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助成対象詳細(Details)

   

2016 研究助成 Research Grant Program  /  (A)共同研究助成  
助成番号
(Grant Number)
D16-R-0611
題目
(Project Title)
母子保健における「標準化像」の形成過程に関する歴史的研究
A Historical Study on the Construction of a Standardized Image in Maternal and Child Health
代表者名
(Representative)
由井 秀樹
Hideki Yui
代表者所属
(Organization)
立命館大学衣笠総合研究機構
Kinugasa Research Organization, Ritsumeikan University
助成金額
(Grant Amount)
 4,100,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

    少子化対策が喫緊の政策課題として議論されている。そのなかで、母子保健は重要な位置を占める。母子保健では母子の標準化像が前提にされ、そこからの逸脱が人々の生殖行動に影響を及ぼすことが想定できる。本研究は、日本の母子保健史において、どのように今日の標準化像が形成されてきたか検討し、これまでの母子保健を批判的に総括することを目的とする。
    妊産婦の身体管理や優生思想といった観点から、批判的に母子保健史がとらえられることはあったが、本研究では「不妊相談」「男性の関与」「外国人の母子」「発達障害」「乳児への栄養」「虐待防止」という軸を設定する。この6軸それぞれを共同研究者間で割り振り、資料分析を通し1960年代から2010年代までの歴史を記述し、最終的に各々の軸を統合した母子保健史を完成させる。
    本研究は、これまでの母子保健を含む少子化対策を批判的に総括し、今後の施策・実践を議論する足がかりとなる。のみならず、時間軸に位置づけられた今日の標準化像が、妊産婦、子、父などのアクターに実際にどのように作用しているか、といった、より実践的な課題をあぶり出す研究などにもつながる。

    The declining birth rate is seen as a highly important political issue, and in its context maternal and child health are very much emphasized. Maternal and child health works with a standardized image of mother and child. Such an image may have an influence on the reproductive behavior of those who deviate from it. This project aims to consider how the standardized image of today has been constructed, and to critically recapitulate the history of maternal and child health.
    The history of maternal and child health has been discussed critically from the viewpoints of women's bodily autonomy and eugenics. This project sets up 6 themes, "infertility consulting", "men's participation", "non-Japanese mothers and children", "developmental difficulty", "nutrition in infancy", and "prevention of child abuse". Each project member will trace one or two of these themes from the 1960s through the 2010s. We will then complete a history of maternal and child health by integrating these multiple axes.
    The results of this project will provide a basis for the reappraisal of past countermeasures to the declining birth rate, including maternal and child health, and for the discussion of future policy and practice. In addition, the historicization of today's standardized image of mother and child, which will be accomplished by this project, may inspire more practically-oriented studies asking, for example, how this image affects actors including mothers, children, and fathers.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

Ⅰ. 研究内容の概要
 本プロジェクトでは、これまでの母子保健が何を前提にし、いかなる規範を生成してきたのか、言い換えれば、何が見逃されてきて、そのことによってどのような葛藤経験が個々の妊産婦(及びそのパートナー)や乳幼児にもたらされてきたか/もたらされてこなかったか、という面から近現代日本の母子保健の歴史を検討した。その際、特に社会科学系の研究でこれまで取りこぼされてきた、あるいは、研究が手薄な母子保健史のトピックに焦点をあて研究活動を行ってきた。
本プロジェクトが注目した「取りこぼされてきた、あるいは研究が手薄な」トピックは、以下の通りである。すなわち、不妊対策、へき地の母子保健と乳児死亡、外国人母子への支援、出産への夫の関与、児童虐待、「奇形児」の出生、母子の一体化と国民の「質」の関係性である。
 本プロジェクトの成果は、個別の学会報告や論文に加えて、『トヨタ財団研究助成「母子保健の『標準化像』の形成過程に関する歴史的研究」報告書 母子保健史の間隙――母子保健は人々に何をもたらしてきたか』(以下、「報告書」)にまとめ、この「報告書」をもとに、日本保健医療社会学会第45回大会のラウンドテーブルディスカッション「母子保健の近現代――母子保健は何を前提にし、いかなる規範を生成してきたか」を企画し、発表した。また、本プロジェクトの特徴として、研究活動とともに、研究成果の社会への還元を意識し、「連続市民講座 少子化社会の妊娠・出産・子育てを考える」を4回実施し、一般の方も交え、議論を行ってきた。
 「報告書」の構成は以下の通りである。
第1章
母子保健政策における不妊対策と「適正」な妊娠・出産年齢をめぐる近現代史(由井秀樹)
第2章
1950-60年代の岩手県における乳児死亡率低減と人工妊娠中絶(木村尚子)
第3章
1960-1970年代の青森県下北半島における母子保健の展開と地域社会  ―へき地のお産をめぐる問題点と可能性―(木村尚子)
第4章
保育所・児童養護施設における外国人児童家庭の支援に関する調査研究から母子保健施策の整理へ(松島京)
第5章
夫の出産への立ち会いからみる出産介助の現代史(由井秀樹)
第6章
新聞における児童虐待記事と事件報道の推移 ―2000年から2018年の「児童虐待」報道に関する『読売新聞』と『朝日新聞』の分析から―(笹谷絵里)
第7章
「奇形児」の出生をめぐる対応 ―1920 年代後半から1960 年代の助産婦・産科医の立場に注目して―(伏見裕子)
第8章
日本の母子政策の歴史 ―環境改善と遺伝的改善による「質の向上」に着目して―(笹谷絵里)

