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助成対象詳細(Details)

   

2015 研究助成 Research Grant Program  /  (B)個人研究助成  (B) Individual Research Grants
助成番号
(Grant Number)
D15-R-0543
題目
(Project Title)
ポスト3.11の「日常世界」を映す「セルフドキュメンタリー」の力―市民の映像実践を通じた、災害経験の共有と「当事者性」の醸成―
The Power of "Self-Documentary" (Personal Documentary Films) to Reflect the "Everyday World "after the Great East Japan Earthquake: The process of sharing disaster experiences and fostering "insiders" through filmmaking by the citizens in post 3.11 Japan
代表者名
(Representative)
丹羽 朋子
Tomoko Niwa
代表者所属
(Organization)
人間文化研究機構
National Institutes for the Humanities
助成金額
(Grant Amount)
 1,600,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

本研究は東日本大震災の被災当事者が自らの「日常世界」を映す「セルフドキュメンタリー」に焦点をあて、撮影-編集-上映という映像実践における多様な参与者達の相互作用を考察する。これらの映像実践は災害の経験や記憶の共有を考える上で極めて重要であるものの、その調査・研究はいまだ寡少である。本研究は、「3.11映画」データベースの構築、これらを支援する映像アーカイブや映画祭の比較研究、個別の映像実践の微視的な経験的調査を融合させる。さらに映像人類学の手法を援用し、調査協力者と協働した上映ワークショップの企画・運営を通じてアクションリサーチを実施し、研究にフィードバックする。これはそれ自体が市民による映像実践をめぐる対話の場を創出する試みでもある。本研究を通じて、映像という記録媒体が多くの人々を巻き込む力をもって、「当事者性」や復興や社会問題を共に思考する「公共圏」を生み出す運動体となる過程を明らかにし、ポスト3.11時代の市民社会における映像実践の新たな価値として提示したい。

This study, using the method of visual anthropology, will review the possibility of " Self-Documentary" (individual, personal documentary films) created by the sufferers in the affected areas, visualizing their own "Everyday World" after the Great East Japan Earthquake. Although these visual practices are vitally important to consider the process of sharing disaster experiences and memories, there have been few researches about them. To find new value in visual practices of the citizens in Post 3.11 Japan, I will focus on interactions between various people by attending their filmmaking process including shooting, editing and showing films both in and out of Japan. Our project consists of 4 kinds of researches; construction of the database on "3.11 documentary films", comparative study of video archives and film festivals supporting them, ethnographic case studies of some specific practices of filmmaking by the affected in Sanriku and Fukushima, and an action research with such informants. Concretely we will hold Film-screening Workshops, collaborating with the Japanese and Chinese "Self-Documentary" filmmakers. I consider meaningful to make a platform for discussing the visual practices of the citizens of the two countries. This study will suggest that "3.11 Self-Documentary" had the power to involve many people and become a useful vehicle for constructing the "public sphere" in which various people can talk over "the insides of 3.11", "the recovery of the affected areas" and many other social problems.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

ある人の震災をめぐる経験や記憶はいかにして、その人固有の出来事でありながら、他者にとっても〈わがこと〉と受止め得るものになるのか。このような問いを掲げ、本研究は東日本大震災の津波被災と原発事故をめぐる私的な記録映像(以下、3.11映像)の活用実践について、次の3つを対象に調査を行った。(1)3.11映像の上映とアーカイブ化を担う諸団体の活動、(2)福島県の高校生が制作した映像・音声作品群の上映活動、(3)3.11映像を用いた各種展示実践。調査方法は関係者への聞き取りや参与観察記録に加え、制作者らとの協働による上映会開催等を試みた。
 また調査過程で浮上した、当事者経験を開く場としての展示や対話空間の創出、映像とは異なる演劇や朗読といった身体を用いた他者経験の表現という重要テーマについて比較研究するべく、(4)新潟県中越地震関連の展示交流施設、(5)水俣病関連の展示および記録映像・演劇等の表現実践、(6)中国北京市郊外の出稼ぎ労働者の集住地における私的博物館やテント芝居の調査も合わせて行った。
研究期間の最後には、調査協力者のうち特に10代の若者による3.11以後の日常の記録・創作・共有の活動に焦点を当て、4組の表現者を招いて「伝える技術」の工夫や苦労、表現活動の7年間の変遷等について対話する公開の上映・座談会(「あの日からとこれからの表現」、2018年4月、東京)を開催し、大学生やメディア関係者等も交えた活発な議論を行った。
 本研究が調査した3.11映像の活用実践では「当事者」の複数性、経験・記録の断片性、可変性が様々な手法で提示され、わかりやすい「一つの声」(「被災者」「福島」「復興」「未来のために」等)に集約・還元されることへ違和感や抵抗とともに、記録者-被写体-観者の相互浸透や協働性を重視する姿勢が顕著にみられた。従来、災害等の私的記録は固定的で個人所有とみなされるがゆえに、それを公的機関等が「防災」「復興」等の一元的な目的や物語に取り込む暴力性が批判されてきた。これに対して上映会や展示は、多様な参与者の声や身体を介在させることで、私的記録映像を新たな形で開き、多くの他者の「今・ここ」の経験と交差させる仕掛けとなり得る。さらに各活用実践はそれ自体が一回的な出来事として記録の対象となり、次なる映像アーカイブへと組み込まれたり、演劇等別の表現形式へと変換される等の転生を遂げていく。このような震災経験の「語りなおし」の連環を通じて、被災からその記録実践までを含む一連の経験が、記録者や被災地住民のみならず、より広い時空間における人々によって分有される可能性が開かれる。その際に重要なのは、不和や違和を含めて複数の異質な他者の視点が書き込まれ得る余地(関わりしろ)を生む工夫であり、そのような活用実践によって、単なる同情や共感を超えた他者の視点を含み込んだ「仮設的な思考の幅」[斎藤2000]の広がり−−他者への想像力−−が促されることが見出された。

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