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助成対象詳細(Details)

   

2013 研究助成 Research Grant Program  /  個人研究助成B  
助成番号
(Grant Number)
D13-R-0431
題目
(Project Title)
原発避難における中小事業所の実態と課題 ―福島原発周辺地区の事例調査を通じた研究
The Present and Future of Small- and Medium-sized Companies: A Case Study in the Areas around the Fukushima-1 Plant
代表者名
(Representative)
吉田 耕平
Kohei Yoshida
代表者所属
(Organization)
首都大学東京大学院人文科学研究科
Graduate School of Humanities, Tokyo Metropolitan University
助成金額
(Grant Amount)
 1,600,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

 災害からの復興を考えるにあたって、事業所の再建と雇用の確保という視点は欠くことができない。それは、まずもって経営者の事業のためであり、従業員の生計のためである。通例の災害であれば、事業や就労を維持することによって、さらに被災地での経済、政治、社会、文化の再建に対しても刺激が得られる。
 ところが、東日本大震災では、そういった刺激が必ずしも得られない例が散見される。とりわけ、原子力災害が発生し、最も大きな被害が現在進行形で生じている福島原発周辺地区では、事業と雇用の再建が必ずしも被災地の総合的な復興に寄与していないと言われる。ひとつの要因としては、避難指示等が指示されている区域では当面のあいだ事業所を立地できないことが挙げられるが、他の要因としては、そもそもいつ・どこであれば事業や就労を再開できるのか、それは事故の収束や除染が終わったあとにも継続できるのかが不明確であることも挙げられる。
 しかし、個々の事業所と、その職場における経営者や従業員の支え合いの実態を見ていった場合には、今後の「新しい価値の創出」に示唆を与える事例が見られる。それが特定の業種や就労形態において顕著に現れることを、本研究では社会学の視点に基づく実証的な調査で明らかにする。


 When we think of recovering from a serious disaster, it is inevitable to promote re-opening local businesses and re-hiring the employees, otherwise neither the managers nor the workers would be able to start reconstructing their lives. In the case of a natural disaster, business and employment are even more important because they stimulate the recovery of economic, political, social, and cultural processes.
 However, this is not always the case, as in the aftermath of the Great East Japan Earthquake. Especially in the area around the Fukushima Nuclear Plant, where catastrophic damage to every aspect of human life continues, it is apparent that the reconstruction of enterprises and employment is not necessarily contributing to the recovery of the damaged area and its people.
 There are a couple of obvious reasons for this: the strict evacuation zones still prevent quite a few companies from operating in their original locations: moreover, uncertainty over the changing disaster zone boundaries discourages managers and employees from deciding where it is safe to work, or even to live.
 However, no matter what the economic situation is, new social forms and values are being formed: workers have somehow begun to resume their work and ideals despite the difficulties entailed by the evacuation and disappointing uncertainty. When we pay serious attention to small and medium-sized companies and their sometimes fragile workplaces, we get a better idea of their company morale as well as their mutual relationship outside the workplace. 
 Hence it is our goal in this project to determine which kind of industry is the model of new social forms and values, and which work arrangement gives us the best chance of safely and securely reconstructing communities affected by the ongoing disaster.
 

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

研究の課題
 現代社会における経済のあり方は、災害時にその真価が試される。阪神大震災でも東日本大震災でも、経済界の緊急対応や、新たな復興ビジネスモデルの試みにとどまらず、政府の経済支援や、モラルエコノミーの進展などに関する議論が登場した。これらを通じ、通常経済のあり方までもが見直されるよう提唱される昨今である。
 では、被災した経済主体それ自身はどれだけ復興を果たせているのだろうか。苦難の中で挫折した企業もあれば、それを乗り越えて長期的に羽ばたくところもあるが、その分け目となるのは何か。かまびすしく叫ばれるビジネスモデルの刷新や、モラルエコノミーの進展が、被災組織の再生を後押ししているのだろうか? 
 地域経済主体の再生要因に関する議論を見ていくと、そこに抜け落ちている視点がひとつあることに気づかれる。なぜ、再生を果しえた企業の経営者や従業員は、これだけの苦難を乗り越えていく気構えを数年、数十年にわたって持ち続けることができるのか。被災前から同じ職場で支え合ってきた人たち同士のつながりを再生させることなくして、そのようなことが可能なのだろうか? 
 本研究では、そうした職場関係の再構築があって初めて仕事の復興への道が拓かれることを示すことを目的とした。仕事の復興の実現を妨げる条件を取り除いていくことで、人々が真に求め、現に担っている社会の価値を改めて後押しできる道筋を提示することがその眼目であった。
研究の方法
 そのために本研究では、東日本大震災で被災した中小事業所において、被災前の職場関係の再構築が果たす役割を実証する作業に取り組んだ。その焦点として、災害の発生から3年から5年を経た現在も災害前の十全な経済活動に戻ろうと奮闘している福島県双葉郡の企業の実態と課題を明らかにしていった。
 第一に、仕事の再建には「資金と機会さえあればいい」とする見方に対し、その有効性を問わなければならなかった。とくに、復旧、復興に関わる建設、電源産業ほど事業や雇用を促進しているという予想に反し、統計的に見れば、もっと多くの要因が絡み合っているはずだった。
 このことを示すため、避難指示に関わる地区では官庁統計(経済センサス)が実施されていない事情を考慮し、福島県商工会連合会と帝国データバンク社が調査、保有している統計資料を譲り受けた。その比較検討から、職場関係の要素が事業の再開と無関係でない ことを示そうとした。
第二に、「経営と就労さえ実現すれば仕事の復興に至りつく」とする見方に対し挑まなければならなかった。事業や雇用の再生は、具にその過程を辿ってみれば、仕事の復興のゴールだと感じられず、現場にいる人々の疲れを増すだけなのであることも浮かび上がるのでないか。
 この検討のため、飲食サービス業のP社、福祉サービス業のQ社、自動車整備サービス業のR社に協力を依頼し、職場関係の順調な構築が本当の仕事の復興に向けた力の源となること、そして、その構築が行き詰るなら、その力が大きく削がれてしまうことを明らかにしていった。
研究の知見
 統計と事例の検討を通じ、資金や機会だけで仕事の復興が進むという経過は確認できなかった。中堅企業のサービス業者に関する限り、職場関係の再構築なしに仕事の復興はなされない。
 統計資料からは、土建・原発関係の企業であることだけで事業の再開が促進しているとは示されなかった。事業を再開したからといって売上や従業員が復帰するという傾向も確認できない。
 個別事例からは、職場関係の再構築が進んだとき、事業の再開を急速に後押しした経過が浮かび上がった。ところが、散り散りの中で職務を続ける状況下、「仲間同士、支え合って復興を目指そう」としていた道筋が思い描きにくくなり、当初の熱気との落差に悩まされることとなる。
 しかし、職場を離れた従業員や、新規に入社した従業員を含む広いつながりの再構築が、中長期の課題に取り組んでいく力となりつつあることも浮かび上がった。資金や機会だけでなく、職場関係の再構築を促進、持続させることこそ現場で求められる〈社会の新たな価値〉であろう。
 そこで、①職場関係の再構築を阻む資金や機会を避けるとともに、社宅の整備や会社伝いの就労支援を助ける支援を行うこと、そして、②持続可能な関係構築を進める先に、地域の再生を担っていく意欲を形成することを通じ、〈価値の創出〉を後押ししていくことが望まれるだろう。

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