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助成対象詳細(Details)

   

2013 研究助成 Research Grant Program  /  共同研究助成A1  
助成番号
(Grant Number)
D13-R-0401
題目
(Project Title)
カンボジアにおける「弾性型公共圏」の理論化に関する国際共同研究
International Joint Research on the Concept of the "Elastic Public Sphere" in Cambodia
代表者名
(Representative)
牧野 冬生
Fuyuki Makino
代表者所属
(Organization)
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科
Graduate School of Asia-Pacific Studies, Waseda University
助成金額
(Grant Amount)
 5,500,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

  パリ和平協定によるカンボジア内戦終結から21年が経過し、カンボジアは政府や国際機関による人道的支援と経済的な支援を脱し、現在は民間の投資を呼び込む新たな成長の段階へ入った。その過程で、主に国際機関と国際NGOによって為されてきた強制労働と人身取引に関わる支援は大幅に減少し、支援活動の中心はカンボジアの地元組織に移行した。しかし、カンボジアの人身取引被害は経済成長の影で増加傾向にあり、被害を未然に防ぐ職業訓練支援や保護された被害者の自立プロセスの支援は、未だ急務の課題として残されている。本研究は、人身取引被害者の自立プロセスにおいて継続的な支援の基盤となる「被害者のコミュニティへ社会的受容」に関わる新たな社会知の創出を、人類学的な視点から日本とカンボジアの学際的な共同研究によって実施するものである。この社会知の重要な手掛かりが、カンボジア内戦終結から現在まで住民の間で滋養されてきた、仏教的精神性と市民の新たな公共観、いわば「弾性型公共圏」である。正面から向かい合うことでは信頼関係が結晶し得ない他者との関係性を、内戦終結から21年を経てどのように社会全体として享受し社会システムとして内面化していったのかを日常生活の他者性と非日常の宗教実践から分析し、「弾性型公共圏」の理論化を行う。



 Twenty-one years have passed since the 1991 Paris Peace Agreements ended the Cambodian Civil War. The nation is now in a new phase of development, one in which it no longer primarily receives international economic and humanitarian aid but rather private investments. The assistance from international organizations and NGOs in preventing forced labor and human trafficking has drastically decreased, with local organizations taking over these initiatives. Despite the efforts of the latter, the number of trafficking victims is, however, increasing, and such urgent tasks such as job training and self-reliance support for them remained unsolved. Relying on interdisciplinary research with an anthropological perspective, this study presents a new analysis of the social receptivity of the community to the victims of human trafficking. The key to this analysis is the "Elastic Public Sphere," which subsumes Buddhist spirituality and the sense of public morality that has flourished since the end of the war. In this public sphere, alterity can be accepted and relationships of mutual trust can be constructed. Therefore, we analyze alterity in both daily life and religious practices in order to reveal the process by which people have established a receptive social system, and we attempt to theorize the concept of "Elastic Public Sphere."

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

(1)プロジェクトの研究課題をとりあげた理由・経緯
本研究の目的は、「社会的に脆弱な立場にある人たちが所属コミュニティへ適切に包摂される ことを可能とする社会的受容」についての社会知の把握・調査、そして現地プロジェクトへの還 元にあった。本調査では、彼らが元来所属していたコミュニティは、彼らの自立プロセスを助け、 継続的な支援を実施する上で重要な基盤であるという経験則を前提としている。小規模コミュニ ティや農村に残る規範によって、社会的に脆弱な立場にある人たちは、所属コミュニティにおい て住民の明示的又は暗示的な排除を実際に受けている。例えば、特に女性が人身取引に関わる被 害にあった場合、人身取引という負のイメージが付与されることにより所属社会での生活が困難 となる。また社会から孤立した状況は、さらなる不法労働斡旋等の潜在的ターゲットともなる。 今回の課題を端的に言えば、こうした負のイメージを引き継ぐ意識を断ち切るための新たな社会 知を認識することであり、それがクメール・ルージュ時代の同国人同士の虐殺の歴史を乗り越え て経済的発展を遂げている現在のカンボジア社会、とりわけ生活に根付いた仏教儀礼の中に見出 すことが出来るのではないかという仮説にあった。こうした社会知を可視化することによって、 今後社会から排除された人々が、正当かつ適切に所属社会に再度受け入れられることを目指すも のであり、その意味で机上の理論だけでなく、現場の知を把握する力と、社会への還元を含めた 実践的な側面が必要とされるプロジェクトであった。
(2)研究の方法
今回の研究では、上記の問題意識を踏まえた上で以下の4点に焦点を絞り研究を進めた。特に 現場の視点を重視した個別具体的なフィールドワークと、「自己と他者の関係」というメタレベ ルの意識化を絶えず往復しながら実施する必要があった。また共同研究者との方向を保つために 適宜研究会を開催しながら進めてきた。(1)まず他者性に関わる歴史的背景として、カンボジ ア政府と国際機関の社会復興政策について概観し、その後民間団体の開発パートナーやNGOによ る復興政策について調査することで、現在のコミュニティの成立基盤を把握した。(2)次にミ クロなアプローチとして、住民の日常生活にある他者性の把握を試みた。まず、プノンペンを中 心とした都市の成立と生活空間である。プノンペンは貧富の格差が広がっており、富裕層と貧困 層の隣接がよく見られる。こうした都市部に特徴的な現象から日常生活の中に見られる他者性に ついて把握を試みた。次に、地方や農村コミュニティの中に見られる規範により拘束される自己 と他者の関係性について調査した。特に農村の移住労働者との関係から社会的に脆弱な層へのイ ンタビュー調査を実施し、ライフヒストリーを把握できた。(3)宗教と他者性については、内 戦以後の仏教的価値観の回復運動を文献によって確認をしたのちに、日常生活とは離れた公的行 事としての仏教年間儀礼、特にカッタン、プチュンバン、釈迦生誕祭について把握を試みた。ク メール正月儀礼は4月半ばが通常日程であり、大学の日程との重複がありフィールドワークは今 後に残されている。鎮魂の場としての寺院とモニュメントは複数の寺院で調査を実施することが 出来た。(4)空間と他者性については、負の遺産に関する表象として主にクメール・ルージュ時代の被害者の記憶の場とNGOによる負の遺産モミュメントを調査した。子どもの空間 的位相を調査するための写真ワークショップは、プノンペン都市部の再開発移住プロジェクトで 郊外に移住させられた2つのコミュニティと、カンボジアのイスラムコミュニティの計3地域で 実施することが出来た。
(3)研究から得られた新たな知見など、プロジェクトの結果
フィールドワークの成果から、輻輳したコンテクストによって公共の距離間が変化しつつ、共 通の精神的基盤である仏教・生活コミュニティを通して元来の関係に再帰するような弾性的な人 的ネットワークを把握できた。それは、時間、場所、目的により変化する人間関係である。詳細 は個別事例を精査していく必要があるが、基本的にはクメール・ルージュ以後の新たなカンボジ ア王国の復興に際して、政府や国連といった大規模な復興アクターはかつての住民・村落・コミ ュニティ関係を再整備するところまではカバーできず、ミクロな人的ネットワークの再構築は NGOや民間ボランティア団体によって徐々に実施される長いプロセスであった。公共性への不安 (内戦の記憶)を同居させながら国際的(国連、NGO等)援助を享受し、一方で仏教・生活コミ ュニティを内部に抱えるカンボジアの弾性的公共圏を提示できた。

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