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助成対象詳細(Details)

   

2013 研究助成 Research Grant Program  /  共同研究助成A1  
助成番号
(Grant Number)
D13-R-0669
題目
(Project Title)
ジャカルタ都市圏における溜め池の多機能性を生かした新たな水文化コンセプトの形成
A New Concept on Water Culture Utilizing the Multi-function of Urban Lakes in Jakarta Metropolitan Area
代表者名
(Representative)
アミ・アミナ・ムティア
Ami Aminah Meutia
代表者所属
(Organization)
人間文化研究機構総合地球環境学研究所
Research Institute for Humanity and Nature
助成金額
(Grant Amount)
 5,100,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

 インドネシアの首都ジャカルタ都市圏に約300カ所あるとされる溜め池は、固有の自然条件のもとに存在し利用されてきたが、これまで歴史の整理や学術的な研究はほとんど実施されてこなかった。今日、急激な都市域の拡大と開発により、溜め池そのものが消失したり、水質が悪化したり、有効活用されていないのが現状である。同国の経済発展はさらにこのような傾向を進める恐れがある一方で、洪水の頻発に対処するための溜め池を活用した流域治水や都市文化拠点としての利用などが注目されている。本研究は、溜め池が有する生態系サービス、アメニティ、洪水緩和、水資源確保といった多様な機能を再評価し、それらを有効活用することを目的とする。このため、分散している基本情報の整理統合、陸水学や水文学などの調査、歴史的変容過程の究明、および溜め池が有する多面的機能の定量評価を実施し、これらの機能を高めるための条件を提示する。メンバーが個々の専門に応じて実施してきたジャカルタの「水」研究を統合し、ローカルな環境条件や社会文化的背景に踏み込んで学術的な側面から溜め池を活用するためのコンセプト案を作成し、関係者との話し合いを通じて提案する。


 There are about 300 urban lakes in Jakarta metropolitan area, the capital of Indonesia. These urban lakes have been used under the particular natural conditions that are characteristic of this area. But even so few studies have been done on these lakes, and little was known including the history of these lakes. Lately, the rapid development and expansion of urban areas have caused losses of urban lakes, and the water quality has been deteriorated. On the other hand, economic development of the country make people concerned with important functions of urban lakes such as flood retention basins to prevent frequent flooding, and urban culture centers. This study aims to re-evaluate eco-services of urban lakes comprehending amenities, flood mitigation, water resources and landscapes so that these lakes would be utilized effectively. In order to evaluate these multiple functions of urban lakes, trans-disciplinary approach would be taken, including hydrology and limnology studies, historical transformation studies, biodiversity valuation studies focused on plants and dragonflies as appraisal standards. Ultimately this research project intends to propose a new model of urban lake area management in order to enhance these multiple functions. With the collaboration of many professional members, the integrated study on urban lakes in Jakarta will be carried out paying special attention to local environment conditions and socio-cultural background, and academic ideas to create conceptual plans for urban lakes will be proposed through discussions with stakeholders.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

