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助成対象詳細(Details)

   

2014 研究助成 Research Grant Program  /  A 共同研究助成  
助成番号
(Grant Number)
D14-R-0723
題目
(Project Title)
フィリピンの次世代教育における博物館の活用可能性に関する研究 ―移動型展示による教育機会の地域間不均衡解消と地方固有の自然・文化遺産の継承者育成に向けて
Research on the Utilization of Museum Activities for Education for the Young Generation in the Philippines: Development of Mobile Exhibitions to Redress Regional Disparities in Educational Opportunities and Foster Human Resources to Manage Natural and Cultural Heritage
代表者名
(Representative)
寺田 鮎美
Ayumi Terada
代表者所属
(Organization)
東京大学総合研究博物館
The University Museum, The University of Tokyo
助成金額
(Grant Amount)
 3,500,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

フィリピンでは憲法に万人のための教育が謳われるが、マニラ首都圏と地方では教育インフラストラクチャー整備に格差が生じている。1901年設立の国内最大博物館組織である国立博物館はマニラ市内に歴史民族博物館、美術館及びプラネタリウムを備え、さらに2015年開館予定の自然史博物館の準備を進めており、マニラを拠点とした社会教育施設の基盤は整いつつある。一方、マニラを訪れる機会のない地方の人々に向けた国立博物館の活動の還元は継続的課題となっている。博物館活動はノンフォーマル教育として独自に次世代教育に貢献するとともに、フォーマルな学校教育を支援する役割も期待される。そこで、本研究では地方にアプローチ可能な機動力の高い博物館活動を実現するために、国立博物館の収蔵品や情報コンテンツを用いた移動型展示キットを開発し、次世代を担う子どもたちを対象に様々な場所で展示を公開し、その効果の検証を行う。これにより、教育機会の地域間不均衡の解消及び地方固有の自然・文化遺産の継承者の育成を目指した博物館の活用可能性を探ることで、様々な文化的背景をもつ人々が共生する社会の新たな価値創出に寄与する博物館モデルを構築する。

     Although the Constitution of the Philippines declares 'the right of all citizens to quality education', regional areas are still faced with the lack of educational infrastructure in comparison with Metropolitan Manila. The National Museum, which was established in 1901 and has since developed as the largest museum complex in the Philippines, currently consists of the National Museum for Filipino People and the National Art Gallery and Planetarium and plans to open the National Museum of Natural History in 2015. While the National Museum properly functions as infrastructure for social education in Manila, it has yet to solve the problem of providing access to people living in regional areas as they rarely have the opportunity to visit the National Museum in Manila. Museums are not only able to support formal education in schools but also contribute to education for the young generation by offering alternative non-formal education. This research project aims to develop mobile exhibitions by utilizing collections held by the National Museum in order to allow young people to access museum collections in various inspirational venues. The outcome and effects of the mobile exhibitions will be assessed with a view to developing a flexible museum model that can apply to diverse regional areas. The goal of the project is to establish a next-generation museum vision, in which museums can generate new social values by redressing regional disparities in educational opportunities and developing human resources to manage natural and cultural heritage.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

本プロジェクトでは、フィリピンにおける教育機会の地域間不均衡の解消と地方固有の自然・文化遺産の継承者育成に対し、博物館がいかに貢献できるのか、その活用可能性を実践的に探究するという研究課題を設定した。
 この課題設定の背景には、フィリピンにおける自然と文化の多様性と社会格差が挙げられる。フィリピンは7千以上の島々から国が形成されており、二つの公用語(フィリピノ語及び英語)の他に80前後の地域言語があると言われる。島の数や言語の数が象徴しているように、自然と文化の多様性はフィリピンの大きな特徴である。しかし、近年の急速な経済発展により、首都マニラは世界的にも有数のメガシティとなっている一方で、マニラ首都圏とその他の地方では様々な社会格差が生じており、教育インフラの地域間格差も例外ではない。
 そこで、箱の中に展示コンテンツを搭載した移動型展示キットを開発し、地方に住む人々に対し、展覧会を通じた教育機会を提供することを目的に、本プロジェクトを立ち上げた。この目的に適うものにするため、展示キットは持ち運び及び設営が容易になるよう工夫すること、地方固有の自然や文化遺産を展示内容に取り上げること、特に若い世代を対象とすることにした。プロジェクトメンバーは、日本とフィリピンの博物館関係研究者4名で構成した。
 今回のプロジェクトでは、フィリピン諸島の南端に位置するミンダナオを対象地域とした。ミンダナオ島は、マニラがある国内北部のルソン島に続き、二番目に大きな面積を有する。この島を中心に周辺の各島から形成されるミンダナオ地域では、国内で最も文化的多様性に富むと言われるほど様々な民族文化が見られるとともに、固有の動植物が数多く生息している。また、現在進行中の基礎教育改革を受け、新教育課程を受けていない世代である大学生の教育機会の充実に貢献するため、大学生を展示観覧者の対象設定とし、大学キャンパス内を展示会場に選んだ。
 「モバイルミュージアム・ボックス」と名づけた移動型展示キットの開発にあたり、まず、日本やフィリピン、また博物館分野で世界を牽引する英国の類似事例を調査し、参考とした。次に、展示テーマやコンテンツの決定に際しては、現地の大学関係者(ミンダナオ国立大学イリガン校及びマニラ師範大学教員38名)の協力を得て、事前アンケート調査を行った。その結果、自然史系の標本や模型は実際に大学教育に用いられており、その機会を充実させたいというニーズが教員にあることが確認できた。そこで、展示テーマを「ミンダナオの自然誌の多様性」に絞り、展示カテゴリーはミンダナオの陸生植物、陸生動物、水生動物に地質学を加え、計10箱に個別のトピックを割り当てた。展示キットの制作は、基本的にすべて現地にて行った。
 「モバイルミュージアム・ボックス」の展示公開は、2015年12月9日から22日にマニラの国立博物館でお披露目を行った後、2016年の1月18日から29日にミンダナオ国立大学イリガン校(イリガン市)、2月2日から6日にセイヴィアー大学(カガヤンデオロ市)とミンダナオ島内の2箇所を巡回した。場所は両校ともに、理科系学部の建物1階のロビー空間を利用し、学生たちが日常的に行き交う日常空間を一時的な博物館に変容させることができた。会期中には、両大学の学生のみならず、近隣の高校や大学からも見学者を迎えた。
 展示期間中に実施した観覧学生対象の展示評価アンケート調査(回答数551)によれば、本展示キットが「学校の学習の助けとなる」「好奇心を刺激する」との回答がそうではなかったとの回答を大きく上回り、一定の教育効果が確認できた。また、回答者の約半数はこれまで博物館訪問経験がほとんどない学生であったため、彼らは本展示キットを通じて、博物館展示を見る稀少な機会を得ていたことがわかった。
 展示終了後は、展示キットが引き続き現地にて教育ツールとして利用されるよう、ミンダナオ国立大学イリガン校への寄託の手続きを行った。また、今後の展示キットの活用に向けて、広報ツールとなるリーフレットと、本プロジェクトの企画・実施の詳細を記録した報告書を制作し、印刷物として出版するとともに、ダウンロード可能なPDFデータを東京大学総合研究博物館のウェブサイトにて公開した。

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