各々のトピックを繋げることで、(1)母子の一体化、(2)生殖の計画性、 (3)負担と(母子)保健体制の充実の引き換え、 (4)矯正と排除のせめぎ合い、(5)逸脱者とみなされた存在の包摂のあり方、(6)妊娠・出産・養育文化の相違、という論点がみえてきた。これらの論点は、今後、よりよい母子保健政策、実践のあり方を考えるための補助線となり得える。その意味で、社会の新たな価値を生成するための素地を提供しているといえる。

Ⅱ. アウトプットに関する成果
学会報告
由井秀樹「『健やか親子21』以降の母子保健政策における不妊対策の展開」,査読有り,第27回日本家族社会学会大会(2017年9月)

木村尚子「戦後の「赤ちゃんコンクール」と母子保健における「標準化像」の形成」,査読有り,ジェンダー史学会第14回年次大会(2017年12月)

伏見裕子「障害の早期発見・早期対応をめぐる歴史―「大津方式」における自閉症児の母親への対応に着目して―」日本女性学研究会近代女性史分科会(2017年11月).

伏見裕子「発達障害の「早期発見」をめぐる歴史―「大津方式」における自閉症児の発見と母親の役割―」日本女性学研究会近代女性史分科会(2018年2月)

松島京「外国人の子ども家庭支援と日本の母子保健施策をめぐって」日本保健医療社会学会第44回大会(2018年5月)

伏見裕子「「奇形児」の出産をめぐる対応について:1950年代を中心に」日本女性学研究会近代女性史分科会 (2018年7月)

由井秀樹「『科学的知識』としての『適正な』生殖年齢の啓発をめぐる近現代史」第22回科学史西日本研究大会(2018年12月)

笹谷絵里「日本の母子政策の歴史―環境改善と遺伝的改善による「質の向上」に着目して
」第22回科学史西日本研究大会(2018年12月)

Hideki Yui, "The measures to raise fertility rates and maternal and child health policy in Japan: “Appropriate” age for reproduction" Population and Reproduction in Japan: From the Perspective of Global History Workshop (August 2018)

伏見裕子「障害児の出生と女性」世界人権問題研究センタープロジェクト4共同研究会 (2019年3月)

由井秀樹「夫の出産への立ち会いからみる出産介助の現代史」医学史研究会例会(2019年4月)

由井秀樹・伏見裕子・松島京・木村尚子・笹谷絵里「母子保健の近現代――母子保健は何を前提にし、いかなる規範を生成してきたか」(ラウンドテーブルディスカッション)日本保険医療社会学会第45回大会(2019年5月)


市民講座
第1回
 テーマ:不妊と社会的養護
 話題提供者:由井秀樹、安藤藍(ゲスト・首都大学東京助教)
 日時・場所:2017年10月15日 京都市生涯学習センター山科

第2回
 テーマ:社会的養護における外国人への支援
 話題提供者:松島京・荒岡孝子(ゲスト・立川児童相談所 児童福祉担当課長代理)
 日時・場所:2018年3月10日 日本女子大学目白キャンパス 百年館低層棟206教室
 *「養子と里親を考える会」との共催。当日の逐語録、資料は同会の『新しい家族』第62号に掲載。

第3回
 テーマ:障害と出産・出生
 話題提供者:伏見裕子・利光惠子(ゲスト・立命館大学客員研究員)
 日時・場所 2018年10月28日 NPO法人SEAN 生きがい工房

第4回
 テーマ:へき地のお産
 話題提供者:木村尚子・青野昌代(ゲスト・青森県東通村いきいき健康推進課保健師長)
 日時・場所 2019年2月10日 NPO法人SEAN 生きがい工房

論文等
伏見裕子「『奇形児』の出生をめぐる対応――1920 年代後半から1960 年代の助産婦・産科医の立場に注目して」『大阪府立大学工業高等専門学校研究紀要』第52巻(2018年)

笹谷絵里「日本の母子保健政策の歴史――環境改善と遺伝的改善による「質の向上」に着目して」『徳島科学史雑誌』第37号(2018年)

伏見裕子「障害児の出生に人々はどう向き合ってきたのか」GLOBE 96 ( 2019年)

由井秀樹「母子保健政策における不妊対策と家族形成をめぐる現代史」『福祉社会研究』第19号(2019年)

由井秀樹「現代社会における妊娠・出産の意味」『世界の児童と母性』第85号(2019年)

木村尚子「1950-60年代の岩手県における乳児死亡率低減と人工妊娠中絶」『広島修大論集
』第65巻第1号(2019年)

報告書
母子保健史プロジェクト編集・刊行『トヨタ財団研究助成「母子保健の『標準化像』の形成過程に関する歴史的研究」報告書 母子保健史の間隙――母子保健は人々に何をもたらしてきたか』2019年


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