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助成対象詳細(Details)

   

2016 研究助成 Research Grant Program  /  (B)個人研究助成  
助成番号
(Grant Number)
D16-R-0439
題目
(Project Title)
ヤマビル対策のフィールドワークを通じた人間と動物の「共生」概念の再構築―トラブルに関わり続けるプロセスとしての「共生」―
Living with a "Troublesome" Species: Emerging ways and skills to coexist with yamabiru (mountain leech) in Japan
代表者名
(Representative)
渡邉 悟史
Satoshi Watanabe
代表者所属
(Organization)
成蹊大学文学部
助成金額
(Grant Amount)
 800,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)


    「人新世」と呼ばれる現代においては、気候変動や環境の改変、社会の変容によって世界中で生物の生息域が変化し、人間との新たな接触領域が現れつつある。その生物には人間にとって有害であったり、不快であったりという「付き合いにくい」生物たちも多く含まれている。本研究が探求するのは、こういった生物たちと共に暮らすための技法や価値観が現代日本の現場でどのように生み出され、どういった資源やネットワークが有効に機能するのかという疑問である。現在、日本全国各地で拡大しているヤマビル被害はこの疑問に対して重要な示唆を与えるものである。本研究は、行政・地域住民・専門家がヤマビルに対して行う実践を事例研究によって明らかにする。地域住民の生活圏内からヤマビルが消滅することは現実的でなく、住民は彼らとの付き合い方を長期的な視野で考えながら、複数の矛盾や不確実性の中で意思決定をしていかざるを得ない。スタティックな棲み分けではなく、トラブルを抱え込むことを前提とした関わり合いのプロセスとして「共生」を捉えなおす本研究の試みは、人間動物関係だけでなく、分断線が無数に引かれつつある現代社会に対して新たな価値を示す。

    In the "Anthropocene," many non-human species have changed or expanded their habitat due to ongoing environmental and social changes. As a result, new contact zones between human and non-human species have appeared around the world. Some non-human species are harmful or poisonous for humans. This research aims to study how humans are attempting to live with these "troublesome" species. Recently, yamabiru, or the mountain leech (Haemadipsa zeylanica japonica), have proliferated in prefectures across Japan. Since it is unlikely that they will disappear from the living spaces, fields, and forests that humans inhabit, humans have devised new ways and skills to coexist with them. By conducting fieldwork on this this problem, this research will (1) outline the roles played by experts and local governments and residents in dealing with this yamabiru problem, and (2) elucidate the emerging values, norms, and networks among people that enable them to coexist with yamabiru. For example, the people living in a district in Kanagawa prefecture, located in the west side of Tokyo, where I have been conducting my preliminary fieldwork, have started their own monitoring project to obtain the detailed information on yamabiru's mode of life so that they can avoid blood feeding and keep pesticides usage to a bare minimum. This preliminary research shows that this problem allows us to reconsider the concept of "coexistence." Coexistence with yamabiru, in this context, means not living separately and therefore harmoniously, but living with trouble in the contact zone, without making clear-cut borders between human and non-human zones. Insights from this research may bring to light new information that will be of value to contemporary Japanese society, where numerous borders that divide people and social groups are being drawn.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

「人新世」と呼ばれる現代においては、気候変動や環境の改変、社会の変容によって世界中で生物の生息域が変化し、人間との新たな接触領域が現れつつある。その生物には人間にとって有害だったり、不快であったりという厄介な生物たちも多く含まれている。本研究が探究するのは、こういった生物たちと共に暮らすための技法や価値観が現代日本の現場でどのように生み出されているのかという疑問である。
 現在、日本全国各地で拡大しているヤマビル被害はこの疑問に対して重要な示唆を与えるものである。本研究は神奈川県秦野市、伊勢原市、清川村、静岡県浜松市、秋田県秋田市、新潟県阿賀町においてフィールドワークを行うとともに、複数の寄生虫学者や農学者への取材を行った。つまりヤマビルをめぐってマルチ・サイテッドなフィールドワークを展開したことになる。
地域住民の生活圏内からヤマビルが消滅することは現実的ではなく、住民は彼らとの付き合い方を長期的な視野で考えながら、複数の矛盾や不確実性の中で意思決定をしていかざるを得ない。そこでは、スタティックな棲み分けを志向しつつも、トラブルを抱え込むことを前提とした関わり合いのプロセスも生きられるものとなる。こういった視点から現代の「共生」を捉えなおすのが本研究のミッションである。
「人間の領域」を簡単に「侵犯」してくるこの生き物との生活はいかなる経験をもたらすものなのだろうか。本研究は現場の人々にとってこの問いはまださまざまな実験に開かれているということ、そしてかつての「人間の領域」――生活・生産の場から身体まで――こそ、その実験場に姿を変えつつあるということを、ヤマビルをめぐる各地の騒動を点描しながら示した。
とくに、行政・地域住民・専門家がヤマビルに対して行う実践をエスノグラフィックに検討した結果、明らかになったのは次の諸点である。第一に、未知かつ有害な存在――ここではヤマビル――が、人々にとって「自然」との付き合い方を考え直す契機となり得ることを示した。第二に、人々の行動変容は、厄介な生物との関係変容によってもたらされる可能性を示した。行動変容は、単にヤマビルに対する認識の変化ではなく、殺す―殺される、吸血される―吸血する、寄生される―寄生する、という関係から人間とヤマビルは逃れられないとしても、そのハイフンに身体や(「恐怖」以外の)感情、記憶、科学的知識、地域経済、ジェンダーが絡まることで増殖していく関係のバリエーションの中で展開されている。
今般の状況下で本研究が持つもっとも大きな示唆は、じつは新型コロナウイルス禍のような課題への対処法は、すでにさまざまな形でローカルに展開され、試行錯誤されてきたかもしれないということ(もちろん直接に有用・適用可能であるわけではない)、そして、そういった知恵を総合していくような学術が必要とされるということであろう。


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