that have a relation between the environment and people living in the mountains, as these systems per se should be the resources for attracting outsiders.
 Based on a detailed survey undertaken in a Ladakhi village, this project aims to publish an article on "product-based ethnography." In this article, we will not only present special products of local origin, but also explain the ecological background and social system that sustain the production of such specialties. The "product-based ethnography" article is an integrated academic paper and guide book meant for members of the general public interested in knowing about the livelihoods of people living in mountainous regions, and to encourage them to visit those places.
 Researchers working in a certain village usually want to present their papers to academic societies, and do not always link their work with the development of a village. We have however tried to proactively suggest an alternative approach to research that can contribute to local societies.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

山地村落の衰退と過疎化は、先進国か開発途上国かを問わず深刻な課題となっている。私たちが研究してきたインド北部の山岳地域のラダークも、その課題に悩まされる地域の一つである。 ラダークでは、山岳トレッキングやチベット仏教寺院を目玉に観光客誘致が行われ、特産品であるカシミヤなどの商品開発もなされてきた。これらの試みにより、地域の歴史や風土の特徴を象徴化して解り易く示し、外部者を惹きつけることにも一定程度は成功してきたといえる。しかし、その恩恵は、象徴化された事物に恵まれ観光客が滞在もし易い都市部と特定の寺院など高価値の観光対象をもつ一部の村落に限られ、全ての村落には及んでいない。そのため、観光客が集まる都市へ向けて村落から若者たちが職を求めて流出する現象が進行し、村落での過疎化に拍車が掛 かかっている。現在のラダークでは、拡大・成長する都市と過疎化に悩む大多数の村落という二極化が進行しており、これを押しとどめるために山地村落そのものを活性化する手立てが求められている。
 山地では、不安的な気候や急峻な地形のため平地と比べて農業の生産力は劣る。しかし、山地では、高度差によって生じる多様な環境を上手く利用して、高い高度帯でヤクやヒツジを飼い、低い高度帯ではオオムギやコムギを栽培するなどしてきた。人類学者や地理学者は、こうした山 地社会の環境利用の特徴や面白さを学術コミュニティには発信してきたが、その知見を踏まえた地域理解が、社会一般に伝わっているとは言えない。
 山地社会が培ってきた農業の手法やそこで生産される農作物や畜産物、それらを利用した在来の料理や織物などは、山地という地域特性を利用した巧妙な環境利用の具体的現れであり、自然環境と人間との関係性が問われている今日では、その調和のとれたあり方を示す貴重なサンプルでもある。こういう山地の環境利用の現状を村落の魅力として広く示すことができれば、村落と外部社会との交流を促すきっかけとなり、村落地域の活性化にも繋がると我々は考えた。研究者は地域の実情を示す一次資料を多く有しているが、議論に応じてそれを限定してそこから得られる一般化した地域像を発信して議論に供してきた。しかし、その過程で埋もれていく一次資料は 無数にあり、逆にそれを利用して地域に貢献することができれば、社会に向けての新たな情報発 信ともなる。
 そこで本プロジェクトでは、ラダークの平凡な村落の一つといってよいドムカルを取り上げ、そこの『物産』に焦点を当てた村落のガイドブックを製作・出版した。村落で生産される各種の物産を順に解説することにより、地域に対する興味関心を促した。具体的には、人びとが生産するチーズやバターといった乳製品、オオムギの発酵酒、伝統的な料理などに関して、その種類やその加工方法を説明した。さらに、これらの物産が生産される農業形態にも言及し、その農事暦や農作業の内容、作業分担の社会システム、環境条件と作物との組み合わせ、民族生物学的な地 域品種、農耕と家畜が融合した農業形態を具体的な世帯事例に基づいて人と環境との関係史を示した。物産誌の製作に向けては、以下の3段階のプロセスを取った。
① 「物産誌」作成に向けた基礎データの収集私たちが焦点を当てた村落について、そこで生産される物産とそれらを育む自然や文化含めて 記述するが、記述に必要な資料(農産物、それを利用した料理の種類、生態環境、現在の生活や 歴史を示す資料など)を収集した。
② ワークショップ(WS)での住民などとの意見交換に基づく村落像の構築
  ①のデータに基づいて山地の伝統と現在の生活を記した「物産誌」の製作を目指すが、そこでできるだけ住民の意見を反映させるため、住民らとの WSを開催し、双方が考える地域 像や将来の展望などに関する考えを融合させた。
  ② 物産誌出版とPDF配布、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)等での交流窓口開設 
  現地においてこの物産市の販売を目指すとともに、インターネットではPDFを配布し、フェースブック等の交流窓口を整備した。物産市の出版は単なる情報発信で終わらせることなく、周辺村落と外部社会とが繋がる仕組みを構築し、地域からの継続的な情報発信をおこなう仕組みにする。

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