HOME

助成対象詳細(Details)

   

2016 研究助成 Research Grant Program  /  (B)個人研究助成  
助成番号
(Grant Number)
D16-R-0320
題目
(Project Title)
カンボジアにおける「慰霊の空間」と負の記憶の継承儀礼に関する研究 ―「負の出来事の当事者性」の把握とアクティブデータべースの構築―
The Study of Transferring Events of Negative Memories at the Public and Local Memorial Spaces in Cambodia: Recognition of "the positionality of negative events" and conducting the formation of an active database
代表者名
(Representative)
牧野 冬生
Fuyuki Makino
代表者所属
(Organization)
早稲田大学アジア太平洋研究センター
The Institute of Asia-Pacific Studies at Waseda University
助成金額
(Grant Amount)
 1,400,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

    カンボジアでは1975-79年のクメール・ルージュ政権下において大量虐殺を経験し、クメール・ルージュ失脚後から37年という時間が経過して、経済成長という新たな時代に入った。現在、クメール・ルージュ時代の体験的知識を持つ高齢世代(60~70代)と、若年世代(20~30代)の間に大きな知識・認識ギャップが存在している。しかし、新たなシニア世代の「負の語り」の湧起によって、その方向性が徐々に変化している。そこでは、加害者と被害者という二者間のコンテクストではなく、「時代の語り部」として相互が役割を認識し、「負の出来事の当事者性」という新たな共通認識によって二項対立構造を抜け出すローカル知が見て取れる。
    本研究の目的は、「負の記憶を次世代へ引き継ぐ」という新たなフェーズを認識した時代において、公的な慰霊の空間とローカルな慰霊の空間の調査から、具体的生活の中で二項対立的な構造がどのように語られつつ内面化されてきたのか調査する。そして現在進行している「共通の当事者性」という共通認識から、負の記憶の継承を可能とするアクティブデータベースを構築する。

    From 1975 to 1979, Cambodia experienced genocide under the Khmer Rouge regime. Thirty-six years have passed since then, Cambodia has just started and rode the wave of high economic growth. A significant knowledge gap exists between the parent generation (50s-60s), who possesses experiential knowledge, and the younger generation (20s- 30s). Currently, this gap is gradually decreasing due to the narratives of the new senior generation. There is a detachment from the dichotomy between the perpetrators and the victims, through a new and common recognition of "the positionality of the negative event" that does not exist in the context of the dichotomy but in that of a mutual recognition of their roles as narrators of that period. Here, one can witness the attempt to utilize local knowledge while reviving social life and passing on "negative memories" to the next generation.
    This study aims to examine how the dichotomy between the perpetrators and the victims has been described and how it has been internalized in practical daily life, by conducting survey of the public and local memorial space (comforting the spirit) and by recognizing the new phase of the "transfer of negative memories to the next generation." Furthermore, based on the current increasingly mutual recognition of the "common positionality of the negative event," we suggest the formation of an "active database of negative memories to the next generation."


 

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

本プロジェクトでは、カンボジアの各地に点在する慰霊の空間において人類学的フィールド調査を実施し、「負の記憶に関する儀礼」と「負の記憶の継承プロセス」を調査した。また、「負の出来事に関する当事者性」の把握を行うとともに、アクティブ・データベースの構築を行った。具体的には、慰霊の空間に関わる各種文献調査、現地での実地調査、カンボジア研究者との打ち合わせ、インフォーマント(クメール・ルージュの被害者等)へのインタビュー調査、カンボジアの大学生へのアンケート調査等が含まれる。
 まず、公的な慰霊の空間としては、チュンエク大量虐殺センター(通称キリング・フィールド)、トゥール・スレン虐殺犯罪博物館、タ・モク自邸(アンロンベン博物館)の三カ所が主なものである。着目すべき点としては、かつてポル・ポト派の強い勢力下にあったアンロンベンの公的な負の遺産の表象は、使用される文言や展示内容などに特徴が見られ、プノンペンにある二つの博物館とは大きく異なるものであった。
 ローカルな慰霊空間の調査は、事前調査によりインフォーマントとの関係が十分に築かれていたスバイ・リエン州の2ヶ所の寺院と、寺院に隣接するローカルな慰霊空間を中心に実施した。ここでは、負の記憶に関する農村と寺院による共同儀礼と、記憶の継承プロセスを把握することができた。ローカルな慰霊の場は、信頼関係を築きにくい者同士が関係をつなげる寛容性を長期の時間をかけて滋養してきたことがわかった。
 公的な負の遺産とローカルな負の記憶を継承するデータベースの作成に関しては、テスト版を2018年12月にリリースして研究者間で運用を行い、現在はベータ版を経て正式リリース版を運用している。また、上記のフィールドワークで得られた知見を共有しながら批判的な議論を行うことを目的にカンボジアで研究会を開催し、負の遺産の分析の際に重要となる前提条件と、ローカルな慰霊の場の構成要素について議論を重ねた。理論的な成果として論文雑誌への投稿を行い、プロジェクトの成果を社会に発信することに努めた。

ホームページへのリンク ◆トヨタ財団WEBサイト内関連記事