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助成対象詳細(Details)

   

2013 研究助成 Research Grant Program  /  個人研究助成B  
助成番号
(Grant Number)
D13-R-0212
題目
(Project Title)
未熟であることの効用 ―モンゴル、ウランバートルにおける都市開発戦略による市民参加の制度化と自助グループの非専門的活動
Utilizing Activities of Non-experts for Urban Development: Civil Participation and Self-Help Groups in Ulaanbaatar, Mongolia
代表者名
(Representative)
滝口  良
Ryo Takiguchi
代表者所属
(Organization)
北海道大学大学院文学研究科
Graduate School of Letters, Hokkaido University
助成金額
(Grant Amount)
 1,500,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

本研究は、市場経済化後のモンゴル・ウランバートル市の周縁部地区における住民の自助グループの地域改善活動を主題とし、近年の大規模な都市再開発の過程で自助グループの非専門的な活動が果たす役割を明らかにすることを目的とする。本研究の対象となるウランバートル市の周縁部の居住区は、「ゲル地区」と呼ばれる遊牧民の伝統的な移動式家屋「ゲル」で暮らす人々の地区である。社会主義体制崩壊後、ゲル地区では低所得層・年金生活者・身体障害者・元アルコール依存症患者などからなる自助グループが、街路清掃、家庭菜園、手工業生産、健康体操などの地域改善・自立支援に関わる活動を行ってきた。近年のウランバートルの急速な経済発展によりゲル地区が政府主導の新たな都市開発戦略の対象となると、ゲル地区の自助グループの活動は知識・技術・商品の面で専門化の傾向を強め、他方で従来の非専門的な活動は「未熟」なものとしてみなされるようになっている。本研究では、自助グループの活動の専門化の方向とは異なる、従来の自助グループを特徴づける専門性の欠如、技術不足、市場へのアクセス不足が新たな都市開発戦略のなかで発揮できる社会的価値を検討する。

 The purpose of the project is to clarify the potential roles and activities of non-experts as they relate to urban development in Ulaanbaatar, the capital of Mongolia. The collapse of the socialist regime in Mongolia resulted in a serious shortage of social services for local residents. This problem appeared more acutely in the Ger area on the periphery of Ulaanbaatar, where people have lived in traditional nomadic tents (Gers). Residents of Ger area have been organizing self-help groups for community development and local infrastructure improvement since 1990. Most members of these groups, including women, low-income residents, pensioners, disabled persons, and ex-alcoholics, were marginalized after the collapse of the socialist regime. Although most members are not authorities with expert knowledge, they have acquired new skills and knowledge through participation in the groups, which allow them to improve social services and support livelihoods of local residents. Excellent economic growth in Mongolia has supported the launch of a new urban development strategy. Although this strategy acknowledges the importance of civil participation in urban development, members of self-help groups in the Ger area are regarded typically as unskilled; thus, their activities are underestimated as not meeting urban planning standards. However, we consider such non-experts important actors in urban development because they possess a great store of local knowledge, which never appears to be taken into account during urban planning. To obtain a broader view of the role of non-expert groups, we examined the following: (1) non-expert knowledge and skills acquired by local residents and members of self-help groups, and (2) the influence of activities of non-experts, including contributions to the local community.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

