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助成対象詳細(Details)

   

2013 研究助成 Research Grant Program  /  個人研究助成B  
助成番号
(Grant Number)
D13-R-0196
題目
(Project Title)
なぜ消毒をしないのか ―都市衛生技術に対する後発開発途上国の視点
Why They Do Not Utilize Disinfection Technology: A Perspective from a Least Developed Country-Myanmar
代表者名
(Representative)
酒井 宏治
Hiroshi Sakai
代表者所属
(Organization)
東京大学大学院工学系研究科
Graduate School of Engineering, The University of Tokyo
助成金額
(Grant Amount)
 1,500,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

 消毒技術は近代上下水道の発展と都市衛生の管理において重要な役割を果たしてきた。一方で、開発途上国では、上下水道インフラの整備が進んでいないだけでなく、仮に進んでいたとしても、技術がうまく用いられていない事例が非常に多い。それらの理由としては、技術の不十分な伝承、制度的な問題などが考えられる。一方で、より根本的には、新しい技術に対する不安や認知の異なりなどがあるのではないかと考えられる。
 本研究では、先進国の技術が、途上国で受け入れられるだけの素地を持っておらず、技術的、社会的に見て「欠陥」があるのではないかという立場に立つ。具体的な研究対象として、上下水道インフラの中で「消毒技術」に焦点を当てる。先進国の持つ技術の受容性に対して、開発途上国の技術者を対象に、アンケート及びインタビュー調査を行い、都市衛生技術に対する開発途上国の視点を明らかにする。その上で、対象とする途上国の社会的背景を考慮した上で、対象とする場において最適な技術的な提案を行う。



 Water treatment systems and waste water treatment systems are necessary infrastructures in urban areas. In those systems, disinfection technology has been playing a key role for management of public health. However, water infrastructures are not well equipped in developing countries. Moreover, even if they are constructed, disinfection technologies are always unemployed or misused. We could assume those reasons as inadequate transfer of technology, inappropriate system of management. This study stands on a different perspective from previous researches; there are not willing to utilize those technologies because there may be a difference in recognition or fundamental anxiety to new technology. 
 This study hypothesizes that technologies in developed countries have many lacks to be accepted in developing countries. Moreover, this study hypothesizes those technologies are deficient for them both technically and socially. This study has a specific focus on disinfection technology in water and waste water treatment systems. Questionnaire and interview survey will be performed against engineers in developing countries. A perspective from the country will be revealed from the survey. This research further aims to propose technological measures in consideration of social background of the country.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

本研究では、消毒技術の開発途上国における普及を課題として取り上げた。途上国の水システムを見ると、先進国並みの設備・技術が導入されながら、必ずしも適切に運用されていない事例が見られる。従来の国際協力論では、現地の人への使用方法の教育の不徹底、使用する薬品のコストの問題、援助の枠組みの不十分さなど、物理的・人的な「不足」の視点から研究がなされてきた。だが、実際に技術を使う側の視点では、それだけが必ずしも原因ではないと考えた。
 途上国で用いられている消毒技術は、「煮沸する」などの伝統的な食文化に則った技術が用いられている。煮沸では、薬品を添加しないため、消毒副生成物は生成しない一方で、彼らにとって新規の消毒技術である塩素処理は、発がん性のある消毒副生成物を生成し、新たなリスクを生み出す。もしこれが真に消毒をしない理由であるとするならば、従来の国際協力論では見過ごされてきた視点であり、また技術者の視点を加えて解決しなければならない課題といえる。
 本研究では、このような視点に立ち、途上国における水供給及び水処理について、なぜその技術を利用しているのか/いないのか、なぜ、先進国から輸出した技術が使われているのか/いないのかについて、水質調査を含めたアンケート及びインタビュー調査で明らかにした。
 村におけるインタビュー調査では、調査対象地区の家庭を訪問し、村民に対してインタビューを行った。各家庭を訪問し、そこで用いられている飲料水製造の技術についてヒアリングを行った。この際には、同時に水質も測定し、各家庭における処理での水質の変化についても測定した。その際に、各家庭での処理工程における水質の変化と、水源となるため池の水質についての調査を行った。測定項目としては、細菌数(大腸菌・従属栄養細菌)、有機物、各種イオンなどを測定した。また、訪問した村のうち、塩素消毒の利用実績があった村において、約100世帯を対象に、アンケート調査を行った。インタビュー調査で把握した水利用の実態と、村民にとって望まれている技術について、アンケート調査を行うことで数量的に把握した。その結果、凝集沈殿などの処理では水質が向上するが、ろ過処理以降でかえって水質が悪化することを明らかにした。
 村落では、それぞれの村が飲料水用のため池を持ち、その水を各家庭で処理する形で飲用に供していた。今回の調査において訪れた6箇所の村落における飲料用ため池の水質は、深刻なものではないと考えられた。微生物指標では、2箇所について1mLの水中に大腸菌が検出された。また、当該サンプルでは、大腸菌群数や従属栄養細菌数も多かった。
 対象の村落においては、村民は飲料用のため池の水を、各家庭で処理し、飲用していた。これらの処理をどのように利用しているかというアンケートを行ったところ、処理内容によって、過程における採用率が異なっていた。また、使う理由について、どの技術においても多くの家庭において「水質がよい」と回答していた。この回答から分かることとして、対象とした村落の人々は、現状の水処理技術に対してある程度満足しており、少なくとも、下痢症の件数の少なさから分かるとおり、日常生活に支障をもたらすような水質の悪化を経験していないことが分かった。
 同じくアンケート調査の中で、仮想的な「新しい水処理技術」について、使用意志について質問した。その結果、ミャンマー自国で開発した技術については多くの家庭が利用する意志を示したが、日本の技術を利用したいと答えた家庭は、ほぼ半数にとどまった。「利用したい」という回答のうち、日本の技術を利用したい理由のほとんどは「水質がよい」からであった。これらの回答から、対象とした村落の人々は、現状の水処理技術及び衛生状態に、それほど不自由しておらず、それ以上を目指す日本の技術に対しては、積極的な需要が無いことが示唆された。これは、国際援助において非常に重要な点であると考える。対象地域において、技術が必要とされていなければ、当然のことながら普及は見込めない。この根本的なミスマッチが起こりえてしまうことが、国際援助における一部の失敗事例の大きな課題であると考えられる。一方で、日本の技術は、今後、気候変動や都市化などの外的要因による更なる水質の悪化が起こった場合にそれらの問題を有効に解決できると考えられる。また、そのような外的要因による水質の悪化は、村民のリスク認知に含まれていないと考えられる。この点を共同して解決する方向に導いていくことが、今後の技術援助の助けとなると考えられる。
 研究の最後に、調査を行ったうちの1つの村において、村民に対する報告会を行った。水質及びアンケート調査で得られた結果として、処理過程中での水質悪化の問題、煮沸などの消毒処理の重要性について指摘し、消毒処理の励行を促した。

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