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助成対象詳細(Details)

   

2013 研究助成 Research Grant Program  /  個人研究助成B  
助成番号
(Grant Number)
D13-R-0200
題目
(Project Title)
中国甘粛省石窟群におけるコミュニティ参加型遺産保護手法の確立 ―シルクロード東端の地域アイデンティティー向上を目指して
Establishing a Community-participating Method of Heritage Preservation at the Gansu Site of Stone Caves, China: In Search for the Local Identity as "The East End of the Silk Road"
代表者名
(Representative)
李   梅
Mei Li
代表者所属
(Organization)
筑波大学大学院人間総合科学研究科
Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba
助成金額
(Grant Amount)
 1,500,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

 甘粛省は中国の西北に位置し、国内で非常に低位に位置する貧困地域である。近年、政府主導の開発プロジェクトによって地域開発が少しずつ進められてきたが、社会資源開発に重要な観光資源においても自然環境が注目され、文化資源は見落とされがちである。この地域はかつてシルクロードの沿線にあり、仏教や関連寺院などで栄えてきたため、数多くの仏教遺跡が残され、とりわけ石窟は中国有数の密集地域である。
 しかし、西北部の敦煌石窟群を除き、文化遺産的な修復理念に基づく石窟の保存・保護はなされておらず、劣化が進行している。国際的な文化遺産保護においてはオーセンティシティ(真正性)を重視した修復が不可欠である。したがって、美術史的観点から保存修復の在り方も含めた研究が必要とされている。
 また近年の国際社会は、遺産保護におけるコミュニティ参加の重要性が高まり、ユネスコや世界遺産条約においても社会の向上に資する遺産保護が求められている。
 以上を踏まえ、本研究は、地域社会/住民という観点が希薄な中国において、コミュニティ参加型の保存修復手法の立案を目指し、遺産保護及び地域社会の向上という視点から社会的貢献を図る。


 Gansu province, located in the northwest of China, is known as one of the poorest regions in the country. Recently, the region has been undergoing development initiated by the central government, but in terms with the development in the tourist resources, which is an important aspect of the social resources, its focus is more on natural environment, and the cultural resources tend to be forgotten. Historically speaking, this area used to be on the Silk Road, flourished with many Buddhist facilities such as temples, and it still preserves a lot of remains. Among them, grottoes are quite important since they are one of the richest in number and density all over China.
 However, preservation and protection based on the idea of restoring cultural heritage are poor except for Dunhuang Grottoes in the northwest of the region, and more and more remains are deteriorating. From the international standpoint of cultural heritage preservation, it is important to maintain the authenticity of the remains, which requires the study of restoration and preservation in cooperation with the art history field. 
 In addition, the importance of community participation in the course of heritage preservation has been increasing in the global society, which we can see from the fact that UNESCO or World Heritage Treaty now requires heritage preservation that will be beneficial to the local society.
 Considering the above, this study aims to establish the community-participating method of restoration and preservation suitable to China where the idea of local community or the identity of the residents are still poor, and tries to contribute to the society by the way of heritage preservation as well as the improvement of local identity.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

