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助成対象詳細(Details)

   

2013 研究助成 Research Grant Program  /  個人研究助成B  
助成番号
(Grant Number)
D13-R-0379
題目
(Project Title)
ビルマ・タイ国境におけるカレン難民のアイデンティティ変容に関する研究 ―ドキュメンタリー映画制作を通しての考察
Changing Identity and Lifestyle of Myanmar Refugees in a Refugee Camp near the Thai-Myanmar Border: Observation through Documentary Film Making
代表者名
(Representative)
直井 里予
Riyo Naoi
代表者所属
(Organization)
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
Graduate School of Asian and African Area Studies, Kyoto University
助成金額
(Grant Amount)
 1,500,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

 本研究の目的は、難民キャンプで生活する難民のアイデンティティ変容を明らかにし、難民たちが何を土台にし、何を生きる支えに生きていくのかを明らかにすることである。多数民族ビルマ人主体の中央政権とカレン人など少数民族の間で60年以上も内戦が続いた。その結果1984年からタイに逃れはじめたカレン人やシャン人など少数民族の難民は14万人近くにも及んだ。その内約12万人はカレン人の難民で、国境地帯にある7箇所のキャンプで暮らしている。そんな中、内戦停戦後の国内の民主化の動きにともない、関係機関による難民の帰還の話しあいがはじまった。難民キャンプには、市場経済の波が押し寄せはじめ、宗教や文化、生活習慣などに急激な変化がおき、難民たちの文化的アイデンティティも揺らぎはじめている。
 本研究では、難民キャンプの変容と難民の移動を長期に渡り追いながら、紛争の当事者であるカレンがどのように作られてきたのかを考察し、難民のアイデンティティ変容を明らかする。そして、難民のアイデンティティとは何か自体を見通す視座を得ることを目指す。カレン難民問題を通して、他の難民問題につながる人類史の背景を探り、難民問題に対する政策提言、問題解決に向けたモデル構築を提示する。 


 Various aspects of the life of Myanmar refugees are observed through documentary film making such as their daily life, family problems, children's life, religion, and culture. The identity of the Karen people and its change through camp life are looked into.
 A civil war was fought for more than 60 years between the military regime of the ethnic majority and the minority groups including the Karen. As a result, beginning in 1984 the minorities began to take refuge across the Thai border. They have been living separated in seven camps near the Thai border, their number today amounting to 140,000. 
 As a result of the cease-fire and a move of towards democratization in Myanmar in recent years, discussion is undergoing among the relevant authorities on the return of the refugees to their native areas.
 Meanwhile, long years of refugee life have caused an inevitable influence over the lifestyle of the people. In particular, the flood of market economy caused big changes in customs, religion, and other cultural life. In other words, the identity of the Karen people is changing as they staying in a foreign land.
 This project is aimed at specifically defining the Karen identity and describing its change through refugee life. This will be done by closely capturing their life through video and personal interviews. Attention will also be paid on interactions between political conflicts and ethnic battles, which often complicate refugee problems in many areas of the world. It will be possible to extend the understanding of the Karen case to an understanding of more general refugee cases, in a hope of making policy proposals and building a model for solving generalized refugee problems.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

研究課題を取り上げた理由と経緯
 本研究が対象とするのは、ビルマ出身でタイの難民キャンプに生活するカレン難民である。
ビルマでは、ビルマ民族主体の中央政権と少数民族の間で60年以上も戦争が続いた2015年11月8日の総選挙を経て、民官へと移行するビルマだが、タイ・ビルマ国境には、1984年以降に内戦から避難してきたビルマ少数民族約15万人(約12万人がカレン民族)が、難民キャンプ内で今も生活を送り続ける。これまでの難民に関する先行研究は、タイ・ビルマ国境の難民たちの置かれている状況を政治的・民族対立問題の視点から捉えたものが主で、長期に渡るフィールドワークにもとつき難民の日常生活の実践を捉えようとした研究は乏しい。
 そこで、本研究では、映像という手法をまじえながら難民のアイデンティティの変容にせまった。それは、グローバルに生起する難民状況の理解に寄与するとともに、その背景となっている民族紛争に民族の政治とは別の視点から光をあてることにもなるからである。
 報道メディアやNGOなどが制作する作品では、ステレオタイプ的な紛争描写や難民描写が多く、民族や宗教対立が原因であるかのようなイメージを創り上げてきた。そのイメージが民族・宗教上での差別や不要な援助や、国際的な武力による仲介を正当化し支える要因にもなりかねない。本研究では、民族意識やビルマ軍事政権への憎悪と抵抗の気持ちを超えた普遍的な「今」を生きるカレン人のある少年とその家族の日常を通し難民キャンプの変容を映像を通して描いていくことで、難民問題の根本的な問題提起を試みた。具体的には、個と家族の変容の中にキャンプの変容を、更にキャンプの変容の中に社会の変容を観察しながら、個の変容が何に根付づいているのか、社会(集団)がどのように変化していきカレン人がキャンプや第三国定住地、キャンプ閉鎖後にどんな関係性を築きながら生きていくのか考察した。
研究手法
 タイ・ビルマ国境にあるメラ難民キャンプとビルマ(ヤンゴン)にて撮影を2013年11月に行い約20時間分の映像を収めた。帰国後の2014年1月08月には、大学にて文献考察や情報集収及び、映像分析を行いながら編集作業や翻訳作業をすすめた。その上で、2014年9月010月に、再び同調査地でフィールドワーク(撮影)を行った。
 さらに、D君の第三国定住により(渡米)、2015年4月にアメリカにおいて追加。イギリスの大英国図書館での文献調査とイギリスに渡ったカレン人亡命者の調査を同時に行った。その後、キャンプに残されたで父母2人の生活の様子を調査・撮影し、合計約60時間の映像を追加分析。映像を編集・構成し、ドキュメンタリー映画を完成させた。
映画の構成内容の詳細は以下のプロジェクトの結果の通りである。
研究から得られた新たな知見など、プロジェクトの結果
映画タイトル:『OUR LIFE2~夢の終わり』
映画内容:本作では、難民キャンプで生まれ育った一人の14歳の少年D君とその家族の生きざまと心の軌跡を助成期間以前より8年間に渡り描きながら、難民キャンプの変化と難民たちはどのように関わりながら生き、第三国定住地でどのような社会関係を形成し、自分たちの「生」をどのように受け止めているのか考察した。閉ざされた厳しい環境の中での難民キャンプでは、市場経済の波が押し寄せ、宗教や文化・生活習慣など難民たちの生活基盤が変容しはじめ、民族意識の変化・再構築がはじまっていた。情報やものが増えて行く中で、学校を卒業後、働く場所がないキャンプ内では、無気力状態に陥る10代後半020代の青少年たちが多くみられた。カレン軍も勢力が衰退する中、兵士に志願する若者を減っていく。少数民族とビルマ政府間での和平交渉もはじまる中、いよいよタイ政府の難民キャンプ閉鎖の動きがはじまった。帰還か第三国定住行きか。将来の選択を迫られたD君は2014 年12月に第三国定住地をアメリカに単身渡米。しかし、定住先のアメリカでの生活にはなかなか馴染めず、職場でもコミュニティの中でもカレン人仲間たちと過ごす。その結果、第三国定住先では、カレン人というアイデンティティが難民キャンプにいた頃以上に認識することにより高まっていた。居場所を失ったD君。難民に生まれるということ、それは家族の別離であり、故郷の喪失である。

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