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助成対象詳細(Details)

   

2014 研究助成 Research Grant Program  /  A 共同研究助成  
助成番号
(Grant Number)
D14-R-0042
題目
(Project Title)
東アジアにおける「越境的多文化主義」 ―国境を越えた文化シティズンシップの構想と実践に向けた国際恊働プロジェクト
Trans-Asian Multiculturalism: International Collaborative Project of Transnational Cultural Citizenship in East Asia
代表者名
(Representative)
岩渕 功一
Koichi Iwabuchi
代表者所属
(Organization)
モナッシュ大学アジア研究所
Monash Asia Institute, Monash University
助成金額
(Grant Amount)
 6,400,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

日本、韓国、台湾、香港では、特にアジア地域内の人の移動の活発化により文化的多様性が一層顕在化しているが、包含的な多文化共生は進展しておらず、排外的ナショナリズムやレイシズムが台頭している。本企画は欧米の経験を中心に一国内の管理政策として論じられてきた多文化主義の議論を東アジアの文脈から捉え返し、多文化共生の促進という急務の共通課題にトランスアジアな視座から連携して取り組む「越境的多文化主義」を提唱する。東アジア各地で培われてきた「下からの多文化共生」を検討し、それを発展させて国の枠組みを越えた連携、対話、相互エンパワメントを助長するとともに、差異の尊重・文化多様性の享受・自他とのオープンで内省的な対話を広く社会に醸成する文化シティズンシップの越境的展開を構想し実践する。その核となるのは多様な人々が参画して共に自他の関係性を見直す対話的で創造的な学びの過程である。本企画は当事者集団、市民団体、NGO・NPO、教育者、自治体関係者とその学びのあり方を考案し実践することで、既存の国民国家の枠組みでは十全に育まれていない共生の価値観を越境的かつ恊働的に醸成する取り組みを持続可能なものにする。

     In Japan, South Korea, Taiwan and Hong Kong, the rise of inter-Asian migration has made ethno-cultural diversity more intensified and visible. This has accompanied the activation of policy discussion of multiculturalism, at the same time engendering jingoism and racist attacks in society. This project aims to propose "transnational multiculturalism" across East Asia that collaboratively tackles the shared, imperative issue of multicultural co-living from a trans-Asian perspective. This is to rethink the discussion of multiculturalism, which has been developed mostly in Euro-American contexts, and de-nationalize the discussion of multiculturalism as a policy to manage cultural diversity within the nation-state. We will examine "multiculturalism from below", which has been fostered in East Asia by various subjects and groups such as ethnic communities, citizen's groups, NGOs, NPOs, local governments, and consider the way to develop it into the formulation of trans-Asian cultural citizenship by promoting transnational cooperation, dialogue and mutual empowerment. Cultural citizenship is a conception and social praxis of respect for all kinds of difference, enjoyment of cultural diversity, and the fostering of self-reflexive dialogue with oneself and others in society. The core of cultural citizenship is the creation of dialogic co-learning process among diverse citizens. Working together with various subjects and groups, this project will design a form of dialogic and creative co-learning and practice it by holding international festivals. Such praxis will lead to the accumulation of the know-how of practicing dialogic co-learning process. It will also further facilitate the cooperative relationship and dialogues among participants. Both will much contribute to make Trans-Asian Multiculturalism as a sustainable long-term project that nurtures the value of multicultural co-living collaboratively and transnationally, the value that has not been well nurtured within the framework of the nation-state. 

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

本プロジェクトは、多文化状況が進展する東アジア(日本、台湾、韓国、香港)における文化多様性を奨励する取り組みについて比較検討するとともに、欧米の経験を中心に国・社会という枠組みのなかで展開されてきた多文化状況をめぐる議論と取り組みを東アジアの文脈から越境恊働的視点をもって捉え直し、国境を越えた交流と対話が社会における文化多様性の奨励にむけてどのような視座、連繋、恊働をもたらすかを考察・検証した。

エスニックマイノリティ・コミュニティ形成や労働移民・国際結婚移住の歴史とそれに関する政策の進展の仕方に相違はあるが、日本、台湾、韓国、香港は、比較的<均質>だと思われてきた社会がエスニシティに関する文化多様性の高まりにどう向き合うかという共通課題に直面している。これらの社会では欧米諸国と比して移民の社会統合や文化多様性を包含的に尊重し奨励する議論や政策が十分に発展しておらず、それを補うかたちでNGO、NPO、市民団体、地方行政体が生活支援、人権保護、そして文化多様性の奨励に大きな役割を担っており、「下からの多文化主義」が展開されてきた。特に最近では、映像、音楽、アートなどの文化表現によって多様な文化背景を持つ若者の自己エンパワメントをはかり、文化多様性を奨励する活動が活発になっている。

本プロジェクトはそうした文化表現実践に焦点をあてて、4つの社会における取り組みや課題について国境を越えて学び合い、対話を育むことで、文化多様性の表現と奨励にむけて新たな発見や視座が喚起されて、個々の社会のなかで実践されてきた活動や連繋に創造的な刺激を与え、越境的な恊働実践やそれを支える関係性構築が促される可能性−−−越境的多文化主義をとおした文化シティズンシップの促進−−−について考察・検証した。文献と多文化状況の検討から東アジアの<共通に異なる>経験の相互参照が新たな意識や実践を促す可能性について考察し、それを検証し実践する場として4つの社会の文化表現者、映像制作者、それを支援するNGO、NPO、市民団体が経験を共有して論じ合い、連繋を深める機会を台北とソウルで持った。そこでは映像文化で自らのアイデンティティや社会における文化多様性を表現し、それを社会に発信する実践の意義と重要性について意見が交わされた。現場での観察、参加者との対話、質問票から、4つの社会が共通の問題に直面しており、さまざまな創造力に溢れた文化実践が行われていることを知り、その実践者たちと対話をすることは、大きな刺激と勇気づけを参加者に与え、文化多様性の奨励についての新たな発見、学び、連繋を生み出す契機となったことが明らかとなった。参加者の多くは越境対話に刺激されて自省的に自らの社会の状況と自分の考えや活動を振り返り、文化多様性の奨励実践についてあらためて考えることを促されていた。大多数の参加者は国境を越えた連繋に従事してこなかったが、さらに交流を深めたり恊働を押し進めたりする意欲をかき立てられており、新たな恊働や連携が始まっている。

東アジアにおける越境的な視座、対話、連繋が、相互のエンパワメントをもたらし、文化多様性を奨励する実践について新たな意識と創造意欲を芽生えさせ、その実践にむけた恊働を育む契機となることは本プロジェクトで確認された。国の枠組を超えた恊働実践をとおして文化多様性の奨励を推進するために、越境対話と連繋をどのように持続発展させるのか、どのような支援体制が必要なのかには今後の課題である。多様な文化背景を持つ人たちの自己表現を促し、その発信と共有の機会を社会で保障することは包含的な多文化社会の構築にむけた文化シティズンシップの醸成にとって肝要である。台北とソウルの場に参加した市民や学生の数は限られていたため、それにむけた対話的な学びをどのように社会で促進するのかも本プロジェクトに残された課題である。


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