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助成対象詳細(Details)

   

2016 研究助成 Research Grant Program  /  (B)個人研究助成  
助成番号
(Grant Number)
D16-R-0798
題目
(Project Title)
教育開発と「逆向きジェンダーギャップ」に関する社会経済学的研究―フィリピンの事例―
A Socioecomomic Analysis on Reversed Gender Disparity in Education from Development Studies Perspective: A case from the Philippines
代表者名
(Representative)
岡部 正義
Masayoshi Okabe
代表者所属
(Organization)
共立女子大学国際学部
Faculty of International Studies, Kyoritsu Women’s University
助成金額
(Grant Amount)
 1,300,000
企画書・概要 (Abstract of Project Proposal)

    本研究の目的は、①途上国一般とは逆に男子の教育水準が低いとされるフィリピンを対象に、②その「逆向きのジェンダーギャップ」が存在する背景を説明する枠組みを、現地調査を通じて探索的に構築することである。これまで、開発論のジェンダー分野では、女子教育振興が注目されてきたが、近年は男子の問題が注目されようとしつつある。本研究は、男女間で男子が不平等だと各種指標で示されるフィリピンを対象とし、③主要先行研究が対象とした農業地域とを中心とした初期条件の異なる調査地を対象に現地調査を行ない、④男子の教育不振の背景を社会経済及び教育を諸側面から探索的に分析と、解釈社会科学的に提示することを目指している。
    本研究は、教育経済学的な開発研究と、地域研究的なフィリピン教育研究を志向している。これは、最近の数少ない男子の教育に関する先行研究に貢献し、教育とジェンダーの協力分野に新たな価値の創出を図るものである。また、先行研究は農村貧困削減に果たす教育の役割を重視するものの、同時に求められるのは、むしろその教育を被説明変数とする視点である。

    A foremost aim of this research project is to explore the background and contingent conditions of the so-called reversed gender disparity favourable for girls/women in education in the Philippines from socioeconomic and development perspectives. This reversed gender disparity is uniquely typical in the Philippines, e.g., the Gender Parity Index by UNESCO shows the country is a top-level one on this tendency. When it comes to the topic of gender and education, or more broadly, of gender and development, the lens and affirmative actions to promote girl's education have so far been emphasized and boys have there been rather absent. However, these are not necessarily applicable to the Philippines, where the reversed gap has long persisted. Some literature on this issue has partly succeeded in rationalising the background or causality; at the same time, however, those findings in literature can be said common in other developing economies and therefore there is room to further persistently investigate on this intriguing problem in the Philippine context, which is potentially relevant to the girl-boy equal international human development policies. 
    For that aim sake, unlike some literature employing deductive approaches, this project is intentionally to employ exploratory/inductive approaches by gathering primary data to empirically analyse (as a visiting researcher, University of the Philippines for two years from January 2017), which are more common in area studies while few in economics (great exceptions in economics includes Townsend, R. 1995. "Financial Systems in Northern Thai Villages." Quarterly Journal of Economics 110, no. 4: pp. 1011-46, and its affected study, Sawada, Y., and M. Lokshin. 2009. "Obstacles to school progression in rural Pakistan: An analysis of gender and sibling rivalry using field survey data." Journal of Development Economics 88, no.2: pp.335-47, among others). In so doing, this project is expected to contribute to the recently emerging necessity of boy's development.

実施報告書・概要 (Summary of Final Report)

本研究の目的は,①途上国一般とは逆に女子より男子の教育水準が低いとされるフィリピンを対象に,②その「逆向きのジェンダーギャップ」が存在する背景を説明する枠組みを,現地調査を通じて探索的に構築することである。これまで,開発論のジェンダー分野では,女子教育振興が注目されてきておりこのことが今なお喫緊の課題であるが,近年は男子の問題もまた注目されようとしつつある。本研究は,男女間で男子が不平等だと各種指標で示されるフィリピンを対象とし,③主要先行研究が対象とした農業地域とを中心とした初期条件の異なる調査地を対象に現地調査を行ない,④男子の教育不振の背景を社会経済及び教育を諸側面から探索的に分析と,解釈社会科学的に提示することを目指している。その意味で本研究は,教育経済学的な開発研究と,地域研究的なフィリピン教育研究を志向している。
 現地調査は2017年8月から断続的に2018年3月まで,農村部としてミマロパ地方マリンドゥケ州の9村落を対象に実施された。パイロット調査では,現地の社会経済事情に加え,男児の「怠惰さ」を教育不振の背景に指摘する現地の声が聞かれ興味深かった。そこで,生活利用時間を調査しようと研究枠組みを定め,日記式の質問紙調査に基づく時間利用分析を行った。各種の日々の生活時間の男女間パターンを計量的に分析するものであり,その後の分析に一年以上を要した。
 分析の結果は,男子の教育不振は確かに子どもたち個人の観点で見れば,男女比較論として,男子の方が学習態度が定着せず,女子が宿題や復習に時間をよりかけている(その分,遊びなどの余暇に割く時間を抑えている,その意味では確かに「勤勉」と大人が呼ぶのも不自然ではない)のに比べて,その分,男子は遊びなどの余暇に多くの時間を割き,これが教育成果指標における男女差にも結び付いていると考えられる。しかし,基礎教育段階の子どもたちが,遊び時間により多くを使いたい,勉強や家事手伝いなどには時間を使いたくない,という行動パターンはある意味では自然なものでもある。本研究の分析結果は,それが母親の就労という社会経済的変数によって男女間で異なる反応を喚起しているという点がむしろ重要である。
 男女平等の問題をシーソーゲームのようにゼロサムゲームとして考えて,男子側,女子側,どちらに数値的な意味で就学不利の方向が移ったか,と考えるのではなく,男子側にその不利の方向が移ったようにみえる状況のもとで,その内実を慎重に検討していく必要性がある。本研究は,従来の女性に不利なジェンダー不平等とは一見して「逆向き」に見えるフィリピンを取り上げ,その内実は,男子に不利な方向に作用している領域と,それが女性にもネガティブな作用をもたらしうる複雑でダイナミックな関係とがあることを描き出すことができた。しかし,この種の状況をどのように是正していくか,あるいはそもそも是正していく必要があると考えるのか否か(放置してもよいという見方もあるかもしれない)については,研究助成の理念にある「価値」と隣り合わせの問題である。その国・地域の人びとがまずは自分たちの問題として,この問題を検討していく動きが加速することを期待したい。そして,さらには,国際協力・開発援助といった周辺諸国との協調関係のもとで,この問題をどのように理解し,どのようなジェンダー平等関係をその希求すべき「価値」に置くべきか,当研究プロジェクト自体は完了したいま,また新たに問われている気がしてならないと痛感する次第である。

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