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助成対象詳細

Details

2017 研究助成プログラム Research Grant Program   [ (A)共同研究助成   ]

慢性の病い経験を捉える新しい概念生成に関する現象学的研究―治癒や管理とは異なる視座の開拓―
A Phenomenological Research Toward the Formation of New Concepts to Understand the Experience of Chronic Illness: A different perspective from medical cure or management

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

医療技術の革新的進歩は、致死的疾患の減少に貢献した。他方で、がんなど多くの疾患を慢性化させ、「治癒」とは異なる病いとの共生を生んだ。治療や生活を大きく変化させる新薬等の開発も続いており、正負両側面において先の見通しが立ちづらいのが現代の病い経験である。多様化・複雑化した経験は、既存の「治る/治らない」「病気/健康」という医療的管理の視点ではもはや捉えきれなくなっている。本研究では、現代の病いを生きる当事者の経験に接近し、その生き方そのものから経験を捉える新たな概念の生成を目指す。
 方法は、①がん・糖尿病等に関する国内外の文献、闘病記・ブログなど幅広いレビューを行う。②病院・居宅・患者会など多様な生活の場で、実践者という特徴を活かした参加観察を行う。③当事者との共同実践としてコミュニティカフェをともに企画・運営し、社会への発信の場を創る。④以上から得た質的データを現象学的に分析し、概念を生成する。
 本研究の成果は、①医療者に希求されている慢性病者を診る総合的な力を育てること、②より多くの人が慢性病者の生を理解し、多様性を受け入れる素地を創り、インクルーシブな職場や社会を築くことに寄与する。
 The progress of medical technologies has contributed to the decrease of lethal diseases. However, it has made a number of diseases such as cancers become chronic and has given rise to more people living with incurable illness which are different from "medical cure." New drugs and other technologies which may change treatments methods and people's lives are continually being developed. Thus an important feature of today's ill experience is that it is hard to foresee the future concerning possible (positive or negative) changes. We can no longer make sense of the diversified and complicated experiences from the existing perspective of medical management which divides them into "curable/incurable," or "disease/health." This study aims to form new concepts to grasp the way of living chronic illness through the approach of studying people with prevailing disease.
 Methods: (1) A wide range of review on literature, memoirs and blogs depicting ill people's lives. (2) Participant observation in various settings, such as hospitals, homes, and patient groups by making use of the researchers' backgrounds as practitioners. (3) Holding a community café as a collaboration with ill people and their families to set up a site for outreach and publicizing. (4) Concept formation through phenomenological analyses of qualitative data obtained from (1)-(3).
 The results will contribute in (1) to nurture the socially required comprehensive abilities for health care professionals to examine and care for chronic patients, and (2) to build inclusive workplaces and society by cultivating readiness for more people to understand the lives of the chronically ill and to accept their diversity.

実施報告書・概要

Summary of Final Report

1.プロジェクトの概要
本研究は現代の病いを生きる当事者の経験に接近し、その生き方そのものから経験を捉える新たな概念の生成を目指すプロジェクトである。
近年の医療革新による寿命の延伸やQOLの変化は、がんなど多くの疾患を慢性化して「治癒」とは異なる病いとの共生を生み、正負両側面において先の見通しが立ちづらい“現代の病い経験”をもたらしている。病い経験が長期化・個人化・複雑化・多様化してきたにもかかわらず、現代の医療は標準化されたEBPが主流となり、特に、慢性期医療では、そのギャップが医療者―患者間の溝を生み出している。
このような問題意識から、本研究では主に以下の調査研究から、既存の「治る/治らない」「病気/健康」という医療的管理の視点では捉えきれない、現代の病いを生きる当事者の経験を明らかにした。
(1)インタビュー調査
5年以上にわたって病いと暮らす人を対象に、個別インタビューを10名に実施した。研究参加者の疾患は精神疾患、がん、生活習慣病、難病など多岐に渡った。語りを現象学的に分析し、公開研究会で議論し、その成果を国内外の学会・学術誌で発表した。
(2)地域住民参加型のトークイベント『生き活きカフェ』プログラムの開発と実施
研究成果の一つとして「地域や職域で、病いと共に暮らすことへの理解を深め、多様性を受け入れ、垣根のない職場や社会を築く」ことを目標に掲げた。それを実現するため、地域住民の人々が集い病いについて話す『生き活きカフェ』プログラムを開発した。
プログラム時間は3時間としカフェ休憩を挟む2部構成とした。前半は慢性の病い経験者をゲストスピーカーとして招き、「私の病い経験」を語ってもらい質疑応答を実施した。後半は、『えんたくん』を参加者の腿に乗せテーブル兼記録用紙とし、病い経験についてワールドカフェ形式で参加者同士語り合う構成とした。記載された病いに関するフレーズは全て書き起こしデータとした。参加者は東京・大阪・オンラインの計5回開催で、20歳~80歳代の79名、記載された病いに関するフレーズは466あった。
終了後のアンケートから、他者のリアルな“病いとの共生”に触ることが、自らの経験を他者に開きつつその経験の意味を見出すことに繋がり、結果として参加者をエンパワーしていたことが確認された。
2.成果物
(1)論文・査読有
杉林稔・小林道太郎・坂井志織(2020).母であり看護師である女性が関節リウマチを患うこと, 臨床実践の現象学, 3(2) 15-27.
小林道太郎・杉林稔(2021).自閉症スペクトラム障害の現象学:目立たない特性を記述する試み, 総合病院精神医学,
(2)地域住民への成果の還元
研究成果が日常生活になじむように、『生き活きカフェ』の成果として日めくりカレンダー『病気と生きるって晴れ時々雨だよね』を作成した。カフェの開催地で住民に配布したり、医療機関に配布し、多くの人々の生活や治療の場に届くようにした。

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2017 研究助成プログラム Research Grant Program   【(A)共同研究助成  】
助成番号(Grant Number)
D17-R-0563
題目(Project Title)
慢性の病い経験を捉える新しい概念生成に関する現象学的研究―治癒や管理とは異なる視座の開拓―
A Phenomenological Research Toward the Formation of New Concepts to Understand the Experience of Chronic Illness: A different perspective from medical cure or management
代表者名(Representative)
坂井 志織 / Shiori Sakai
代表者所属(Organization)
首都大学東京大学院人間健康科学研究科
Graduate School of Human Health Sciences, Tokyo Metropolitan University
助成金額(Grant Amount)
5,300,000
リンク(Link)
活動地域(Area)