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助成対象詳細(Details)

   

2015 研究助成 Research Grant Program  /  (A)共同研究助成  (A) Joint Research Grants
助成番号
(Grant Number)
D15-R-0447
題目
(Project Title)
カンボジアにおける妊娠女性による医療の選択と決定への主体的な参画の促進―母児の健康改善と不必要な医療介入の減少のために―
Women's Participation to Decision Making Process of Medical Interventions during Labour in Cambodia: Does it effectively reduce unnecessary interventions and improve maternal and neonatal health?
代表者名
(Representative)
松井 三明
Mitsuaki Matsui
代表者所属
(Organization)
長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科
School of Tropical Medicine and Global Health, Nagasaki University
助成金額
(Grant Amount)
 6,200,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

このプロジェクトは、カンボジアの妊娠女性が出産の際に行われる医療の決定に主体的に参画できるようになることを目標とする。具体的には、女性が医療サービスの内容、医療を受ける際の権利と義務を知り、出産の場面で医療従事者と対等の対話をできる環境を整えることにより、女性の尊厳が守られ、不必要な医療の減少と母児の健康向上に結びつくことを意図している。
 適切な保健医療サービスのためには医療従事者と利用者の対話が必要であるが、双方の関係性は構造的に非対称である。この是正なくしてサービスの適正化は望めない。出産の大半は正常に経過するため、積極的な医療を必要とする女性は少数に過ぎない。しかし途上国では、妊娠・出産のほとんどに過度とも言える医療行為が行われ、女性は身体的・精神的苦痛を受けている。残念ながら、女性はその状況を「しかたないこと」として捉えている。
 本研究では、地域の女性グループと協働し、医療を主体的に選択できるための妊婦学級を実施し、妊娠女性の意思決定を促進する環境をつくりだす。またプロジェクト開始時と終了時に女性の意識・知識・行動と、出産の際の医療行為の変化を調査し、介入の効果を測定する。

    This research project aims to improve maternal and neonatal conditions through reduction of unnecessary medical interventions during delivery and childbirth. To achieve this objective, sessions of group education will be carried out for pregnant women in cooperation with local "women's group" in Phnom Penh city, Cambodia.
    A large part of deliveries does not experience severe complications, which require invasive interventions. However, vast majority of pregnant women experiences a variety of unnecessary medical acts during their labour. It seems that the situation is accepted as "unavoidable" by pregnant women and considered as "necessary procedure" by health care professionals. Appropriate dialogue between the professionals and the users is a key component to make health care service better. However, the relationship between the two parties is structurally unsymmetrical. Women are always inferior to health professionals, especially in developing countries.
    This project expects to empower pregnant women by having appropriate knowledge on necessary medical acts in order to facilitate the dialogue with health care providers. This project is complementary to another intervention to health care providers, which aims to implement evidence-based and women-friendly care during labour and childbirth.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

このプロジェクトは、カンボジアの妊娠女性が出産の際に行われる医療の決定に主体的に参画できるようになることを目標として実施した。そのために妊娠中の女性に対して医療サービスの内容および医療を受ける際の権利と義務を伝えること、また医療従事者に対して女性の尊厳を大切にしたうえで不必要な医療の減少と母児の健康向上に結びつくための科学的根拠に基づいた医療の実践を定着させることの2点に取り組んだ。その背景には、多くの国において妊娠・出産の際に過度とも言える医療行為が行われ、女性は身体的・精神的苦痛を受けていることがある。同時に女性自身はその状況を「しかたないこと」として捉えている。それは医療の選択に参画することができないことが大きな理由と考えられる。
カンボジア保健省国立母子保健センターが作成した“Guidelines to Individualized Midwifery Care for Normal Pregnancy and Birth”(正常出産と出生に対する個別的な助産ケア実践ガイド)を基礎としてプロジェクトを実施した。対象地域をカンボジア首都プノンペン市内の公立保健センターとした。その理由は、カンボジアでの出産は90%以上が施設で行われていること、首都では比較的貧困層が公的医療施設を利用していることであった。
女性に対する情報提供は、ガイドに記載された「出産を理解してもらうために必要なQ&A」から抽出し、それを啓発資料としてポスターを作成した。当初は個別に配付できるパンフレットして作成を行う予定であったが十分な予算を確保することができなかったため、医療施設に貼付して妊婦健診の際に行われる母親学級で用いることができる教育ツールとした。これは後述する6カ所の医療施設で行った。
医療従事者を対象に正常出産時に提供すべきケアの実践に関する知識の確認を行った。分娩が月に平均20件以上ある17施設から分娩介助を行っている101名の助産師らを対象とした。正常出産に関する知識は平均54.1%と当初の想定より極めて低く、知識の改善が喫緊の課題と考えプロジェクト当初の2年間弱を上述ガイドに基づいた研修〜特に分娩経過中のケアの必要性と実践に費やすこととなった。この研修対象は、分娩数が月間30件以上ある保健センター6カ所に絞りこんで実施した。また医療従事者に対して必要な介入を検討するために質的調査を行ったところ、前述ガイドに記載されている個別的なケア実践のためには医療施設と機材の脆弱性が指摘されたため、施設のインベントリー調査を並行して行った。しかし、このプロジェクトでは施設そのもの、および医療機材への直接的な介入は行わず、改善案をプノンペン市保健局に提言するにとどめた。
女性に対する啓発、医療従事者に対する研修の効果を測定するために、啓発・研修実施前後における科学的根拠に基づく分娩時ケアの実践状況と、出生時の新生児の状態の変化を測定した。その結果、分娩経過中の胎児の状態観察は研修実施後に若干の改善をみたが、残念ながら統計学的に有意な差は得られなかった。また子どもの状態を測定するために臍帯血を採取しpHの研修実施前後での変化を測定したが有意な差は認められなかった。
このプロジェクトでの反省点は女性に対する啓発が不十分であった可能性である。妊娠中に、さらに個別性の高い啓発活動を行うことで、今後さらに妊娠・出産する女性が、より分娩時に必要なケアについて知識を持ち、医療従事者と適切な対話を行えるようになることが必要と考えた。

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