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助成対象詳細(Details)

   

2014 研究助成 Research Grant Program  /  B 個人研究助成  
助成番号
(Grant Number)
D14-R-0172
題目
(Project Title)
都市先住民に適する居住空間とは ―台湾新北市における原住民不法占拠コミュニティとその移転策の考察
Creating Livable Space in Cities: The Contestation Over Urban Indigenous Squatter Communities in New Taipei City
代表者名
(Representative)
杉本 智紀
Tomonori Sugimoto
代表者所属
(Organization)
スタンフォード大学人類学部
Department of Anthropology, Stanford University
助成金額
(Grant Amount)
 1,300,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

  第二次大戦後台湾社会は急速に都市化し、全国人口の2%を占める台湾先住民の約半数が都市部に移住した。台北市郊外新北市には、移住してきた先住民により国の許可なく国有地に建設された「違建部落」と呼ばれる不法占拠コミュニティが9つ存在する。新北市政府はこうしたコミュニティを都市問題とみなし、強制立ち退きを数度行い、部落と数十年間対立を続けてきたが、昨年方針を転換し、現在の部落近辺に先住民の文化特質を考慮した新たな住宅を建設し、部落を移転させることを決定した。本研究は、聞き取り、参与観察、資料調査を用い、この移転の過程を観察し、政府が違建部落に介入してきた歴史や、政府見解とは異なった部落住民の自らの部落への愛着心や先住民としての都市生活に対するビジョンを描き出す。また、移転が住民の親族関係やコミュニティ内部の関係性に与える影響も考察する。多様な人々が共存でき、社会的弱者にも暮らしやすい都市づくり、そして都市に暮らす先住民の人々の文化・言語の継承の権利といった問題をこの移転策を通して考えることによって、本研究は台湾や日本のような先住民を有する社会の未来における新たな価値の創出をめざす。

     As a result of rapid industrialization and urbanization under the post-WWII KMT regime, many of the Austronesian indigenous people in Taiwan migrated to large cities like Taipei beginning in the 1960s. On Taipei's peripheries, some of these urban indigenous people, mostly of the Amis tribe, began to form squatter communities in the 1970s. Since then, the municipal government has continuously attempted to demolish these communities, but as of 2014 nine indigenous squatter communities exist in New Taipei City, a doughnut-shaped suburban municipality that surrounds Taipei. In order to resolve these communities' illegality, the municipal government of New Taipei City announced in 2014 that it would relocate these communities into affordable "social housing," which is said to take into consideration indigenous squatters' cultural differences from the Han-Chinese majority. The aim of this research project is to ethnographically observe this resettlement process and think about how best to create a livable space within urban areas for indigenous people, for whom cities have become new homes. Through interviews and participant observation, I will examine the processes in which these indigenous squatter communities have become "problems" that need government and non-government intervention as well as how the current relocation plan is perceived by residents of squatter communities themselves. The perspectives of residents will provide an alternative vision of what urban indigenous communities should look like in the future, which might be different from that of the New Taipei City government. As relocation proceeds, I will also investigate what impact resettlement will have on the livelihoods of urban indigenous squatters. Through this research, I hope to contribute to the production of new values about indigenous cultures, livelihoods, and rights in Taiwan and many other contexts where indigenous struggles continue. 

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

台湾台北市郊外の新北市には、台湾東部花蓮及び台東地方から移住してきたアミ族の「都市原住民」が国有地に所有権がないまま建てた原住民不法占拠コミュニティが存在している。本研究は、過去20年間の都市原住民不法占拠コミュニティとその移転政策の歴史を考察の対象とした。 
 具体的な実施内容としては、「原住民文化生活園区」と呼ばれる新たなコミュニティへ移転されることが決まっている現存の原住民不法占拠コミュニティと、原住民不法占拠コミュニティからの移転者が居住する国営住宅で人類学的フィールドワーク(参与観察及びインタビュー)を行った。また、移転政策に関わってきた市職員や建築士、活動家などにもインタビューを行った。それに加えて、新聞雑誌記事、政府レポート、統計、写真など原住民不法占拠コミュニティに関する歴史資料も収集した。
 プロジェクトの最も重要な結果としては、新北市政府や台湾政府が移転策に対して期待する効果と、実際の効果の間には大きなへだたりがあることが明らかにしたことである。政府側は、都市原住民の文化に対して、公式には尊重の立場を示しており、文化活動の支援なども行っている。しかしながら、アミ族の不法占拠コミュニティに関しては、安全性及び違法性の観点からあくまで移転されなければならないという立場は20年前から一貫して変わらず、移転先のコミュニティ(2000年代までの主要な移転先だった国営住宅であれ、現在新たに建設中の「原住民文化生活園区」であれ)では、これまでの生活とは違い、家賃や家のローンの支払いが求められる。コミュニティの空間の使用方法や範囲も制限される。政府の移転政策は、労働者階級の都市原住民を、中産階級の都市住民の経済的そして空間的規範の中に同化していくことを前提としている。しかし、国営住宅に移転されたコミュニティの住民の多くは、 家賃を長期間に渡って滞納したり、支払いを拒否したりし、立ち退きの対象となった。加えて、 原住民文化や伝統から現れてくる独特な生活方式は、移転後も完全に変えることはできない。例えば、すでに国営住宅に移転された住民の中には、もともと自らのコミュニティがあった土地や他の国営地に今でも毎日のように通い、(許可なく開いた)畑で野菜を育てたり、山菜を採ったり、野生の動物の狩りをしたりしている。移転政策は皮肉にも 国営地への新たな不法侵入を産み出してしまっている。こうした不法占拠が続く理由は、多くの都市原住民がこういった些細な活動こそが都市原住民の文化維持にとって重要であると考えているからである(例えばこの土地で育てられている野菜や、山で取れる山菜はアミ族の食生活に欠かせないものであることが多い)。しかし国営住宅などの移転先の狭い土地ではこういった活動に従事することはできない。 このような移転政策から産まれてくる矛盾や新たな問題を考察することは、今後都市における多民族共生や、都市原住民の権利を考える上で重要であると考える。
 こうしたプロジェクトの結果については、台湾滞在中から桃園市の中原大学の原住民コースの学生たちや、台湾大学の人類学部の学生たちに発表を行った。こうした学生たちは自らが都市原住民であったり、原住民不法占拠コミュニティで自らが研究、実習を行っているために、貴重な意見交流の場となった。また、研究の一部をまとめたものを、米国の学術雑誌に投稿し、現在審査中となっている。今後も、研究成果をまとめたものを、米国、日本、台湾などの学術誌や雑誌といったメディアに発表していく予定である。また、2017年の夏に台湾に戻った際、所属機関であった中央研究院で発表を行うので、コミュニティの住民などもその場に招待する予定である。

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