インドネシアのジャワ島西部の3州にまたがるジャカルタ都市圏は、面積約6400「3、人口約 2800万人にのぼる世界第2位のメガシティである。3000m級の火山を擁する南部では年間4500mm もの降雨量があり、山麓から発達した広大な扇状地に幾筋もの浅い谷が発達し、人の手が加えら れた溜め池が約300カ所点在する。湧水、小河川、用水路とともに水ネットワークを形成する溜 め池は、人々の生活の糧となり文化的な礎となってきた。しかし、急速な都市化による土地利用 の変化とともに、溜め池の埋め立てによる消失や水質汚染が顕著になり、伝統的な溜め池文化も 失われつつある。一方で、溜め池の洪水緩和や都市文化拠点、生態系サービスといった役割に注 目が集まり、多様な機能を持つ溜め池と社会との関わり方が問われている。  
 本研究プロジェクトは、インドネシアと日本からジャカルタ都市圏の水に着目した様々な分野 (河川工学、陸水学、環境デザイン、植物学、人類学、都市史)の研究者が恊働し、①これまで ジャカルタにおいて未整備だった溜め池を保全するための科学的な根拠を示す、②溜め池の環境 改善や維持管理のためのツールや基準を提案する、③行政や地域住民らとの対話を通じて溜め池 保全に向けた仕組み「水文化コンセプト」を協創することを掲げ、2年間の活動を続けてきた。  
 1年目は、各々の専門分野を中心に17カ所の溜め池を共同で調査し、上記①に対応した溜め 池の多面的な機能に関して科学的な分析を加えながら、溜め池の現状や管理に関する議論を重ね た。水質に関しては、水温、COD、全リン、全窒素、大腸菌などを、季節変化、流入、流出、止 水部などを考慮して計測し、溜め池周辺の居住環境特性、水辺の植生、湖岸の被覆、トンボの種 数との関連性や、溜め池が持つ水質浄化機能を検討した。生物多様性では、水辺のエコトーンに 着目してトンボの種類・種群や水生植物・湖岸植生を分析したほか、湖水の魚種にも注目した。 洪水調整機能については、集水面積、湖水面積、流入量、流出量などを計測し、2007年の既往 最大降雨データを当てはめて算定した。地域社会および歴史文化に関しては、聞き取りや資料調 査をもとに、溜め池の利用形態、住民の溜め池管理への関わり方、水利用や周辺土地利用の変化
などを調べた。 
 新たな知見としては、まず水質に関する多角的な検討がなされ、植生および湖岸の被覆が水質 や生物多様性と相関していることを示す事例を積み上げて説明した。また、水生植物やトンボの 種類の同定と環境要因との分析から、環境の健全性を示す指標となる種類を抽出した。さらに水 工学的分析から溜め池の水質浄化機能、洪水緩和機能が数値化され明らかになった。溜め池管理 の現状については、政府の施策や民間業者の開発により、地域社会の関与が低下し、溜め池の汚 染や管理不足と関連していることがわかった。特に1970年代以降に周辺の農地が市街化され、 灌漑利用が減少したことと水質悪化が軌を一にしており、その多くが80~100年前に整備された 溜め池の歴史文化的価値の衰退が浮かび上がった。
  2年目は、主に上記②と③に取り組んだ。当初は調査した溜め池の中から、管理の形態別に2 ~3つのモデルケースを示す想定であったが、各ため池ごとに主たる機能や社会文化的背景、周 辺土地利用などが異なり、行政や住民の関与の度合いも様々であることから、モデルの提示は有効ではないことが懸念された。また、水域は国が所有しているものの、溜め池機能の受益者が 機能ごとに多種多様であり、実際に誰が費用を出し誰が管理するのかは単純な答えがないこと、 都市化が激しい中で住民の参加を高めつつ環境改善を図ることが課題となった。そして、溜め池 を取り巻く多様な現状を許容し、かつ溜め池の多面的機能を損なわずに保全する仕組みとして、 研究成果を活用した分野横断的な評価指標を作成し、これを共通の評価パッケージとして溜め池 認証制度につなげることを考案するに至った。この提案を土台にコミュニティミーティングおよ びワークショップを通じて、地域住民、国や地方の行政担当者、専門家らと討議し、制度実用化 のためのプラットフォームとして住民主体の「ジャカルタ首都圏溜め池友好フォーラム」が結成 された。インベントリーも作成し各地の溜め池の情報共有を試みているほか、住民にもわかりや すく科学性が担保された評価指標を議論することで、あらゆる側面の水環境資源を再認識する過 程の共有にもつながっている。住民、行政、企業、専門家が同じ評価基準を持つ認証制度(Tirta Budaya situ)を基盤とし、各地の溜め池をゆるやかにつなぐ溜め池の多極多元管理、多面的機能 保全に向けた動きが具体化された。さらに指標を地域の自然特性や社会的文脈、経年的状況変化 に合わせて調整することで、諸外国および将来の溜め池でも活用することが可能である。

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