本研究は、モンコ・ル・ウランハ・ートル市の周辺居住区(ゲル地区)における住民の市民ク・ルーフ・のボランタリーな活動の調査により、近年のウランハ・ートルの大規模な都市再開発による「市民参加」の制度化過程と、市民ク・ルーフ・の非専門的な活動の社会的意義を明らかにする。
 モンゴルの首都ウランバートル市は、その居住形態から中心部のアパート地帯と市街地周辺部の「ゲル地区」の大きく二つに分類される。「ゲル」地区はかつて社会主義体制下において住民の多くが遊牧民の伝統的な移動式家屋「ゲル」に暮らしたことからそう呼ばれている。社会主義体制崩壊後、地方からの人口流入と都市整備・行政サーヒ・スの遅滞により、ゲル地区の生活環境は大きく悪化する。この変化のなかて・、ケ・ル地区て・は2000年代より低所得層・年金生活者・身体障害者・元アルコール依存症患者らの自助ク・ルーフ・による生活改善への取り組みか・次第に盛んになっていった。
 他方、ゲル地区の都市問題化に対し、ウランハ・ートル市では2000年代後半より市民参加と官民連携を基本方針とする都市開発戦略か・開始される。新たな都市開発戦略は、従来の国家主導のトップダウン型の開発計画とは大きく異なり、住民参加を中心とするボトムアップ型の開発計画が基調となっている。しかし、ケ・ル地区においては住民組織か・未発達なため、近年は都市開発戦略に適う形て・住民を組織することか・この開発計画の最優先課題となっている。
 新たな都市開発戦略のなかで、市民グループはケ・ル地区の住民間の関係を調整するファシリテーターとしての働きを期待されている。た・か・その一方て・、都市開発戦略か・準備する新たな基準や価値観によって、市民グルーフ・の非専門的な活動や技術は素人仕事の「未熟」なものとされ、開発戦略のなかて・従属的な位置を占めるようになっている。現行のゲル地区の開発予算はウランハ・ートル市の不動産市場の変動に大きく依存した不安定なものであるため、市民グループの非専門家的活動を「未熟」なものとして都市開発の劣位に制限・排除していけは・、現行の都市開発計画か・頓挫したときに、ケ・ル地区における社会サーヒ・スや社会関係に取り返しのつかない影響を与えることもなりうる。
 以上のような背景のもと、本研究はゲル地区の市民グループの最新動向とその活動の社会的意義を明らかにするたえの現地調査を実施した。現地調査ではウランバートル市北西部のゲル地区「バヤンホショー」(以下、BH地区)にて、家庭菜園、フェルト・革製品の製作、通りの管理などを行う10の市民グループより聞き取り調査を実施した。これにくわえ、関係各機関(市行政、国際機関、都市開発エージェント等)担当者からの聞き取り調査を実施した。
 市民グループの活動のなかで最も熱心に行われていたのは、家庭菜園である。家庭菜園はいまやゲル地区において広く普及しつつあり、なかには厳寒の冬期にも栽培が可能なビニルハウスをもつ家庭さえある。一つの市民グループでは、メンバーの各家庭で菜園が営まれ、グループのリーダーを中心として菜園・造園の知識と技術がメンバーに共有されていた。秋にはきゅうり、レタス、トマト、瓜など、ゲル地区で栽培されたとは思えないほどのバラエティに富む収穫がある。各家庭の収穫の一定割合はメンバー全員で分配され、食べきれない部分を販売してプールされた収益はグループ内で低金利で貸付けがなされていた。こうしたグループ活動が特定の専門家がいないにも関わらず実現していることはゲル地区の市民グループ活動の可能性を強く示すものであると考えられる。
 グループ全体の調査結果からすると、一口に市民グループといっても活動によって大きく二種類のグループに分類できることが明らかになった。まず、家庭菜園やフェルト製作などの各家庭の敷地内で行われ、家庭の収入に結びつく活動を行う市民グループがあり、こちらは外部の支援団体からの資金が一時的に止まっても活動が持続する傾向がある。次に、通りや公園の整備・清掃など各家庭の敷地を越えた公共空間で行われる活動を行う市民グループがあり、こちらは比較的グループ活動の持続性が低く、その原因のひとつはグループの活動の外部援助への依存度が高いことにあるとみられる。これを敷衍すれば、ゲル地区の市民グループの活動は家庭(敷地)と公共空間(街路)でその性質を異にしているといえる。ゲル地区住民の組織化を基本方針とする都市開発戦略は、アパート移住や土地区画整理を伴っているが、上記の市民グループに見られる敷地への高い関心と公共空間への相対的に低い関心をゲル地区の特性として理解しなければ、住民の組織化は困難であろうと考えられる。
 以上の調査研究の成果発表について、現在は、本研究の成果を現地社会に還元するべくゲル地区の開発との市民グループの活動を主題とした図書のモンゴルでの出版を準備中である。

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