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助成対象詳細(Details)

   

2015 研究助成 Research Grant Program  /  (B)個人研究助成  (B) Individual Research Grants
助成番号
(Grant Number)
D15-R-0015
題目
(Project Title)
台湾シラヤ族の民族的アイデンティティの形成に関する人類学的研究―博物館資料の社会還元と先住民族の手工芸再興を中心に―
An Anthropological Study about Ethnic Identity of Siraya Tribe in Taiwan: A case study centering revival of indigenous people's handicrafts through museum collections
代表者名
(Representative)
呂  怡屏
Yiping Lu
代表者所属
(Organization)
総合研究大学院大学文化科学研究科
School of Cultural and Social Studies, the Graduate University for Advanced Studies
助成金額
(Grant Amount)
 1,600,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

本研究の目的は、台湾のシラヤ族が文化復興と文化伝承をする際に、博物館に収蔵した衣装の資料を活用することに着目し、文化遺産を通じて、シラヤ族の民族的アイデンティティが形成されるメカニズムを明らかにすることである。博物館人類学の研究には、博物館が民族資料を収蔵するという活動の中に組み込まれている権力関係を明らかにしてきた。一方で、博物館に収められた民族資料は、各民族が自己意識と民族的アイデンティティを形成する際の重要なシンボルになるという動きが見られるようになった。そのため、多文化社会へ進んでいく現在、博物館資料の社会還元も求められてきている。台湾では博物館に収められた工芸品に見られる紋様の帰属をめぐって、かつてシラヤ族と呼ばれてきた集団の中で、文化復興をする際の独自の集団としてのまとまりを主張する動きが見られる。本研究は、博物館とシラヤ族の連携のプロセスを追跡することで、シラヤ族の民族的アイデンティティを形成するメカニズムを明らかにするものである。

    The study focuses on the action in which Siraya tribe in Taiwan utilizes their cultural legacy preserved in museum collections to revive and pass down their culture. Through this research, it is expected to make clear the mechanism of reshaping ethnic identity by using museum collections about Siraya tribe in Taiwan.
    The research of Museum Anthropology pointed out that there are unequal power relationships involved in the collecting history of ethnographic collections. However, these ethnographic collections also become a critical symbol for each ethnic group to build their self consciousness and ethnic identity. Therefore, museum collections are recently requested to make contribution to the society which continues to develop toward a multicultural one.
    In Taiwan, two ethnic groups, classified into Siraya tribe in the past, develop their claim to be independent ethnic group in the dispute of the attribution of their embroidery works collected by museums.
    By tracing the collaboration process between the museum and Siraya people, the research aims to clarify the mechanism of reshaping ethnic identity in Siraya tribe.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

総合研究大学院大学 文化科学研究科 地域文化学専攻 呂怡屏
研究テーマ:台湾シラヤ族の民族的アイデンティティの形成に関する人類学的研究――博物館資料の社会還元と先住民族の手工芸再興を中心に

 本研究は、台湾の平埔原住民族に属するシラヤ族とタイヴォアン人の文化復興の過程におけるエスニシティの生成と、そこから、民族アイデンティティが形成されるメカニズムを明らかにするものである。平埔原住民族とは台湾のオーストロネシア系先住民族のうち、清朝時代から漢族化が進んだ人たちの子孫を指す。現在、台湾社会ではその大半が原住民の身分を有していない。
 報告者は平成28年度から29年度にかけて、台湾の台南市におけるシラヤ族のG村落と、かつて人類学者にシラヤ族と分類されてきたが自然災害に見舞われてからタイヴォアン族としての民族意識を高めてきた高雄市におけるS村落を研究対象とした。具体的な研究内容は、G村落とS村落において刺繍工芸を伝統工芸として位置づける動き、および博物館に収蔵されている刺繍工芸品を平埔原住民族により再製する過程の観察、記録、聞き取り調査である。
 調査から得られた知見で重要なことは、G村落とS村落の文化復興の過程において刺繍を施した製品の真正性に対する考え方が異なることであった。
 G村落における文化復興のリーダーであるD氏の文化復興の戦略は歴史文献と博物館の衣装資料に基づいて、自民族の歴史と文化の連続性を示すことであった。すなわち、刺繍工芸をシラヤ族伝統文化に位置付けたうえで、刺繍の研修を推進し、村落に普及させる試みをおこなった。また、D氏は台湾の博物館のシラヤ族と関連性がある収蔵品に関心を持って、国立台湾歴史博物館と連携して台南市におけるシラヤ族の物質文化、特に衣装と記憶をめぐる幅広い調査をおこなった。その調査の結果に基づいて、シラヤ族の民族衣装一式を復元した。
 S村落の刺繍工芸の再興では、日常的に刺繍を制作することが重要視された。現在、S村落で制作される刺繍工芸品は2種類に分かれていた。それは、伝統行事である祭りの際に着用する衣装という販売できないものであり、もう1つは商品として販売する刺繍付きの小物である。
 これらは対照的な存在である。すなわち、タイヴォアンの刺繍製品と刺繍の模様を「祖先との繋がり」とみなして、刺繍製品の開発や販売に賛否両論が生じたことがわかった。
 両者が異なる過程を持った背景として考えられることは、G村落とS村落の文化復興の過程におこなう刺繍の実践および博物館との連携はリーダーの目的により異なった戦略を選んだことであった。G村落の文化復興のリーダーは文化の歴史的根拠を重視し、より広い「台南のシラヤ族が共通する物質文化」というイメージを構築しようとしていた。それに対して、S村落における文化復興のリーダーは自然災害後、生き残った村民たちの民族アイデンティティのよりどころを築くため、タイヴォアン族の文化的象徴となる刺繍を日常生活の中で結びつけることによって、民族表象を再生産し、エスニシティの可視化を試みていることが伺える。
 今後はこれまでの研究成果をより発展させ、民族内部のアイデンティティ形成の過程を明らかにするために、グループの間の相互作用をめぐる課題に取り組む。それが、積極的な包摂的社会環境の形成に結びついていることも視野に入れた研究を進めることである。

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