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助成対象詳細

Details

2017 研究助成プログラム Research Grant Program   [ (B)個人研究助成   ]

受容とイノベーション―新しいもの好きな人が多い社会は、イノベーションに成功するのか?―
Receptivity and Innovation: Is the public's openness to novelty always conduvice to aggregate innovation? 

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

人々がより「新しいもの好き」であるほど、社会はより多くのイノベーションを生み出すことができる。一般に信じられている社会通念と言ってよい。「新しいもの好き」を「新しいアイディアに対する受容性」と言いかえれば、この種の見方は、専門家の間でもしばしば主張される。例えば、経済史家である米ノースウエスタン大ジョエル・モキール教授は、イノベーションには企業の研究開発能力に加えて、社会全体の「新しいアイディアに対する受容性」が必須と主張する。イノベーションは経済成長の源泉なので、受容性は経済の発展成長にとって欠かせない、などと言われることもある。
 しかし、最近のデータ分析によれば、人々の受容性と経済の関係は実際には複雑で、受容性が強すぎると、社会全体のイノベーションや所得水準をかえって低下させる可能性がある。「新しいもの好き」な気質が、必ずしも、技術や経済の発展に資するとは限らない。この一見通念と矛盾する結果を、どのように理解すべきか。この結果は、データ選択や分析手法に依存しない、強固な法則性を指し示すものか。本企画は、これらの問いに対し、経済学の手法を用いて定性・定量両面から解答を試みるものである。
 The public's receptivity to new ideas, or love for novelty, is often recognized as an important driver of innovation at the aggregate level. For example, Joel Mokyr, an influential economic historian at Northwestern, argues that the success of innovation requires not only the quality of inventive activities but also the "receptivity to new ideas" in the entire economy. Given that innovation is an essential engine for long-run economic growth, one may think receptivity is also pivotal to economic growth and development. 
 However, some recent empirical evidence indicates that there might be an inverted-U shaped relationship between receptivity and innovation, both as an individual propensity and as a macroeconomic phenomenon. That is, too much receptivity to novelty at the individual level could depress the level of innovation at the aggregate level. How robust is this empirical result to other relevant data sets or methods? Given that it is sufficiently robust, how can we offer a convincing economic explanation on this seemingly counterintuitive fact? The present research project intends to address these questions, by means of formal theoretical and empirical methods in economics.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

本企画から2つの研究成果が生まれた. どちらも本企画のテーマである「新しいもの好きな人が多い社会は、イノベーションに成功するのか?」という問いに経済学の立場から答えたものである.


 第一に, ゲノムデータから生成された国別の新奇性追求傾向指数を用いて, 因果関係にも配慮をしたクロスカントリー実証分析(統計分析)を行い, 新しいモノ好きな性質と(特許データで測った)イノベーション指数の間に負の関係があることをしめした. このことは, 新しいモノ好きな国ほど, イノベーション水準が低くなる傾向を示唆している. データの制約が厳しく, 統計分析上の問題点は少なからず残されてはいるが(論文中に記述済み), 「novelty (あたらしさ)に対する嗜好という」イノベーションのインセンティブに直結していると一般に「なんとなく」信じられている要因が, 現実にイノベーション活動・結果の活発さに寄与しているかを科学的に分析し, 1つのエビデンスを提示できた点は, 評価に値すると考えている. なおこの研究成果は, 査読付き国際的学術雑誌である Applied Economics Letters に掲載されている.

 第二の成果は, 第一の成果を理論サイドから補完するもので, なぜ, どのようなメカニズムによって, あたらしいモノ好きな国民性が経済全体のイノベーションを抑制しうるのかを, 経済理論的に考察したものである. 具体的に, ニューヨーク大学の経済学者Paul Romer (2018年ノーベル経済学賞)が1990年の論文 (Romer 1990)で提示した理論モデルをベースに, 消費者が商品の「新しさ」に対して選好・嗜好を持つという理論モデルのデザインを新たに考案した. モデル分析によって得られた結果は, 次のとおりである. 消費者の「あたらしいモノ好き」な資質が強いと, 新商品への需要は大きくなり, プロダクトイノベーションへの投資が膨らむ. しかし経済全体の研究資源は限られているため, それは同時にプロセスイノベーションへの投資を抑制することになる. 結果, 消費者の「あたらしいモノ好き」な性質は, イノベーション全体に対して, プラス・マイナス両方の力を有するので, 総合的な効果は必ずしもプラスにならない. 本論文において, 強すぎる「あたらしいモノ好き」な性質は, 弱すぎる場合と同じく, イノベーションをかえって低下させてしまうことが理論的に示された.

 さて, 本企画がたてた問い「新しいもの好きな人が多い社会は、イノベーションに成功するのか?」への答えは, いかなるものであろうか. 成果物の論文中で指摘している多くの留保をつけつつ, 「あまり多すぎるとかえってイノベーションは成功から遠のく?」とひとまずはいうことができるかもしれない。しかしながら, 現状の分析はデータの制約も厳しく, また理論分析も基本的なものに限られており, 完全からは程遠い. より精緻な結果を得るためには, 本企画が達成した第一のステップをさらに深化させるべく研究を続けていく必要がある.

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2017 研究助成プログラム Research Grant Program   【(B)個人研究助成  】
助成番号(Grant Number)
D17-R-0088
題目(Project Title)
受容とイノベーション―新しいもの好きな人が多い社会は、イノベーションに成功するのか?―
Receptivity and Innovation: Is the public's openness to novelty always conduvice to aggregate innovation? 
代表者名(Representative)
古川 雄一 / Yuichi Furukawa
代表者所属(Organization)
愛知大学
Aichi University
助成金額(Grant Amount)
1,400,000
リンク(Link)
活動地域(Area)