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助成対象詳細(Details)

   

2016 研究助成 Research Grant Program  /  (B)個人研究助成  
助成番号
(Grant Number)
D16-R-0103
題目
(Project Title)
市民科学によるオープンデータを用いたグローバルな生物多様性の評価
Global Biodiversity Analysis Using Open Wildlife Data from Citizen Scientists
代表者名
(Representative)
鈴木 紀之
Noriyuki Suzuki
代表者所属
(Organization)
高知大学農林海洋科学部
Faculty of Agriculture and Marine Science, Kochi University
助成金額
(Grant Amount)
 800,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

    近年、スマホやGPSの爆発的な普及により、世界各地で撮影された生き物の写真が地理データとともにウェブ上で公開されている。しかし、こうした市民データが生物多様性の研究に利用されることはほとんどない。そのため、市民は科学的貢献を意識しておらず、「市民科学」という本来の目的とは矛盾している。そこで本研究では、オープンデータベースを駆使し、生物多様性の価値を評価することで、市民参加型の生物調査に科学的な価値をもたらすことを目的とする。国内外のウェブサイトから各データ(種類・場所・時期)を抽出し、「種内の多様性が高い種類は、より多くの環境を利用し、より広い範囲に分布している」という仮説を検証する。本研究によって市民調査と科学の成果がつながれば、細分化によって乖離してきたプロの研究者と市民にとっての生物学が再び合流することが期待される。その結果、いっそう調査が活性化され、さらにデータが蓄積し、より精度の高い解析が可能になるだろう。この好循環を創出することで、スマホやデジカメなどを介して市民が自然をより身近なものに感じ、地球上の生物多様性の恵みを享受し続けていくための基礎を作ることを目指している。

    Recently people can take pictures of animals and plants by using smartphones and cameras and upload them to websites with GPS data. However, such big data on the distribution of wildlife have not adequately applied to biodiversity sciences and thus citizen scientists, paradoxically, do not intend contribution to the scientific progress. In this study, I evaluate the function of biodiversity by using open data on wildlife distribution to create new value for citizen science. Specifically, I compare the distribution range and environmental heterogeneity between high- and low-diversity species to examine how diversity within species affects ecological success. By this approach, I hope to further stimulate biological survey by citizen scientists and thus create the better future for people and the natural environment in the world.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

1)プロジェクトの概要

近年、スマホやGPSの普及により、さまざまな場所で撮影された生き物の写真が地理データとともにウェブ上に公開されている。しかし、このような市民による生物調査のデータが生物多様性に関する最先端の研究に利用されることはほとんどない。そのため、市民は調査において明確な科学的貢献を意図しておらず、「市民科学」という本来の目的とは矛盾している。実際に、参加型の調査では市民のモチベーションの低下が問題となっており、生物のデータを収集する一部のサイトでは十分なデータが集まらずに機能していない。
 そこで本研究では、市民参加型の生物調査を集計している国内外のウェブサイトのデータベースを駆使し、生物多様性の価値を定量的に評価することで、市民参加型の生物調査に科学的な価値をもたらすことを目的とする。具体的には、ある生物の「種内に含まれる多様性」が、その種の繁栄にどのように貢献しているか検証した。多様性の高い種は、環境の変動にうまく適応したり、さまざまな資源(エサなど)を分け合いながら効率よく利用することができる。その結果として、多様性の高い種は、より多くの環境を利用し、より広い範囲に分布を拡大している可能性がある。本研究ではこの仮説を検証するため、特定の分類群ごとに「多様性のある種」と「多様性の低い種」に分けて、「分布の広さ」や「絶滅リスク」などを比較した。

2)成果物

市民参加型の生物調査を取りまとめるサイトとして、「iNaturalist」がある。これらのサイトは英語で運営されており、今のところアメリカとイギリスからの参加者が多いものの、世界中の市民からのデータが増え続けている。これらのサイトでは、撮影または採集された生物の写真とその日時と場所が登録されている。 また、公的機関としては「Global Biodiversity Information Facility(GBIF)」が博物館の標本や科学調査のデータなどを元にして生物の記録を集積している。さらに、希少種(絶滅に瀕している種類)に限れば、国際自然保護連合(IUCN)による「Red List」も網羅的である。これらのデータベースはウェブで公開されており、自由に科学研究に利用できる。そのため、これらのデータを一括して抽出し、それぞれの種類の分布や出現時期を把握した。
 イトトンボの仲間では、対象とした3つの属(genus)において、すべて「多様性のある種のほうが多様性のない種よりも分布域が広い」という傾向が見られた。これらのパターンは、脊椎動物(鳥類、哺乳類、両生類、爬虫類)でも一貫して観察された。これは、私によるチョウ類を対象にした先行研究の結果とも一致している。そのため、生態学的に普遍的な傾向であることが示唆された。
また、イトトンボの仲間ではレッドリストに掲載されている種類が多かったので、多様性のある種と多様性のない種で絶滅リスク(レッドリストのカテゴリー)を比較した。その結果、絶滅リスクの高い種はほとんど多様性のない(成虫の体色に個体変異がない)単型種であったのに対し、多型種のほとんどは絶滅リスクのないいわゆる「普通種」であることが分かった。
本研究の成果は、市民科学に由来する生物データが生物多様性の研究に有効であることを示している。また、日本国内にとどまらず、海外で得られたデータにアクセスし、グローバルな解析もできることを示した。ただし、十分な生物情報があるのは北米やヨーロッパなど一部の国々、そしてチョウやトンボといった一部の目立つ分類群に限定されている。今後は、地域・分類群ともに生物情報が拡大し、生態学的ビッグデータを扱える時代となることが期待される。


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