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助成対象詳細(Details)

   

2013 研究助成 Research Grant Program  /  共同研究助成A1  
助成番号
(Grant Number)
D13-R-0413
題目
(Project Title)
農の「豊かさ」を未来に継承するために ―在来作物の利用と保全を例として
How Can We Maintain "Richness" of Agriculture? : Focusing on Utilization and Protection of Heirloom Crops
代表者名
(Representative)
富田 涼都
Ryoto Tomita
代表者所属
(Organization)
静岡大学大学院農学研究科
Graduate School of Agriculture, Shizuoka University
助成金額
(Grant Amount)
 4,000,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

 現代では社会の「豊かさ」が問われている。特に人と自然の関係と深く関わる農の「豊かさ」とその過去から未来への継承は単なる食糧供給とは異なる次元を含む問題として考究しなくてはならない。具体的にはダイナミックに変化し得る生態系や社会を前提として「豊かさ」を実現するには「何を」だけでなく「どのように」継承すべきなのかを同時に問うことが課題となる。時間的にも高度成長前に成人した人の多くが80歳を超えた今こそ継承を問う必要がある。
本プロジェクトは、静岡県内の地域独自の「在来作物」と付随する技術や文化が、過去からどのように継承されたかを明らかにし、先行する事例との比較を通じて多様なアクターの望ましい連携やプロセスを検証し、どのように農の「豊かさ」を未来に継承すべきかを提示する。
 以上によって、地域が自律的に農の「豊かさ」を継承する方法論を確立させ、時空間を結ぶ関係性から「価値」を見出すあり方そのものを「新たな社会的価値」として提示する。また、具体的に静岡県内での豊かさを継承するための基礎情報の蓄積としくみづくりや人材育成、「農学」の問い直しを行う。それによって人と自然の関係を含めた、未来の社会の「豊かさ」を地域が自律的に実現するサポートをする。


 These days, we are required to reconsider the significance of "richness" of society. In particular, the maintenance of "richness" of agriculture that is an issue of human-nature relationships is needed to be considered not only within the sphere of the simple idea of food supply. Namely, not only "what" to maintain but also "how" to be maintained is an important issue to be discussed in realizing the 'richness' in the more and more dynamic ecosystem and society. It is the very time to consider this problem, now that most people who have grown up in the pre-high-growth period are in their 80s.
 This research project focuses on the case of local "heirloom crops" of Shizuoka prefecture, Japan, and its cultivation technique and related cultural issues to discuss how heirloom crops have been maintained to date and how to protect them in the future. In addition, referring to other similar cases in Shizuoka and other prefectures, we seek for ideal ways of collaboration among farmers, cooks, food processors, consumers and researchers on local basis.
 This project will make its contribution by exploring the value lying in the diachronic and synchronic human-nature relationships of the local community and presenting it as a new social value. Specifically, it will construct fundamental information basis and frameworks for the maintenance of "richness" in Shizuoka prefecture and will develop human resource. Furthermore, it will support local people's independent development of "richness" in the future society.
 

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

プロジェクトの課題
本プロジェクトの目的は、静岡県内の「在来作物」の利用と保全を具体的な事例としながら、 人間が自然に関わる営みである農の『豊かさ』とその継承を考え、社会の新たな価値の創出を目 指すことである。人と自然の関係と深く関わる農の「豊かさ」とその過去から未来への継承は、 単なる経済性とは異なる次元を含む社会全体の「豊かさ」にかかわる問題である。しかし、生態 系や社会はダイナミックに変化するため、単に過去の「引継ぎ」では達成できない。したがって、現代においては「何を」だけでなく「どのように」継承すべきかを問い、それを含めた社会の新 たな価値を考える必要がある。時間的にも高度経済成長期以前に成人し、農業などの生業を通じ て農の「豊かさ」に関する知恵や文化を身体に刻んでいる人々の多くが80歳を超えており世代 間の継承のあり方を考えるタイムリミットは迫っている。一方で、近年「在来作物」が脚光を浴 びている。「在来作物」は、その生物学的な特性以上に、付随する「たねとり」や「焼畑」など の技術、贈与や交換などの流通、食物や祭礼などの利用を支える文化などが地域の中で自律的に 過去から継承されてきたという点に特徴がある。そのため農の「豊かさ」を未来に継承するうえ で、何をどうやって技術や文化などを未来に遺していくべきなのかというモデルケースとなる。 そこで、本プロジェクトでは、静岡県内をフィールドとした「在来作物」の継承を事例とした。
プロシェクトの方法 
本プロジェクトにおける方法は、在来作物に関する調査活動と、その結果を受けて行われた在 来作物の継承の場づくりや人材育成に関する活動の2つに大別される。後者は調査結果を受けて の実践なので次項で詳述する。調査活動では、在来作物を、先進事例である山形在来作物研究会 による定義を参考に、①ある地域で世代を超えて栽培されている、②栽培者自ら種とりや栄養繁 殖を行っている、③特定の料理や用途に用いられているという三つを満たすものとして定義し、 静岡県内において「在来作物」の実態調査を行った。このような調査活動のなかで在来作物の継 承による新たな価値の創出を探究するために重点調査地を掛川、御殿場、南伊豆の3か所に定め てよりインテンシブな調査活動を行った。一方、作物そのものの性質についての調査においては、 一部の作物において静岡大学農学部農場において、同所比較栽培を行った。
プロジェクトの結果 
各地の調査では在来作物自体の発掘が進み、少なくともプロジェクト期間中に50を優に超え る数が見いだされた。しかし、その作物がなぜ作られ続けたのかを調べると、作物を継承する事 それ自体を主目的としているわけではないケースが多くあるという重要な点が見いだされた。つ まり、特に食を中心とする利用が目的にあり、現地の環境条件や技術や文化などの人の営みがそ の利用や作物の栽培を支えているという点である。つまり在来作物の「継承」とは、作物とそれ をとりまく環境条件や食、技術、文化などの総体としての「在来作物のある風景」が日常の中で 次世代につながることであり、農の「豊かさ」は「風景」とその「継承」の中に見出されること が見いだされた。これらも踏まえ本プロジェクトにおける「社会の新たな価値」である、①在来作物とその周辺の営みから見出される多様で個別具体的な「風景」、②個別の「風景」群が次世 代に継承されること、③それらの価値の見出しや次世代の継承が当事者自らの手で自律的に行わ れること、の3つの観点から、在来作物の継承を目指した「継承の場づくりや人材育成」の実践 を行った。具体的には、生産者や料理人などのステイクホルダーと共に先進地である山形県庄内 地域を巡検し、現地のステイクホルダーと交流し、継承の場や人材育成についてのディスカッシ ョンを行った。また、焼津市の助産院において、若い親子や妊産婦を対象として在来作物のジャ ガイモやサツマイモの食べ比べをする「いもくらべ」をプロジェクト期間中に2回開催した。こ のほか、在来作物の多くは何らかの利用が先にあることから、掛川市ではまちづくり、御殿場市 では学校教育、南伊豆町では聞き書きグループと連携し、在来作物の「利用」とその継承につい ての実践を試行した。これらの実践はプロジェクト終了後にも継続するほか、掛川市では別のメ ンバーを交えた新たな活用のプロジェクトに発展している。また、プロジェクトの中間とりまとめとして生産者をはじめとする関係者間の交流と学びを目 的とした「在来作物交流セミナー」を開催し、最終とりまとめとして県内関係者の寄稿を編集し た冊子『在来作物と私』を発行し、交流の促進を目指したワークショップを開催した。

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