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助成対象詳細(Details)

   

2013 研究助成 Research Grant Program  /  個人研究助成B  
助成番号
(Grant Number)
D13-R-0612
題目
(Project Title)
地域社会における文化遺産の新たな価値の発見と発信 ―モンゴル国ハラホリン郡における文化遺産の地域参加型活用の実現に向けた基盤の構築を目指して

Discovery and Transmission of New Values of Cultural Heritages in Local Communities: Aiming to Establish a Basis for Utilization of the Cultural Heritages by Public Participation in Kharakhorin District, Mongolia
代表者名
(Representative)
清水奈都紀
Natsuki Shimizu
代表者所属
(Organization)
奈良大学文学部
Faculty of Letters, Nara University
助成金額
(Grant Amount)
 800,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

モンゴル国ウブルハンガイ県ハラホリン郡には「オルホン渓谷の文化的景観」として世界文化遺産に登録されている13世紀の首都カラコルム都市遺跡と、国内現存最古の仏教寺院エルデネ・ゾーが所在する。
 これらの文化遺産に隣接する集落に居住する住民は、文化遺産に関する知識に乏しいこと、また文化的景観の形成に作用する遊牧生活を営んでいないことなどから、文化遺産の保存活用への参加機会が乏しく、そのことが住民による文化遺産の破壊を生んでいる。さらに集落自体も景観を阻害するものとしてばしば邪魔者扱いされてきた。しかし、集落の住民は本当に文化遺産に対する知識を持たない邪魔な存在なのだろうか。
 本研究では第一に聞き取り調査によって地域住民の文化遺産に対する認識を明らかにし、その調査を通じて住民自身が文化遺産を再認識すること、第二に住民の手による展示や解説によって、地域社会における文化遺産とは何か、という文化遺産の多様性を住民自身が地域外部に発信することを課題とし、当該地域での地域参加型の文化遺産活用を実現するための基盤を構築することを目指す。

 In the Kharakhorin sum/district, Ovorkhangai aimag/province, Mongolia, the Kharakhorum city ruins of the 13th century and the Erdene Zuu temple, the oldest temple existing in Mongolia, are registered as the world cultural heritage site of "Orkhon Valley Cultural Landscape".
 People living in the neighboring communities, because they lack in knowledge and do not live a nomadic life in a way that helps the preservation of cultural landscapes, are given little chance to participate in the preservation and the utilization activities of these sites, and this is leading to the destruction of the cultural heritages by the people themselves. Moreover, the very existence of the communities has been looked upon as an obstacle damaging the cultural scenery. However, is this really true?
 The object of this research is firstly to clarify how the people understand the cultural heritages, and the survey, carried out through their interviews, is expected to contribute to the promotion of local recognition of the heritages. Secondly, the research tries to help the people disseminate by themselves what significance and diverse values cultural heritages bear in the local community. Finally, it will lay a base for the utilization of cultural heritages in this area through local participation.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

本研究プロジェクトは、モンゴル国ウブルハンガイ県ハラホリン郡において、地域参加型による文化遺産の保存活用を実現するための基盤を構築することを目的に実施した。 
 世界文化遺産「オルホン渓谷の文化的景観」の中心地にあたり、モンゴル帝国時代の首都カラコルム都市遺跡と国内現存最古の仏教寺院エルデネ・ゾーに隣接するハラホリン集落には、定住生活を営む人びとが生活している。しかし、彼らは文化遺産に対する知識に乏しいこと、また文化的景観の形成に作用する遊牧生活を営んでいないことなどから、文化遺産の保存活用への参与機会が乏しく、そのことが住民による文化遺産の破壊を生んできた。ときに集落自体が景観を阻害するものとして邪魔者扱いされることもあった。
 そこで本研究プロジェクトでは、①地域住民の中に潜在する文化遺産に関する知識や認識を顕在化させ、住民自身が文化遺産を再認識する、②①で明らかになった地域の保持する文化遺産に関する情報を住民自ら外部に発信する、という2つの課題を達成することで、〈文化遺産の持つローカルな価値〉〈文化遺産の保存活用における地域の存在価値〉という2つの価値を創出し、当該地域での地域参加型による文化遺産保存活用の基盤を構築することを目指した。
〈調査研究の方法と内容、及びその成果〉
 本研究プロジェクトではモンゴル側協力者(カラコルム博物館・世界遺産管理事務所。以下モンゴル側と表記。)と共に、以下のような内容で3度の現地調査を実施した。
1.地域住民の文化遺産に対する認識や潜在する知識を明らかにするため、「文化遺産の記憶」「住民にとっての文化遺産」「ハラホリンの生活」をテーマに、住民に対する聞き取り調査を実施した。また、住民によって語られた文化遺産を確認するために住民とともに集落内を巡り、位置情報や写真、映像による記録を作成した。
2.住民を対象にワークショップを開催し、聞き取り調査から導き出した「ハラホリン郡の歴史地図」「ハラホリンカレンダー」「私の家」という3つのテーマで作業に取り組んだ。聞き取り調査とワークショップから得た情報を整理したうえで、補足の聞き取り調査も実施した。
3.カラコルム博物館敷地内にあるゲル博物館で1ヶ月間展示を開催し、ボランティア住民による解説を実践した。展示は、現在のハラホリン集落の基盤となった国営農場を軸に集落の変遷と文化遺産の様子を地図上に示した「ハラホリンの歴史」、住民から収集した家具や民具等により70年代の生活を復元した「私のゲル(家)」、「モンゴルの伝統玩具」という3つテーマで構成した。解説には聞き取り調査で得た情報を活用し、英語版パンフレットも作成、配布した。
 聞き取り調査とワークショップを通じ、住民のカラコルム都市遺跡に対する認識の変化や、民間で信仰の対象となっている石積みオボーに新旧があることなど、住民の文化遺産に対する認識や知識を明らかにすることができたほか、信仰が禁止されていた社会主義時代の仏教寺院の様子や住民の間で行われた隠れた信仰の実態など、興味深い民族誌的情報を得ることができた。
 さらに、聞き取り調査やワークショップ、展示解説への参加を通じて、文化遺産に対する意識が向上したという意見が住民からも多数聞かれたことから、上記課題①については所期の成果を得ることができたと評価する。上記課題②については、ボランティア住民の参加を得て1ヶ月間展示解説を実践できたこと、また実践を通じて具体的な問題意識を持つようになった参加者が現れたことは今後に繋がる成果と言える。しかし、多様な見学者に対し適切な解説ができない場面も見られ、見学者の分析や展示解説の内容・方法など検討すべき課題が残った。
〈今後の展望〉
 今後は、本プロジェクトで明らかになった課題に基づき計画を修正し、再び調査研究・実践に取り組む、という流れを反復することで地域参加型の文化遺産保存活用の基盤を固め、実現を目指す。今後は住民の文化遺産に対するさらなる意識の向上と発信内容の充実を目指し、課題の設定から調査研究、発信に至るまで、より地域住民の主体性を尊重し、協働を深める方法へと移行していく予定である。また本プロジェクトにより、地域参加型の文化遺産活用を実現するためには、国内の文化財行政関係者や内外の専門家に対しての情報発信も不可欠であることがわかった。今後は発信の対象を明確にし、それに応じて適切な内容と方法を選択して発信をおこなう。さらに、本プロジェクトで重要性が明らかになった地域参与のプロセスや手法を体系的に整理し、他所での応用可能な理論の構築を目指して調査研究を進めたい。

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