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助成対象詳細(Details)

   

2013 研究助成 Research Grant Program  /  個人研究助成B  
助成番号
(Grant Number)
D13-R-0142
題目
(Project Title)
「野の医者」の医療人類学 ―沖縄本島における混淆する治療文化と心理療法
Medical Anthropology of "Savage Healers": The Hybridized Healing Cultures in Okinawa Island and Psychotherapy
代表者名
(Representative)
東畑 開人
Kaito Towhata
代表者所属
(Organization)
なかまクリニック
Nakama Clinic
助成金額
(Grant Amount)
 950,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

沖縄本島には近代医学とシャーマニズムを両翼とする多元的医療体系が存在するが、その狭間に除霊を行う精神科医、自己啓発心理学の手法を用いる鍼灸師、内観療法を行うユタなど、複数の治療文化を混淆しながら、人々の健康希求に応えようとする「野の医者」たちが活動している。本研究は従来焦点を当てられてこなかった、この境界領域の治療者たちの生態―彼らのライフヒストリー、治療における理論と技法の実際、マッチする患者の質などを、フィールドワークによって包括的に明らかにする。その上で、調査結果を質的·量的研究の両面から分析し、そこで行われている治療文化の異種混淆のありようを解明する。このような研究は、現代の錯綜した治療文化状況を明るみにだし、既存の治療文化を再照射して理解することを可能にする。特に本研究は「野の医者」が心理療法の理論と技法を多く借用し、混淆していることに着目する。心理療法がいかように混淆されているかを明らかにし、沖縄本島での筆者の心理療法実践の事例と照合して分析することで、心理療法という営みを文化の文脈から再照射する。以上を通じ、現代社会におけるオルタナティブな「ケア」のありようを模索する。

 Okinawa Island has pluralistic health care systems that range between modern medicine and traditional shamanism. "Savage healers" who mix the plural healing cultures play an active role in Okinawan health care system. For example, there are psychiatrist who dispels an unclean spirit, acupuncturist who uses self-enlightenment psychology, and Okinawan indigenous shaman "Yuta" who practices Naikan therapy.
 The present research investigates first the real activities of those healers, by paying special attention to their life histories, their therapeutic theory and technique in practice, personality of their clients, through a comprehensive field work. Second, both qualitative and quantitative interpretation will be made of the collected data, in order to elucidate the hybridization of such healing cultures.
 The proposed study is expected to shed light on the complication of modern healing cultures and reexamine the existing healing cultures. Especially, my attention is paid to the fact that Savage healers use and hybridize the theories and techniques of many schools of psychotherapy. To reexamine the psychotherapy in the context of culture, the complication is studied and the investigator's own experience of psychotherapy in Okinawa Island is analyzed. Consequently, an alternative way of "care" will be sought for. 

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

問題
 本研究では、沖縄における近代科学の枠外で活動する様々な治療者を「野の医者」と呼んで研究を行いました。彼らは前世や守護天使、祖先霊、オーラなど、科学的世界観には収まりきらない存在や次元を語る人たちです。そのような彼らにインタビューを行い、実際に研究者自身が治療を受けて回ることで、「病むとは何か」「癒されるとはどういうことか」「治療者になるとはどういうことか」、という医療人類学の根幹的な問題に取り組みました。
 このとき、その背景には「心理療法とは何か」「臨床心理学とは何か」という大きな問いがありました。私は臨床心理士ですから、自分がしていることが一体何であるのかを、野の医者たちの治療を見て回ることで相対化しようと試みたということです。
 というのも、心理療法というのは不思議なものです。確かに様々なもっともらしい理論もあるのですが、実際の臨床ではそれらが換骨奪胎されたり、多くの部分をクライエントに譲渡したりしながら、実践が行われていきます。治療者とクライエントが同じ文化を共有していないことがしばしばあるからです。本研究では、野の医者という臨床心理学とは異なる治療文化を生きる人たちと比較を行うことで、心理療法について再考を迫ろうとしたということです。それは心の治療というものを、「科学的」というよりも「文化的」現象として捉えようとする姿勢を意味しています。

方法
 方法はフィールドワークです。ほぼ知識やコネクションがゼロに近い状態から研究者である私は出発し、野の医者たちにアポを取り、その治療を受け、コミュニティにお邪魔して、そして彼らのライフヒストリーを聴取すると言うことを繰り返しました。
 このとき、目的が心理療法との比較であったので、私はそこで感じる違和感を率直に野の医者たちにぶつけていきました。彼らの語ったことや成したことだけではなく、私の主観的反応も重要なデータとして採用したということです。
 その結果最終的には100人以上の野の医者に調査をすることが出来ました。彼らにはヒエラルキーがあったわけですが、その頂点にいる人から末端にいる人まで幅広くインタビューを行うことで、野の医者の生態系を描き出すことに成功したと言えます。
 このとき、私の理論的枠組として重要だったのは、「相対化」ということで価値から自由に彼らの営みを見てみるということでしたから、私は至る所で大笑いすることになりました。そして、前世の話や、天使の話、アトランティス大陸の話をしながら、野の医者自身も笑っていました。
 「笑う」ということが、私と野の医者を繋ぐ方法として現れたということです。そして、この笑いは心理療法に向けられることで、心理療法を相対化するという作業を可能にしました。
 ですから、研究成果は「野の医者は笑う―心の治療とは何か」(誠信書房)という本になりました。笑える文体で本を書くことで、この研究の方法を伝えようとしたということです。

結果
 野の医者を見ることで分かったのは、彼らが「傷ついた治療者」だということです。それは癒すことで癒される人たちであるということであり、近代医学以前には極めて一般的であった治療者のありようです。
 ここから、「心の治療」とはある種の生き方へと人をコミットさせていく営みであることが明らかになりました。キリストに癒された人はキリスト教になるように、イワシの頭に癒された人はイワシの頭を崇める生き方をするように、治療とはある種の生き方を推奨し、そこに巻き込んでいく行為に他ならないことが明らかにされました。
 そして、その生き方とは人が生きる文化や社会に規定されるものです。現在の野の医者たちは経済を重視する姿勢を見せますが、それは現代のグローバル化する資本主義の鬼子として彼らが存在していることを示していると言えます。
 このような知見について、現在臨床心理学や精神医学などで、意見を提出し、議論を進めているのが現状です。そのようにして臨床心理学を相対化する作業がこれからの課題となります。

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