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助成対象詳細(Details)

   

2016 研究助成 Research Grant Program  /  (B)個人研究助成  
助成番号
(Grant Number)
D16-R-0176
題目
(Project Title)
バングラデシュ北東部の湿地におけるスナドリネコと人と軋轢緩和に関する研究―軋轢の基礎調査と軋轢緩和における住民参加型調査の可能性―
Mitigation of Conflict between Local Community and Fishing Cats in Hail Hanor, Northeastern Bangladesh: Interdisciplinary survey on conflict and possibility of participatory research in conflict mitigation
 
代表者名
(Representative)
鈴木 愛
Ai SUZUKI
代表者所属
(Organization)
首都大学東京 都市環境科学研究科
Graduate School of Urban Environmental Sciences
助成金額
(Grant Amount)
 1,400,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

    絶滅危惧種スナドリネコは、漁りねこ・Fishing catと名前が表わすように、場所によっては餌の8割を魚に依存し、湿地を好むとされる。バングラデシュ北東部の湿地はスナドリネコにとって重要な生息地である。しかし、同国の保全努力はトラに偏っており、スナドリネコは保全計画もないまま、2010-2013年の間に少なくとも82個体が捕殺されている状況にある。そこで、本研究では地域住民とのスナドリネコの軋轢緩和を目的とし、スナドリネコ(食性と生息地利用)と地域住民(経済的損失やスナドリネコに対する認識など)の両側から調査を行う。そして、その結果に基づき、即効性が高い軋轢緩和策を立案し、実施・検証する。さらに、タンパク質源の50%近くを淡水魚に依存するバングラデシュでは、人にとっても湿地は生命線で「動物は森、人は里」のような地理的住み分けは困難である。そのため、長期的かつ根本的な軋轢緩和策には、地域住民のスナドリネコに対する認識・価値の変化が不可欠であると考える。そこで、住民の認識の変化を促しうる一つの試みとして住民参加型の調査を実施し、効果を検討する。

    The fishing cat (Prionailurus viverrinus) is distributed from Southeast Asia, Nepal and Sri Lanka to India, and strongly associated with wetlands. Large wetlands in northern Bangladesh including Hail Hanor are one of the last remaining habitats and the strongholds of this species. Despite the global significance, conservation of fishing cats in Bangladesh has received very little attention whereas tigers receive international attention. Without having action plan, at least 82 fishing cats were killed between 2010 and 2013; at least 16 were killed in Hail Hanor alone between 2010 and 2012 in the conflicts with local people. The most urgent issue in this endangered cat conservation would be to reduce the number of killing in one of last remaining habitats. 
    Therefore, this project aims to mitigate conflicts between fishing cats and local community by achieving three objectives: (1) to investigate the conflicts using an interdisciplinary framework in human-wildlife conflicts, natural science for fishing cat ecology (diet and habitat use) and social science for local community (magnitude of the conflicts including economic loss, and perceptions and attitudes toward fishing cats), (2) to test conflict mitigation measures based on conflict survey, expecting to see an immediate effect, and (3) to explore the possibility of participatory research/survey in changing people's perception and attitude toward fishing cats, as a long-term and fundamental mitigation measure. 

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

人との共存は食肉目の保全における大きな課題の一つである。小型のネコ科動物であるスナドリネコにとっても、生息地である湿地の消失・劣化に加えて、湿地周辺に住む人々との軋轢は大きな脅威となっている。バングラデシュ北東部の内陸湿地はスナドリネコにとって重要な生息地であり、地域住民との湿地の魚や家禽をめぐる軋轢によるスナドリネコの捕殺がバングラデシュ国内の中でも特に多いとされている。

そこで本研究では、スナドリネコとの人との共存にむけ、バングラデシュ北東部に位置する内陸湿地の一つを対象地域とし、まず(1)軋轢の現状を把握し、(2)即効性が高い解決策を模索した。同時に、根本的な軋轢の緩和策の模索として、(3)これらの調査研究に地域住民が実際に参加し、その結果を自らの言葉で他人に伝える機会を持つことで、スナドリネコに対する認識の変化につながる可能性があるかを検討した。それぞれの概要および今後の展開を以下に述べる。

(1)軋轢の現状の把握
軋轢の現状把握として、特にスナドリネコと人との食べもの・利用場所の重複と、地域住民のスナドリネコに対する捕殺意図に着目した。スナドリネコと人との重複については、住民が特に重要だとした上位10種のうち、スナドリネコの餌動物としてフンから検出されたのは1種であった。スナドリネコの分布予測からは湿地林の重要性が示唆されたが、残存している湿地林はどこも人による人為的圧力は高く、保全上の大きな懸念が明らかになった。地域住民はスナドリネコによる経済的な損失のリスクは低いと認識していた。捕殺する意図形成に大きく寄与していたのは主観的規範であった。これにより、研究地域におけるスナドリネコの捕殺は、ニッチの重複に伴う経済的損失よりも、他の要因が大きく寄与していると考えられた。

(2)即効性の高い解決策の模索
軋轢の現状把握から、経済的な損失の減少を促すことは必ずしも地域住民と人々の関係の改善に結びつかないと考えられた。世帯の現金収入獲得における家禽への依存度も低く、自給自足における重要性も、海外への出稼ぎや村外での労働が増加しているため、今後は低くなる可能性もあると考えられた。さらに、主観的規範に加えて、スナドリネコに対する恐怖心が捕殺する大きな要因であった。このトラと同一視する傾向は小学校低学年ですでに確認された。そのため、即効性の高い解決策として、経済的な損失を減少させる方法よりも、スナドリネコへの恐怖心に対するアプローチの模索に重点を移した。

(3)軋轢の緩和策における参加型調査の可能性の模索
想定以上に湿地の踏査を続けることができる住民や学生は少なかったが、その中で調査を続けてくれた地域住民の意識の変容を観察し、聞き取りを行うことができた。長期間調査に参加することにより、調査チームとのラポートが構築された。認知から行動までの乖離は確認されず、すぐに行動の変容が見られた。環境教育という形ではなく、自分自身で新しい知見を発見していく場を提供することで、認知―行動モデルにおける外的情報から認知のプロセスの質を向上させることができると考えられた。

(4)今後の展開
本研究を実施したことにより、スナドリネコに好意的な地域住民が出てきたり、地域の学校との共同イベントはメディアで取り上げられた。また、調査に参加した学生も2名は、スナドリネコと人との軋轢研究を続けるために日本で博士課程に進むことが決まった。そして、スナドリネコの捕殺を実際に減少させるためには、地域で活動を継続・拡大していく必要があると考え、一般社団法人を設立した。今後も、現地の学生や小学校と協力しながら、研究結果を地域での実践にいかしていく予定である。


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