甘粛省は中国の西北に位置し、国内では一人当たりのGDPがワーストスリーに入る貧困地域である。近年、政府主導の「西部大開発」プロジェクトや「一帯一路」といった経済圏構想によって地域開発が少しずつ進められているが、付加価値が求められる文化資源は整備や宣伝の遅れにより見落とされがちである。この地域はかつてシルクロードの沿線にあり、仏教や関連寺院などで栄えてきたため、数多くの仏教遺跡が残され、とりわけ石窟は中国有数の密集地域である。
 石窟といえば西北部の敦煌石窟群を除き、この地域では文化遺産的な修復理念に基づく石窟の保存・保護はいまだに手薄な状態が続き、劣化が進行している。そのため、オーセンティシティを重視し美術史的観点から保存修復の在り方も含めた研究が必要とされている。また近年の国際社会は、遺産保護におけるコミュニティ参加の重要性が高まり、ユネスコや世界遺産条約においても社会の向上に資する遺産保護が求められている。
 以上を踏まえ本研究は、地域社会/住民という観点が希薄な中国において、コミュニティ参加型の保存修復手法の立案を目指し、遺産保護及び地域社会の向上という視点から社会的貢献を図る。
 プロジェクトは2013年11月から実施を開始した。甘粛省東南地区に点在する数多くの石窟より、遺産区域及び緩衝地帯に実際2000人余りの住民が居住している天水麦積山石窟及びその周辺を研究の対象地域とし、住民の遺産保護参加を促すためのプロジェクトを進めた。
 プロジェクトの対象である麦積山石窟は、中華人民共和国が建立されるまで、麓にある寺院に居住する僧侶が自発的に管理を行っていた。1949年、石窟の管理は政府に受け継がれ正式に政府が管理するようになったが、文化遺産における所有問題という点では必ずしも説明が十分ではなかったと推察される。近年になって、研究機関や専門家による調査や学術的研究のほか、自然資源の開発も進んだ。その中観光ブームの到来に伴い利益の扱いをめぐって行政と住民の間で思惑の相違が生じ、両者の間協議のドアが閉ざされたまま推移してきた。その結果、行政と住民は長い間、話し合いなどしたことがなく、とりわけ石窟に入ってはならない「入山禁止令」は住民の根強い不信をもたらし両者の間に深い溝を作ってしまい、行政と住民の深刻な対立関係が続いている。
 麦積山石窟は近年観光客が殺到しピーク時に一日2万人が訪れるようになったため、行政が単独で対応することは限界が見えはじめ、住民との連携が差し迫った課題となってきた。
 以上を踏まえて本プロジェクトはA「行政と住民の間の信頼関係の構築」に重点をおき、B「9 一緒にやる: が生む共通解」(「地を這う哲学者 桑子敏雄」)を、合意プロセスの形成の指針とした。
Aに関しては、行政側と地元住民をつなげることが重要である。行政からはその許可と支援を得、研究所職員で職員チームを作り、地元住民については最も活発で地元の尊敬を集めている者で住民チームを作った。両チームを活動の中心的メンバーにして連絡、意思疎通、意思伝達を図ると同時に、責任の所在を明確にした。Bに関しては、行政と住民の協力のもと、学習会、意見交換会、地元小学校で開く講義やワークショップ(図1)、行政が主催する公開講座など(図2)、数回にわたって企画し実行した。プロジェクトの進行途中と最終段階では観光客を含めた大型イベント(図3)を実現し、地元住民のみならず、関係するすべての者におけるアイデンティティーの向上を促した。
 このように住民は、窟見学や学習会などに参加することによって、自分も遺産保護の一人であるという誇りが高まり、確かな知識を習得することによって自信が増し、自ら行政に近付こうとし、意識の変化が見られた(図4)。同時に行政は、住民と共に同じ「解」を求めるプロセスにおいて、住民参加の重要性に気づきそれを受け入れるようになった。その一つは住民向けの公開講座の継続で、行政は今後も実施する見通しである。もう一つは今後文化遺産保護に当たって、住民関与の仕方について、一部の住民を正規勤務に編成するのを第一歩として、行政は具体的な検討を始めた。
 行政と住民が「共通解」を求める過程では、行政主導という点をポジティブにとらえ、これを前提として、ワークショップや勉強会、イベントなどを企画・実行し、住民がいかに行政と軌道を一致できるかに力点をおいた。それによって、団結力と求心力が高まり期待された効果が得られ住民参加が一定のレベルまで高められた。しかし、本プロジェクトのメイン項目として取り上げた住民参加型の保存修復のためのコミュニティの形成について、住民が保存修復に参加するまではまだ道のりが長い。今後、行政と住民の信頼関係の深化、文化遺産に関する基礎知識、理念、理解などを含めた住民への教育・学習は継続すべき重要な課題である。甘粛省南部、東部の他の石窟寺院については、調査・研究を続け住民参加の理念をさまざまな方法を通じて広めていきたいと考えている。

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