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助成対象詳細(Details)

   

2015 研究助成 Research Grant Program  /  (B)個人研究助成  (B) Individual Research Grants
助成番号
(Grant Number)
D15-R-0091
題目
(Project Title)
「シュンランの咲く里山」を実現する里山管理技術の開発―シュンラン繁殖生態の解明と高木樹種管理による林内環境改善手法の科学的検討―
Development of Management Methods to Conserve Cymbidium Goeringii in SATOYAMA: Clarification of its inhabiting processes and scientific verification after improvement of SATOYAMA by tree thinning
代表者名
(Representative)
黒河内寛之
Hiroyuki Kurokochi
代表者所属
(Organization)
東京大学大学院農学生命科学研究科
Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo
助成金額
(Grant Amount)
 1,500,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

市民団体等による里山管理においては、里山の多様な機能発揮のためにも、科学的裏付けのある管理方法の追究と普及は不可欠である。本研究では、長野県伊那市上牧里山において、地域に親しまれる里山環境創出のための、明るく伝統的な里山環境の代表的林床植物であり早春の着花が美しいシュンランの生育に適した森づくりの技術確立を目的とする。具体的には、市民団体「上牧里山づくり」メンバーと協力して、(a)シュンランの繁殖生態の解明と(b)高木樹種管理による林内環境改善策の検討提示を行う。(a)では、全域踏査によるシュンランの分布図作成と環境計測によるシュンランに必要な環境条件を推定するとともに、DNAマーカーを用いた全シュンランの遺伝解析による繁殖特性を解明し、シュンランの健全な繁殖を担保する林内環境条件を検討する。(b)では、過密な高木広葉樹林に設置した調査プロットで事前事後調査を伴う伐採を行い、また伐採後の萌芽更新プロセス追跡及び費用便益分析(木質燃料活用)を実施し、(a)で示したシュンラン繁殖に良好な林内環境の創出・維持に必要でかつ持続可能な管理指針を検討する。

SATOYAMA is a Japanese term and means a forest area located close to residential districts. In the SATOYAMA management by citizen groups, scientific evidences should be considered to some extent, so that they can benefit from it. Cymbidium goeringii is a typical forest floor plant in SATOYAMA, but its population sizes have been decreasing, because most citizens abandon the administration of SATOYAMA and its environmental condition is degrading for C. goeringii; for examples, nutrient-rich soil and low-intensity light. In the present study, I aim at developing management methods in order for C. goeringii to keep on inhabiting at Kamimaki-SATOYAMA, Nagano prefecture, Japan, with co-sponsorships of a citizen group operating there. At first, we will investigate the reproduction dynamics of C. goeringii through population genetic and ecological analyses. In addition, we will demonstrate how tall trees grow up with a stem analysis, and how a secondary forest regenerates and its surroundings change after tree thinning treatments in quadrats established in SATOYAMA. Moreover, cost and benefit analysis will be done for using wood biomass of tall trees in a sustainable way. By combining each of the results, we will discuss and suggest sustainable management methods to conserve C. goeringii in Kamimaki-SATOYAMA.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

実施報告書の概要

「シュンランの咲く里山」を実現する里山管理技術の開発
―シュンラン繁殖生態の解明と高木樹種管理による林内環境改善手法の科学的検討―


東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻
黒河内寛之

本研究では、「シュンランの咲く里山」の実現を目指し、シュンランの繁殖生態の解明と高木樹種管理による林内環境改善策の検討にむけ、2年間研究活動を実践した。その際、本研究で特に挑戦したかった里山管理を実践する住民団体との協働や次代を担う小学生との協働を通じた里山管理の連続性を地域において、科学の視点を加味して共有するという観点を見失わないように取り組んだ。
1年目は、シュンランの自生地と非自生地の比較調査を実施し、上牧里山ではシュンランがどのような林内に生息するのかを、主に、植物社会学的手法を用いて、一部、分子生物学的手法を絡めて検討した。その際、「上牧里山づくり」には調査区枠の設置、伐採試験地の整備、シュンランの分布調査に参加してもらった。「伊那北小学校」には、私の1年目の研究内容の手伝いをしてもらうという体で、5年生(当時)の全児童に、調査区内の植生調査・毎木調査、調査区内の開空度調査に参加してもらった。1年目の成果として、上牧里山においてアカマツやコナラといった過去の薪炭林や二次林がシュンランの生育と関わりが深そうであることが明らかとなった。さらに、森林の土壌細菌類がシュンランの生育に影響する可能性が出てきた。これらの1年目の結果を考慮すると、「シュンランの咲く里山」を伊那市上牧で維持するには、薪炭林や二次林の環境整備から始めるとよいのではないかと考えられた。一方、DNAに着目した研究は当初の予定が大きく狂ってしまった。今まで複数の樹木をはじめとして、真菌類、魚類でも解析に足る核DNAのマイクロサテライト部位に的を絞ったSSRマーカー開発に成功していたため、同様の方法を用いてシュンランのSSRマーカーを開発して、繁殖生態に関する解析精度を上げたいと思っていたが、全く成功の気配がなかった。にわかには、何故うまくいかなかったのか答えがわからなかったが、予算との兼ね合いでSSRマーカー開発は今回の研究では断念した。
2年目は、1年目のシュンランの分布傾向に関する研究・調査結果を受け、「上牧里山づくり」には今後モニタリングを行う調査区の選定、伐採木の処理に関わってもらった。特に、20m×20m程度の皆伐であっても伐採費用は162,000円に上り、薪として84,500円の収入があったものの、搬出に用いたトラックのレンタル費用に40,000円かかっており、高木処理にかかる金銭面の負担は、シュンランの自生地維持の取り組みへの大きな壁であることが推測された。「伊那北小学校」では、6年1組(当時)の児童が1年目の結果を受け考えた「シュンランの咲く里山」を上牧里山に作るために必要な「シュンランが好む環境を目指した里山管理の実践」、「上牧里山にある腐葉土の有効利用の可能性」、「地権者ごとに異なる里山の利用実態とシュンランの分布の関連について」、「上牧里山のシュンランの積極的保全に向けた移植方法の検討」、「上牧里山におけるシュンランの開花個体および結実個体の分布実態」の5つの研究課題に共に取り組み、年度末には保護者やメディアを交えた発表会を開催した。子供たちが研究の問題点に対する指摘をしつつ、今後も研究を発展的に続けてほしいと願う気持ちを感じ取れた。


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